物価予想、株価予想、戦争の停戦予想など「専門家」の予想が当たらいない理由
物価予想、株価予想、戦争の停戦予想など「専門家」の予想が当たらいない理由
「専門家」が予想を外す理由
物価予想、株価予想、戦争の停戦予想など、未来に関する専門家の発言は、しばしば大きな注目を集めます。しかし現実には、専門家の予測が外れることは珍しくありません。むしろ、「専門家の予測は当たらない」という認識が一般化していると言ってもよいほどです。
では、なぜ専門家は未来予測を誤るのでしょうか。
そこには、3つの大きな要因があります。
1)専門家と呼ばれる人が「予想に適して専門家」ではない。
2)専門家には、「知識の錯覚効果」が生じることがある。
3)専門分野だけの世界しか見えない「視野の狭窄」がある。
これらのことを考慮して、「専門家」の予想を鵜呑みにせず、自分なりの予想を組み立てていくことが重要です。
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専門家として呼ばれる人が「予測に適した専門家」ではない
専門家の予想が当たらない1つの理由は、「専門家」としてメディアに登場する人物が、そもそも未来予測に適した専門家ではないという構造的問題があります。例えば、
1)経済学者は「経済の仕組み」を研究する専門家であって、物価や株価の短期予測を当てる専門家ではありません。
2)証券会社の社員は「投資家」ではなく、顧客対応や商品説明のプロであって、相場予測のプロではありません。
3)名誉教授は「過去の研究実績を評価された人」であり、現役で最新データを分析している研究者とは限らない
というように、「専門家」という肩書きが、未来予測の能力を保証しているわけではないのです。
また、メディアが求める「語りの上手さ」と予測能力は一致しません。テレビや新聞が求めるのは、分かりやすく、自信を持って、断定的に語れる人です。しかし、未来予測においては、不確実性を前提にし、複数のシナリオを提示し、断定を避けるという姿勢が、どうしても必要です。
その結果、「予測が当たりやすい人」よりも「話が上手く、断定的に語れる人」が専門家として選ばれやすいということになります。
「専門家」の予想を受け止める際、その専門化が、どんば専門家か、どれだけ最新の情報と接しているか等を考慮することで、予想の信憑性を判断する参考になります。
未来は、確率的に予想されるものです。つまり、
「雨が降る確率は、40%」
といったことです。もし、
「絶対にこうなる」
なんて言う専門家がいたら、たぶん占い師や宗教的な予言者ということになります。
専門家に生じる「知識の錯覚効果」
第2の理由は、専門家が持つ豊富な知識が、逆に予測を妨げるという逆説的な現象です。
知識が多いほど、予測を複雑化する
専門家は膨大な情報を知っています。そのため、未来予測を行う際に、
1)多数の要因を考慮しすぎる
2)複雑なモデルを組み立てすぎる
3)単純な事実を見落とす
ということが起こりやすくなります。例えば、株価であれば、
「上がり過ぎたものは下がる」
という単純な均衡回帰の原理があります。しかし専門家は、金利、為替、地政学リスク、企業業績、投資家心理、流動性、マクロ経済指標、政策期待、海外市場の動向など、あまりに多くの要因を同時に考えようとします。その結果、「単純な真理」が見えなくなるのです。
「知識の錯覚効果」
心理学では、専門家が陥りやすい現象として
「知識の錯覚(illusion of knowledge)」
が知られています。これは、
1)知識が多いほど、自分の理解度を過大評価しやすい
2)情報量が多いほど、予測の精度が高まると錯覚しやすい
という傾向です。しかし実際には、未来予測においては
「情報量の多さ」と「予測精度」は必ずしも比例しません。
むしろ、情報が多すぎることで、ノイズに振り回される、重要なシグナルを見落とす、複雑な説明を好むようになるという弊害が生じます。
専門家ほど「説明の整合性」を重視する
専門家は、予測が外れたときに、「なぜ外れたのか」を説明する責任を負います。
そのため、予測の段階から、
1)説明しやすい理屈
2)学問的に整合性のある理屈
3)聴衆に納得されやすい理屈
を優先してしまいがちです。
しかし、未来は必ずしも「整合的な理屈」で動くわけではありません。むしろ、単純で非線形な動きをすることが多いものです。
株価や金利の1年後予想など長期的トレンド予想は、専門家の分析は正確です。しかし、今日明日といった短期的な動きは、株主心理など市場の感覚の方が強い影響力を持っています。どんな状況でも、下がり過ぎた株は上がります。上がり過ぎた株は、下がるものです。
専門分野だけの世界しか見えない「視野の狭窄」
第3の理由は、専門家が自分の専門領域の常識に縛られ、他分野の視点を取り入れられないという問題です。
専門家は「専門領域の常識」に支配される
例えば、法律家は「法的安定性」を重視します。経済学者は「合理的行動」を前提にしていますし、マスコミ関係者は「視聴者の目線」を優先します。同世代ばかりの世界では「世代の常識」が基準になるというように、専門家は自分の世界の常識を基準に判断しがちです。
しかし、未来予測においては、他分野の視点、異なる価値観、異なる世代の行動原理、異文化の意思決定などを理解しなければ、正確な予測はできません。
イランや北朝鮮の行動が、しばしば西側の価値観と違うことを見落とす「専門家」の予想は、よく経験するところです。
「専門家の世界」はしばしば閉じている
専門家の世界は、しばしば閉鎖的です。同じ学会、同じ業界、同じ価値観、同じ情報源、同じ思考様式の中で議論が行われるため、外部の視点が入りにくい構造になっています。
その結果、新しい現象を過小評価する、異質な意見を排除する、自分たちの常識を絶対視するという傾向が強まります。
その結果、「専門家の常識」が一般社会の常識とズレるということが生じます。
たとえば、法律家の世界では、「法的に正しいかどうか」が最重要ですが、一般社会では、「人々がどう感じるか」「政治的にどう動くか」が重要です。
経済学者の世界では、「合理的な選択」が前提ですが、実際の人間は、「感情」「損失回避」「同調圧力」に大きく左右されます。(だから行動経済学が生まれました。)
このように、専門家の常識と現実の行動原理がズレているため、予測が外れます。
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まとめ
専門家の予測が外れる理由は主に3つあります。
1)専門家として呼ばれる人が、予測に適した専門家ではない
2)知識が多すぎることで、予測を複雑化しすぎる(知識の錯覚効果)
3)専門分野の常識に縛られ、視野が狭くなる(視野の狭窄)
これらは、専門家個人の能力不足ではなく、構造的に生じる問題です。「専門家」の予想を鵜呑みにせず、自分なりの予想を組み立てていくことが重要です。
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