日本経済を低迷させる「極端に低い消費マインド」に陥った3つの原因
日本経済を低迷させる「極端に低い消費マインド」に陥った3つの原因
日本経済を低迷させる「極端に低い消費マインド」に陥った3つの原因
日本経済が、長期に渡って低迷し、円安の影響があるにせよGDPはドイツに抜かれて3位。一人当たりのGDPは、21位でG7最下位ということが伝えられています。日本は、この30年間、ほとんどGDPが伸びず、個人所得が増えていません。GDPが伸びない大きな原因は、GDPの60%を占める個人消費が伸びないことです。(参考:朝日新聞デジタル「1人あたりの名目GDP日本は21位 イタリアに抜かれG7最下位に」)
政府は、コロナ対策として2020年5、6月に一人当たり10万円を支給し、消費の拡大を期待しました。しかし、その年の年末までに使われたのは、一人あたり僅か1万円だったと言われています。(参考:NHK「10万円の給付 実際に使ったのは1万円? 証券会社が試算」)
ギリギリの生活を強いられている人にとっては、ありがたい10万円であったのでしょうが、全体でみると多くの金が預貯金に回り、消費を喚起することには、成功しませんでした。実際、コロナ流行期間中も、個人の金融資産は増加し続けています。(参考:内閣府「新型コロナウイルス感染症下における家計の貯蓄と消費」)
日本全体でみると消費しようとする気持ち(消費マインド)が、冷え込んでいます。現に国から現金を支給されても
「特に買いたいモノがない」
「とりあえずは、使わなくても済む」
といった声が聞かれました。若者も昔のように車やファッションに金を使うことが減ってしまったようです。
個人消費のマインドが低いことは、今や日本の経済にとって最大の弱点と言ってもいいかも知れません。各企業から見れば、個人の消費マインドが低いということは、モノやサービスが簡単には売れないということです。
近年の経済学は、「行動経済学」と呼ばれる、心理学の要素を取り込んだ経済学が大きな力を持っています。米国発の行動経済学は、欧米人の心理を取り込んで社会現象や個人の消費行動をうまく説明しています。しかし、日本の経済に行動経済学を適用しようとすると、日本人特有の「将来に対する不安の気持ちが強い」、「同調圧力強い」などを原因とする個人消費のマインドの低さに注目する必要があります。他国で実績を上げた、金利を下げる、補助金をばら撒くなどの景気対策では、日本経済は活性化しませんでした。日本人の消費マインドを上げる、低い消費マインドにあった商売をすることが行政や企業に求められています。
ところで、日本人の消費マインドの低さの原因には、以下のようなものが挙げられます。
1)将来に対する不安
2)デフレマインドが定着
3)社会的圧力と同調圧力
自社の商品(モノやサービス)を売ろうとするなら、この3つの壁を突破して消費マインドを上げることが必要です。政府行政が行う経済対策は、国民の消費マインド高める政策が含まれていなければ、成果を得ることは難しいと言えます。
この記事、日本経済低迷の大きな原因である消費マインドの低さの原因について考えます。
将来に対する不安
日本人の消費マインドの低さを「将来に対する不安」を原因として挙げている本やマスコミ記事が多いようです。(例えば、大前研一著「低欲望社会」小学館)
「給料が安い。将来上がる見込みがない」
「子供が大きくなるにつれ、教育費がかかる」
「年金が少ない。将来もらえるか不安」
等々、人々の心は「将来に対する不安」で一杯です。「将来の不安があるから、モノを買わない」との説明には納得力があります。日本で、生命保険を掛ける人が多いのは、「将来に対する不安」をうまく利用しているからかも知れません。
一般に日本人は、リスクを避ける傾向が強い人が多いようです。そんな人々には、行動経済学的にいう「損失回避の原則」が働いています。つまり、利益より損失の方を重視する傾向です。日本人が、金融資産の多くをほとんど利子が付かない預貯金に回すのは、元金割れを恐れるからでしょうか。(国は、新NISAなど努力を始めましたが)
高額な買い物(不動産や高級車など)は「将来に対する不安」が、消費マインドにブレーキを掛けていることは、十分考えられます。しかし、消費マインドを下げている要因は、「将来に対する不安」だけとも考えにくいと感じます。
