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使い方から考える、役に立つマニュアル(作業標準)の作り方

2023/05/02
 
マニュアルの利用法のイラスト
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

使い方から考える、役に立つマニュアル(作業標準)の作り方

 

作っただけで、使われないマニュアル(作業標準)

自職場には、作業の手順、やり方、要点、安全の注意などを書いた「マニュアル」はありますか。
「マニュアル」は、職場により「作業標準」「作業手順書」等、様々な呼び方がされています。更に、階層を設け、上位には「技術標準」等がある職場もあります。日本の製造工場では、よく整備されたマニュアルが作られています。
ところが、せっかく手間と時間をかけて作成されたマニュアルですが、有効に利用されていない職場があるのも現実です。一度作成されたマニュアルが、その後読まれることもなく、3年毎の確認印だけが増えている職場があります。マニュアルが、そんな「飾り物」になるのは、使用する目的を意識して作られていないからです。
本来、マニュアルは、作業を標準化し、その方法を記したものです。標準化は、人による作業のバラつきをなくし、再現性を高めます。その結果、品質や工期のバラつきをなくすことができます。
車を運転するには、マニュアル(取扱説明書=トリセツ)を読んで、最低限の操作方法を理解すれば、運転できます。いや、基本的な運転方法は、共通ですのでマニュアルを読まなくても運転できます。車の購入時にトリセツを読んでも、その後読みかえす人は、ほとんどいません。マニュアルを読まなければ、車の運転は出来ても、車についている様々な機能を使うことがなく、もったいないことをしているかも知れません。あるいは、故障の原因を作ってしまっているかも知れません。職場のマニュアルもこんな状況には、したくないものです。
職場のマニュアル(作業標準)を読まなくても、見様見真似で一度仕事を覚えれば、その後作業はできます。しかし、トリセツを読まずに車を使っているようなもので、より仕事に対する理解、非常時の対応などを知らずに過ごすことになります。職場のマニュアルを読まないのは、それを購入商品についてくるトリセツと同じようにしか見ていないからです。職場のマニュアルは、車のトリセツ以上にいろいろなことが詰まっており、様々な使い方ができます。以下に主な使い方を挙げます。
1)新人や配転者等への教育資料
2)「久しぶり」業務の作業方法確認
3)作業条件・方法を改善する
4)対外的に作業の質を証明する
5)日常作業のブレを防ぐ
マニュアルの様々な使い方を想定すると、おのずとその作り方が変わります。職場のマニュアルを「飾り物」にしないために、利用法を意識した形、内容にしていきたいものです。

新人や配転者等への教育資料

新人や配転者に仕事を覚えるには、教育が必要です。
「そこにいて、先輩の仕事をみておけ」
といった教育では、仕事を覚えるのに時間がかかり過ぎます。また、仕事を自分勝手に解釈し、間違った理解することもあるかも知れません。
「やってみて、わからなかったら聞いてくれ」
という教育もあります。新人にしてみれば、
質問さえ浮かばない」
「先輩の仕事を邪魔するようで、質問できない」
ということになります。
そこで、仕事を覚えるための教育資料が必要になります。この教育資料にマニュアルが使えます。
ある製鉄所の冷間圧延工場での例です。配属されてきた新入社員A君に対して、職場の班長が、
「この作業標準(マニュアル)を読みなさい」
こう言って渡されたのが、厚さ5センチのA4ファイル3冊でした。
「仕事のことは、すべてそこに書いてある。」
ファイルを開いてみると、中には、作業毎に5~10頁ほどで作業手順が書いてあります。これが、100作業分ほどあり、通常作業の他に、メンテナンス方法、異常時の処置なども載っています。
次に班長は、A君を作業現場に連れて行き、今先輩社員達がしている作業が書いてある頁を示しました。それから1か月間、A君はマニュアルと実際の作業を比較して学んでいきました。ベテランの班長に言わせると、マニュアルと実際の作業とを比較しながら学ばせる方が、教える方は楽であるとのこと。また、新人の方も座学だけ、見学だけより何倍も速く仕事を覚えていくとのことです。最近は、新人にマニュアルと作らせることもしているとのことです。
マニュアルによる教育は、単に仕事を覚えるにとどまらず、マニュアルの意味、とりわけ標準化の重要性を教えることができます。
室町時代初期、世阿弥という一世を風靡した能楽師がいました。彼は、「風姿花伝」という本を書いています。これは、役者になるためのマニュアルのようなものです。伝統芸能そのものである能楽も、「見て盗んで覚えろ」ではなく、「風姿花伝」というマニュアルで弟子を育成する方が、効果があると考えていたようで興味深いものがあります。

「久しぶり」業務の作業方法確認

職場で、「久しぶり」にする仕事は、2種類あります。
1)定常作業
定常作業で「久しぶり」業務とは、前回やった仕事から日数が経っている場合です。例えば、「前回の受注から1年以上経過している」といった仕事です。他にも、初めての注文を頂いた客様の仕事、「お客様の担当者が、前回から代わった」といった状況です。こんな「久しぶり」の仕事を行う際、マニュアルを確認して、作業ミスを防止します。
2)非定常作業
非定常作業での「久しぶり」業務とは、設備メンテナンス、設備故障や事故の復旧作業、災害時の対応などの仕事です。そもそも、非定常時作業までマニュアルにできていない職場もありますが、非定常作業こそマニュアルを作成すべきです。マニュアルがあれば、作業前や作業中にそれを読み、手元においての作業ができます。
また、重要なポイントは、非定常作業において、作業中において起きた問題点をマニュアルにメモしておくことです。マニュアルのおかけで、その人にとって初めての仕事でも、うまく作業をすることができます。たとえ、マニュアルの記述が不十分であったり、間違っていたりすることが発見されることがあっても、一連の作業が終了後、反省をしてマニュアルに修正・加筆をしておくことです。修正・加筆されたマニュアルは、その後役に立ちます。また、スマホなどで写真や動画を残しておき、マニュアルに加えることも見やすい内容にしてくれます。

