理想の「是々非々(ぜぜひひ)主義」が、必ずしもうまく行かない理由
理想の「是々非々(ぜぜひひ)主義」が、必ずしもうまく行かない理由
「是々非々(ぜぜひひ)主義」が起こす代表的3つの問題
野党の党首が、
「与党案について、何でも反対ではなく、『是々非々』で対応してまいります。」
と記者会見で話す場面がありました。特に与野党の議席数が拮抗していたり、現在(2024年11月)のように少数与党であったりすれば、「是々非々主義」は与党に対して大きなプレッシャーとなります。
また、企業においても組合の各種要求、取引先の要求、社員の提案などに対して、
「会社(社長)として、『是々非々』で対処します」
といった言葉で対応することがあります。
「是々非々」(ぜぜひひ)とは、良いは良い、悪いことは悪いと公平な立場で判断することです。(小学館 デジタル大辞泉より)「是」には「道理にかなっていること。良いこと。正しいこと」という意味が、「非」には「道理にあわないこと。良くないこと。正しくないこと」いう意味があります。この「是」と「非」で構成された是々非々は、正しいことと正しくないことを見極めて、客観的に判断するという意味を表します。
是々非々主義は原則として素晴らしい理念ですが、その場だけの言葉になり、実行も含めて貫き通すのは、容易ではありません。
「是々非々主義」の起こす代表的な問題が以下の3つです。
1)支持基盤の不安定化
2)信頼関係の崩壊
3)スピート感の欠如
このような問題が発生したとき、対策をこれまた「是々非々」で対応していると、周囲から「一貫性がない」「優柔不断」と批判され、信頼を失うことになります。
支持母体の不安定化
政治家であれ、社長であれ、政党や会社といった指示母体があります。更にその母体を支える指示者や社員がいます。政治家や社長が、「是々非々主義」を貫こうとする場合、党派や自社に関係なく合理的判断をするということです。この場合、支持母体に属している人達が、政治家や社長の意見に賛成していないことがあります。政治家や社長に判断を任せていることが原則ではありますが、不満が蓄積し支持母体の不安定化を招くことになる可能性があります。
例えば、野党党首が与党案に対して「是々非々」で合理的に判断しようとした場合、その政党の支持者には、
「この党首(政党)は、自分達の利益を守ってくれない」
との思いが出る可能性があります。
また、地方区選出の議員が、是々非々で「地元の道路整備より、首都圏のインフラ整備が重要」という判断をし続ければ、いくら国全体の利益が優先と言っても地方の支持基盤を失い選挙で落選することが懸念されるかも知れません。
企業の社長であれば、取引先や競合と過度に連携を強めることで従業員の不満が溜まりかねません。
信頼関係の崩壊
政治家や経営者が、政策や経営において、「是々非々主義」を貫き、合理的な判断を続けるとき、政党や支持者や従業員に対して、その判断理由を明確に説明する必要があります。もし、説明が不十分で支持者や従業員が理解できなければ
「判断に一貫性がない」
と思われ、信頼関係を損ねる可能性があります。
例えば、会社の人事評価などにおいて、公平さを重視するあまり、個々の事情や努力が軽視されたと社員が思えば、
「自分は尊重されていない」
といった感情が生まれ、モチベーションが低下します。
政治に世界では、与党の増税政策に賛成した野党議員が、その後の選挙で「裏切り者」と非難されて苦戦するといったことが起きます。
スピート感の欠如
「是々非々主義」は、物事をあらゆる角度から評価して意思決定を行うため、決定が遅れることがあります。
政治的な判断では、社会情勢や国際情勢の変化に対応することが求められます。唯でさえ対応が遅いと言われている日本の政治が、更に遅くなることになります。ビジネスにおいて、スピード感を失うことが、致命的な競争力低下となることは明白です。
「是々非々」に拘るために、多くの人に意見を聞き、調整して判断するというプロセスが必要であるとすれば、時間がかかること自体が「非」を作りだしています。是々非々といっても「正解」を求めるのではなく、「確からしい決定」が必要な場合があります。
「是々非々」といってもスピート感を失わないためには、判断の原則が必要です。例えば、「低所得者の税負担軽減」といった政策を実行しようとすると、財源としての「国債発行」がついて回ります。こんな2つの相反するような問題に対して、どちらも「是々非々」でいうことはできません。国債発行を制限することなく「低所得者の税負担軽減」を優先するといった原則が必要です。
まとめ
「是々非々」(ぜぜひひ)とは、良いは良い、悪いことは悪いと公平な立場で判断することです。しかし、「是々非々主義」に固執すると以下のような問題が発生し易くなります。
1)支持基盤の不安定化
2)信頼関係の崩壊
3)スピート感の欠如
このような問題が発生したとき、対策をこれまた「是々非々」で対応していると、周囲から「一貫性がない」「優柔不断」と批判され、信頼を失うことになります。
参考記事:「結果論」で責められた時の対処法を結果論のメリットとデメリットから考える
「ドンマイ」と言いながら、部下のミスや失敗を冷静に見ているリーダー