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デフレマインドが定着
日本では、この30年ほど物価上昇がなく、むしろデフレ状態が続いていました。インフレ時にあるような、
「今買わないと価格が上がる」
といった状況から程遠いものです。バブル期までは、不動産屋は、
「来年は、この値段では買えませんよ」
とよく言ったものです。しかし、近年はデフレで「買い急ぐ」必要がありませんでした。最近はコロナやウクライナ戦争の影響で、海外のエネルギーや原材料価格高騰が日本にも影響して物価が上がっていますが、人々の心には依然としてデフレマインドが定着したままです。
日本のインフレ期や海外のインフレを経験した者からすると、2、3%の物価上昇で、
「物価高騰、消費者を直撃!」
などと報道するマスコミは、「デフレマインドに侵されている」と感じます。
ある会社の法人向け営業をしている50代の社員が、
「入社以来30年営業をしていますが、お客様に値上げを申し入れたのは、これが初めてです」
と大真面目に話したのが印象的でした。この営業マンは、値下げ営業しかしたことがなかったのです。
この30年間、ファーストフード、格安専門店、100円ショップなど、低価格戦略の店が流行っています。スーパーやドラックストア、各種専門店は、
「本日、ポイント5倍」
といった特売日が度々設定され、消費者は「安い時に安いところからしか買わない」ことが当たり前になっています。
デフレマインドの定着で、消費の基準が価格になってしまい、「安くなければ買わない」、「買い急がない」ということが習慣になっています。この結果、低い消費マインドが形成されたと推測できます。
社会的圧力と同調圧力
一般的に日本人の言動は、社会の価値観や慣習に影響されがちです。一種の社会的圧力に弱いのです。また、他者の言動に同調しようとする傾向が強く働いています。(同調圧力)簡単に言えば、
「皆が買わないから、買わない」
「皆が持っているから、持ちたい」
といった現象です。この特性は、新しい消費行動やライフスタイルを取り入れることに抵抗があることを示しています。
世間がどんな行動をしているか、周りの人がどう考えているかは、クチコミもありますが、マスコミやSNSの伝える内容が、大きく影響しています。
マスコミに取り上げられた途端、爆発的に売れた商品は沢山あります。逆に、モノやサービスのリスクを報道されることで利用や売上が抑制されています。
クレジットカードの詐欺や株やFXなど金融商品のリスクを強調する報道が、消費マインドを下げることになっています。
消費マインドを向上させるためには、良い情報が必要です。マスコミやSNSでは、どうしても消費に伴うリスクに偏った情報になりがちです。一方、供給者側は、メリットばかりの情報提供(広告)になりがちです。情報の公平性、透明性を向上させることで、消費者はより合理的な選択をすることが期待できます。
消費マインドを高めるには、「皆が買わないから買わない」という行動パターンを「皆が買うから買う」という行動パターンにすることが有効です。
消費行動の2つの目的
モノやサービス(商品)を買うという消費行動は、2つの目的があります。
1)商品を買うことで買い手の問題を解決する。(「必要だから買う」)
2)特別な体験をするために商品を買う。(「買いたいから買う」)
消費マインドが低いということは、「必要なものしか買わない」という心理が支配しているということです。
極論すれば、
「食事は、生きるためのカロリーさえあればいい」
「家は、寝るスペースさえあればいい」
と考える人々が増えたのでしょうか。
「自分の生活を豊かにする」
「自分の成りたいものに成る」
といったことを自らの努力で得るのが自由主義経済の根本です。消費マインドの低下は、社会全体の根底を揺るがす問題を含んでいると考えるのは、私の妄想でしょうか。
まとめ
日本経済を低迷させているのは、「低い消費マインド」であり、その原因が3つ考えられます。
1)将来に対する不安
2)デフレマインドが定着
3)社会的圧力と同調圧力
自社の商品(モノやサービス)を売ろうとするなら、この3つの壁を突破して消費マインドを上げることが必要です。政府行政が行う経済対策は、国民の消費マインド高める政策が含まれていなければ、成果を得ることは難しいと言えます。