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「環世界」という概念から考えるコミュニケーションに大切な情報

 
マダニの世界のイラスト
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

「環世界」という概念から考えるコミュニケーションに大切な情報

 

「環世界」という概念と情報

同じニュース、同じ情報に接しても、人によって反応は様々です。それは、人が持っている世界観としての基本的な思想や固定観念、先入感によって、情報の受取方が違うからと説明されることが多くあります。しかし、その前に、個人が持っている「環世界」に違いがあることを認識すべきです。
「環世界」とは、動物学からきた概念で、すべての生物が等しく見たり感じたりできる外部環境ではなく、個々の生物が自分の知覚を中心に感じるものから構築した独自の環境世界のことです。
例えば、SNSやネットニュースで話題になっていても、インターネットを使わない異なる環世界の人にとっては、関係のない話です。電子マネーを使わない人の環世界、水道が整備されてない国で生きる人々の環世界は、それぞれ異なっています。
そもそも「環世界」という概念は、1933年、ドイツの生物学者であるユクスウェルの提唱したものです。すべての動物はそれぞれに種特有の知的世界を持っていて、それを主体として行動・生活しているという考え方です。空間だけでなく、時間の進み方も生物にとって異なると説きました。
彼は、マダニを例に挙げています。マダニには、視覚・聴覚がない代わりに、嗅覚、触覚、温度感覚がすぐれていて、森や茂みで血を吸う相手が通りかかるのを待ち構える。獲物の接近は、哺乳動物が発する酪酸の匂いによって感知され、鋭敏な温度感覚によって動物の体温を感じ取り、温度の方向に身を投じる。うまく相手の体表に着地できたら手探りで毛の少ない皮膚を探り当て、生き血というごちそうにありつく。マダニにとっての世界は見えるものでも聞こえるものでもなく、温度と匂いと触った感じでできていると考えました。更に、血を提供する動物は、マダニの下をそう頻繁に通りかかるわけではなく、数年という長期にわたって絶食したままエサを待ち続けます。これは、マダニにとって時間は、止まっているということです。
これを単純に人に当てはめることは出来ないかも知れませんが、情報に対する人の反応を考えるとき、示唆を与えてくれます。
人が、自分の環世界を構築するのに必要な外部からの情報に関して特徴があります。
1)入手する情報には、偏りや限界がある。
2)情報には、フィルターがかかっている。
3)時間とは、情報の変化である。
その人が持っている環世界が違うことを考慮しなければ、うまいコミュニケーションが取れません。よく情報に対する人の反応の違いをその人の持っている思想や固定観念で理解しようとしますが、そもそも人によって異なる情報によって、独自の環世界を構築しているのです。世代、性別、国籍などが違えば、別の環世界を持っている可能性が高く、違いを意識しないでコミュニケーションをしても、うまく行かないことを覚悟する必要があります。

入手する情報には、偏りや限界がある

人は五感で外部から情報の元となる音や画像という信号を得ています。そして、これらの信号から、各自が「情報」にしています。個人は、膨大な外部世界からくる信号を取捨選択しながら、自分の情報を創り出しています。
例えば、同じTVニュースを聞いたり新聞を読んだりしても、その「信号としての情報」に対する理解力には差があります。英語が分からない人が、米国のTVや新聞に接して、すべての情報を得ることはできません。あるいは、画像だけから「自分の情報」を創り出しているかも知れません。
「信号としての情報」を発信している側は、相手が「信号」を受信してくれていると思っていても、実際は違うかも知れません。

例えば、なにかしようとすると
「そんなこと、聞いていない!」
と文句を言う人がでます。この場合、物理的に「信号」を受信していないケースと、「信号」を受信していても「自分は納得できない」というケースがあります。すくなくとも物理的に信号を伝えることが大切でしょう。
「信号としても情報」を入手する手段は、時代とともに広がっています。また、入手できる信号の限界も広がり、環世界が変化しています。
例えば、人の視力です。光学顕微鏡が発明され、ヒトがより小さなものをみる視力を得たことで、結核菌などの病原菌が次々と発見されました。ヒトの環世界は、それまでと全く違うものになりました。ところが、光学顕微鏡では、1000倍から2000倍が限界です。細菌より小さいウィルスを観察することはできません。野口英世は、黄熱病の病原体を見つけようと光学顕微鏡を使って奮闘しますが、何も発見できませんでした。結局、野口英世の環世界は、光学顕微鏡で得られる信号の世界でした。後に電子顕微鏡が発明されるまで、黄熱病の原因であるウィルスを見ることはできませんでした。

 

情報には、フィルターがかかっている

情報は、元になる外部からの信号(音、光、匂いなど)を意味のあるものに構成したものです。人が「情報」を発信したり、受け取って「自分の情報」としたりするとき、固定観念や先入観といったフィルターが掛かっていることを避けることはできません。
マスコミの伝えるニュースは、「マスコミがつくった情報」です。そこにマスコミのフィルターが掛かっているのは覚悟すべきことです。更に、マスコミもオリジナル信号から情報を構成しているのではなく、誰かの情報からマスコミとしての情報を再構成していることが大半です。
このフィルターは、情報を構成する側の環世界で作られたものです。
例えば、戦争の報道をする従軍記者は、従軍した側からの情報で環世界がつくられ、発信しています。
情報は、発信する側も受信する側も独自のフィルターによって、作られていることを心しておくことです。

時間とは、情報の変化である

事象が変化するから、時間があります。変化がなければ、時間は止まっています。現実の世界では、何かが常に変化しているので時間が流れます。しかし、自分だけの世界である環世界では、自分に入ってくる情報に変化がなければ、時間は止まっていると言えます。
例えば、年寄りが決まったことだけして過ごす月日は、「時間が止まっている」状況です。ただし、幸か不幸か、年齢に伴う老化や建物や設備の経年劣化が起きますので、時間の経過を実感するときがあります。子供は変化が多く、時間が速く進んでいます。
年末になって、標準時間と比べると、子供の1年は大人の何年分の時を刻んだような印象を与えます。
138億年前、ビッグバンで宇宙が始まりました。最初の数秒で、物質と反物質が生まれ、同時に合体してわずかな物質が生まれ、4つの力が生まれています。そこでは、物質が生まれると同時に物理法則が生まれました。そして、それらの変化が起きたということで時間が生まれたと言ってもいいかも知れません。
宇宙に時間とはいいませんが、個人には「自分の時間」というべきものがあります。それを「ペース」といいます。コミュニケーションでは、相手のペースに合わせないとうまく行かないものです。

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まとめ

「環世界」とは、生物が等しく見たり感じたりできる外部環境ではなく、個々の生物が自分の知覚を中心に感じるものから構築した独自の環境世界のことです。
人が、自分の環世界を構築するのに必要な外部からの情報に関して特徴があります。
1)入手する情報には、偏りや限界がある。
2)情報には、フィルターがかかっている。
3)時間とは、情報の変化である。
その人が持っている環世界が違うことを考慮しなければ、うまいコミュニケーションが取れません。

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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。
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