 

作業条件・方法を改善する

作業の効率化、製品品質の向上を図ろうとするとき、現状の仕事の分析から始まります。このとき、マニュアルが役に立ちます。もし、作業のマニュアルがなければ、そもそも標準化が出来ていない可能性があります。マニュアルを作るだけでも、必ず作業の標準化、改善になるはずです。
ある会社のマニュアルには、作業の標準時間が記載されていました。標準時間は、ベテラン社員が、普通に作業をした時の所要時間です。実際の作業を観察すると、標準時間内で仕事が終わらない社員が多くいます。そこから、ベテランと仕事の遅い社員との差を見つけ、作業改善方法や教育訓練ポイントを見つけたことがあります。
新しい作業方法に変更したとき、新設備を導入したとき、マニュアルを新作もしくは更新する必要があります。マニュアルを新作・更新して初めて、作業方法の変更、新設備導入が終了したことになります。
マニュアルを作るということは、仕事を標準化したことになります。標準化した仕事は、他の人、他の部署でも同様なやり方を展開できる可能性があります。ある職場で作ったマニュアルを、他の職場にも適用し、作業改善をすることができます。
例えば、ある職場の材料管理方法、ゴミの捨て方などは、他の職場でもそのまま使えます。

 対外的に作業の質を証明する

ISO9001などの認証審査、仕事の発注元からの品質監査等で、マニュアルの提示を求められます。
認証機関や発注元の企業は、必ずしも立派なマニュアルを望んでいるわけではないのですが、審査官(監査員)の目を気にしたマニュアルになっていることがあります。結果、
「中身の薄い、分厚いマニュアル」
が、誕生してしまいます。審査官の求めるマニュアルは、
「どうやって品質保証をしているか」
ということが分かるマニュアルです。具体的には、
1)誰が、いつ作業しても同じ品質の製品ができる
2)製品の品質や作業データに間違いや不正が生まれない
3)納期を守れる体制になっている
といったことが、証明できる内容であることが重要です。
ある職場のマニュアルを見ると、
「異常時は、上司に連絡・相談すること」
といった調子で、「○○時は、××に相談」との記述のオンパレードでした。体裁は整っているマニュアルですが、「中身のないマニュアル」とでも言いたくなるしろものです。
外部の目に耐えるマニュアルとは、内容が客観的な目に耐えうるということです。


[2015年改訂対応] 中小企業のためのISO 9001内部監査指摘ノウハウ集

日常作業のブレを防ぐ

車のマニュアル(取扱説明書)を見ながら運転することはありません。同様に、職場において、マニュアルを見ながら作業をすることは、まずありません。やり方、設備の操作方法が頭に入っているからです。ところが、長い間そうやって仕事をしているうちに、マニュアルより効率いい方法で作業をしていたり、「手抜き」と言われるような、安全や品質を軽視した作業になっていたりということがあります。
1999年9月に起きた「東海村JCO臨界事故」は、マニュアルを無視した作業をして2名の死亡者を出した事故です。この事故は、ウラン化合物を扱うにあたり、マニュアルには、「少量ずつ溶解塔を使用して行うこと」とあるのに、効率を重視して大量の溶液をバケツで作業したことが原因でした。この結果、ウラン化合物が、核反応を起こし作業員が放射線被ばくをする事態に陥りました。
ある機械工場の職場のリーダーは、毎日作業前のミーテングで、部下にマニュアルを読み上げさせていました。ほんの数行分ですが、部下はマニュアルに毎日接することで、自分達のしている作業がマニュアルに合っているかを確認しています。また同時に、作業の意味を理解する機会を得ています。ある若手社員が、
「このマニュアルに書いてあるやり方は、かったるいのでやり方を変えましょう。」
と言ったことがありました。これを聞いた班長は、
「効率の点では良い提案だが、安全上問題があるので、こうなっている」
と対応しました。その社員は、なぜそんな面倒なやり方をしているのか、理由を知らなかったのです。よくマニュアルを読むと、その理由も書いてありました。JOCの臨界事故は、作業員が「なぜ少量ずつ溶解塔で処理しなくはならないかの理由」を理解していなかったことにあります。安全上とか、法律上の理由でそんな(面倒な)作業法をしていることが、もしマニュアルに書いてあれば、より理解が深まります。

まとめ

マニュアル(作業標準等)の主な使い方には、以下のようなものがあります。
1)新人や配転者等への教育資料
2)「久しぶり」業務の作業方法確認
3)作業条件・方法を改善する
4)対外的に作業の質を証明する
5)日常作業のブレを防ぐ
マニュアいルの様々な使方を想定すると、おのずとその作り方が変わります。職場のマニュアルを「飾り物」にしないために、利用法を意識した形、内容にしていきたいものです。

参考記事:「読む気がしない」「読んでもわからない」トリセツを動画化すればスッキリわかる

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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。
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