部下を励ますときの3つのポイントは、「タイミング」「共感」「ものは考えよう」
部下を励ますときの3つのポイントは、「タイミング」「共感」「ものは考えよう」
やってはいけない部下への「励まし」と効果的な「励まし」3つのポイント
「失敗したけどよくやった!」
「ものは考えよう。これで、失敗するやり方がわかったということよ」
失敗して落ち込んでいる部下に、上司がこんな言い方で励ましてくれたら、多少とも救われるかも知れません。残念ながら、かつて私は、
「落ち込むなよ。初めから、お前が成功するとは思ってなかったよ」
と言われたことがあります。失敗して自分自身が落ち込んでいるのが分かっているのに、上司から更に「落ち込むな」と言われて、益々落ち込んでしまいました。その上、「成功するとは思ってなかった」とまで言われてしまうと、自分への期待や信頼のなさに愕然としました。相手は、私を励まそうとしていたのですが、受け取る方は、全く逆の効果になっていました。
上司は、励ます気持ちがあるのに、励ましになっていないことが多々あります。以下に、部下を励ましたつもりで、励ましになっていない例をあげます。
1)「頑張れ」と励ます
部下は、それなりにベストを尽くした結果、うまくいかないから落ち込んでいます。むしろ、頑張ったのに失敗したから落ち込んでいるのです。「頑張れ」という言葉は、「お前は頑張っていないから、失敗したのだ」という意味を感じさせてしまいます。
2)アドバイスしてしまう
上司は、部下の失敗をみて、「こうしたらいい」「問題を解決してあげなくては」と思いがちになります。しかし、慌てて出したアドバイスが、相手にとっては「ピント外れ」になっている可能性があります。
3)気を紛らわす
冗談や飲みに誘う言葉も相手が受け入れる状態になっていないと、励ましにはなりません。
4)自分の話を例にして励ます
自分の自慢話になってしまうことが多い。
これらは、よくある励ましにならない「励まし」のパターンです。
相手にとって意味のある「励まし」をするには、3つのポイントがあります。
1)励ますタイミング
2)相手に共感する
3)「ものは考えよう」で相手の考え方を変える
失敗して落ち込んだ人が、精神的に回復するパターンがあります。まず「失敗した事実を受け入れる」、その後「自分のこととして考える」そして、「学びを見つけ」「目標を再設定する」といった順です。この精神的回復パターンに沿った「励まし」が、効果的です。
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励ますタイミング
部下は、一生懸命仕事をしているのにうまくいかないときや、ミスをしてしまったときなどに、心がふさぎ込んでしまっています。誰もミスをしたいと思ってする人はいないので、突然自分のミスを知りショックを受けている状態のときもあるでしょう。そんなときは、心が乱れて自分では冷静な判断がつきにくくなっています。
部下に落ち込む出来事があってからすぐに部下に声を掛けても、
「そっとしておいてほしい」
「今は誰とも話したくない」
と思われてしまう場合があります。まず、淡々と部下の失敗の報告を聞くことです。必要な事実を聞いたあと、慌ててリカバリー策や励ましの言葉をかけても相手は、それを受け入れる準備ができていません。まずは、
「よく頑張ったな」
といった言葉で、相手を認めてから
「あとで、話をしてくれ」
と伝え、部下が冷静になるのを待つことです。
落ち込んだ部下を上手に励ますには、相手のタイミングを見て言葉をかけることが大切です。
相手に共感する
ある時、ミスをして落ち込んでいた社員に対して、
「大丈夫だよ」
と上司から言われた部下が、「無責任な励まし方をされた」と受取り、逆にイラっとしたと告白されたことがあります。この社員にとっての「大丈夫だよ」には、上司の誠意が感じられなかったといいます。社員の失敗は、会社組織においては、上司の失敗でもあります。この社員にとっては、上司自身が
「部下のこの位の失敗、俺にとって大きなダメージにはならない」
と感じたとのこと。部下を励ましているのに、実際は上司自身を慰めていたのです。
「大丈夫だよ」
は、シンプルに励ましの言葉ですが、相手を本気で励ます気持ちがないと逆効果になります。まず相手の気持ちを「わかってあげる」という気持ちを伝えることです。これができる2つの言葉をご紹介します。
1)「よく頑張ったな」
仕事でミスを起こしてしまったときや、運悪く失敗したとき、せめて自分が頑張ったことは認めて欲しいと思っています。「よく頑張ったな」と上司が声をかけることで、部下は努力を認められたと思い、心が救われます。
2)「大変だったな」
この言葉は、共感を示すことができます。部下は「上司も同じように感じてくれている」と思います。ここで、自分の経験した話を用いて部下の共感を得ようとすると、部下は「状況が違うのに自分の気持ちを理解できるわけがない」と反発してしまいます。自慢話になると共感ではなく、反感しかでてきません。
「ものは考えよう」で相手の考え方を変える
落ち込んだ部下が、ちょっと落ち着いたときに掛けて有効なのが、
「ものは考えよう」
という言葉です。もっと具体的に
「この○○というやり方は、通用しないとわかっただけでも成功」
などとも言うことができます。
こんな「ものは考えよう」といった言葉で、相手の視線を変えさせて、気分転換をさせる手法は、心理学でいう「認知的不協和」を利用したものです。
イソップ童話に「キツネとブドウ」(The Fox and the Grapes)というのがあります。
ある日、キツネが森の中を歩いていると、木の上に美味しそうなブドウがたわわに実っているのを見つけました。キツネはとても食べたいと思い、ブドウを手に入れよとします。しかし、ブドウは高い位置にあり、キツネは届きません。飛び跳ねたり、立ち上がってみたりと懸命に頑張りましたが、どうしても手が届きません。これが、認知的不協和の状態です。
結局、キツネはブドウを諦めました。ブドウを食べられないことに腹を立てながらも、自分にはブドウが欲しくなかったのだと自分に言い聞かせました。そして、
「あんな高い場所にあるブドウは、すっぱくて食べられないに違いない」
と考え認知的不協和を解消しました。まさに「ものは考えよう」です。
ある程度気持ちが落ち着いて、立ち直りに向かっていく時期になると、励ましの言葉も前向きに解釈されやすくなります。そんな時期に、「ものは考えよう」ということで、結果について違った解釈を伝えると、部下は自分の考えの偏りに気付きます。自部の考えや偏りに気付けば、次のやり方、目標を再設定できます。
「ものは考えよう」は、認知的不協和が生じた際に、他者の意見や立場を尊重し、自己の視点を柔軟に見直す必要があることを教えてくれる魔法の言葉です。
まとめ
失敗して落ち込んでいる部下に、効果のある「励まし」をするには、3つのポイントがあります。
1)励ますタイミング
2)相手に共感する
3)「ものは考えよう」で相手の考え方を変える
これらは、失敗して落ち込んだ人が、精神的に回復するパターンに沿った「励まし」であり効果的です。
参考記事:「積極的に動かない部下」を励ます「ペップトーク」の使い方