ギャンブルだけではない! 「やめられない」原因、「予想、実行、的中、快感」という脳の働き
「やめられない」原因、「予想、実行、的中、快感」という脳のメカニズム
「予想、実行、的中、快感」という脳のメカニズム
人が不確実なものを前にして、「予想」をたてて「実行」し、それが「的中」すると無類の喜び(快感)を感じます。競馬、競輪などのギャンブルは、その典型です。ギャンブルでなくてもビデオゲームでは、主人公が敵の動きを予想して繰り出した技や武器で相手を倒すと、快感が得られます。株式投資やFX投資も同様に、値上がりや値下がりを「予想」し、投資して「的中」すると、金銭的な報酬と同時に「快感」が得られます。
人が、何かに夢中になり、止まらなくなるのは、「予想、実行、的中、快感」のメカニズムが働いているからです。
よくギャンブル依存症について、
「負けが込んできて、更に掛金を増やし、やめられなくなる」
といった説明がなされます。それは、結果であって、脳科学的には、
「脳が、予想を的中させたときの快感を求めるから」
と解釈することができます。ギャンブルは、「負けるからやめられなくなる」だけではなく、「勝ち続けていてもやめる」ことができません。結局、賭けは主催者が終了を宣言する(競馬や競輪では、最終レース)まで続くということになりがちです。
ややこしいのは、脳が「的中」から得られる快感を一度も経験していなくても、「的中」した時の快感を想像して、予想と実行を繰り返すということです。例えば、宝くじで1等に当たったことがないのに買い続ける。クレーンゲームの前で、何度も挑戦するといったことです。脳というものは、体験しなくても、想像だけで「快感」を得てしまい、それを求めるということが起きうるのです。
「予想、実行、的中、快感」というメカニズムをうまく使えば、様々なことに対して、努力を継続する力になります。一方、ギャンブルといったことに働くと「〇〇依存症」というネガィブな面が現れます。「予想、実行、的中、快感」というメカニズムをうまく利用するためには、
① 継続力は、「予想、実行、的中、快感」の繰り返しである
② 依存症から離脱するには、物理的力が必要
という2つのポイントを理解することです。
広告
誤解だらけの「ギャンブル依存症」;当事者に向き合う支援のすすめ
「予想、的中」から得られる快感とは
人が「予想、実行、的中」というプロセスを好む、言い換えるとギャンブルを好むのには、心理学的な理由があります。
1)報酬系の活性化
ギャンブル的行為は、報酬系を活性化させます。報酬系は、喜びや快楽を感じる際に関与する脳の領域であり、予想が的中したときに報酬系が活性化し、快感を得ることができます。
2)不確実性への興奮
予想は、必ずしも的中するものではなく、不確実性を含んでいます。人は不確実性に興奮を感じる傾向があります。脳は予測不可能な出来事や不確実な状況に対する興奮を好みます。
3)期待値の錯覚
「予想、実行」する際、 的中したときの期待値の錯覚がうまれることがあります。期待値の錯覚とは、的中時にもたらされる報酬や利益を過大評価する傾向のことです。つまり、実際の勝利の確率や期待される損失よりも高い報酬を期待し、ギャンブル的行為が魅力的に感じられます。
ただし、人によってこれらの感覚は、強弱があり「ギャンブル依存症」になり易い、なりにくいといったことが生まれます。
継続力は、「予想、実行、的中、快感」の繰り返し
金銭的な報酬によって、モチベーションを上げ物事を継続する力になります。しかし、ある程度の物理的満足感が得られると「もういい」とか「やめる」と思いたくなります。いわゆる「ハングリー精神」は、ある程度の成功が得られると継続の力になりません。これに対して、「予想、実行、的中、快感」のメカニズムは、継続する力になり易いものです。多くの一流と言われるプロスポーツ選手は、高額の報酬を得られてもなお高みを狙って努力を重ねるのは、このメカニズムが生きているからと思えます。
元プロ野球選手であった王貞治氏に対し、それまでの世界記録だったハンク・アーロンの755本という記録を抜いたあともホームランを打ち続けることに対して、インタビューをしています。インタビューで、
「ハンク・アーロンの記録を抜いても、ホームランを打つことへのモチベーションが下がらないのはなぜですか?」
との質問に対して、
「もっとうまく打てるようになりたいと思っています。だから、毎打席考え、工夫しながら打っています。」
との主旨のことを言っています。王貞治氏は、毎打席「予想と実行」を繰り返し、ホームランという「的中」を味わい続けて、生涯868本の世界記録をつくることになったのかも知れません。
ギャンブル依存を離脱できるのは物理的力
「予想、実行、的中、快感」のサイクルを断ち切るのは、物理的なものです。例えば、競馬や競輪などのレースは、1日のレース数が決まっています。手元資金で投資をするにしても、信用取引で投資するにしても、限度額があります。
ところが、ネットなどを通して行うギャンブルには、時間制限がありません。また、手元資金が無限にある状況も同じです。例えば、大リーグの大谷翔平選手の通訳だった水谷一平が2024年に引き起こした多額のギャンブル問題は、「賭けの対象に終わりがない」、「賭け金が他人の口座から引き出せて限度がない」という状況で発生しています。
ギャンブル依存症からの離脱プログラムは、他人という外部の力によって、ギャンブルができないとう状態を作り出すことから始められます。
先の例に挙げた王貞治氏が、引退を表明したのは、1980年11月4日です。その時、引退した理由を訊かれ、
「口はばったい言い方だが、王貞治としてのバッティングができなくなったからです」
と答えています。王は引退を決意した瞬間について、
「その年の後楽園球場での中日との試合で、先発した戸田君の球がものすごく速く見えた。前の自分なら打てるはずの球が打てなくなったので、『ああ、俺ももう御仕舞いかなあ…』と思った」
とも語っています。脳が「もっとうまくなりたい」と思っても肉体的に限界がきたことで、王選手の「継続」が止まることになったと考えることもできます。
まとめ
「予想、実行、的中、快感」というメカニズムをうまく使えば、様々なことに対して、努力を継続する力になります。一方、ギャンブルといった方法に使われると「〇〇依存症」というネガィブな面が現れます。
「予想、実行、的中、快感」というメカニズムをうまく利用するためには、
① 継続力は、「予想、実行、的中、快感」の繰り返しである
② 依存症から離脱するには、物理的力が必要
という2つのポイントを理解することです。