安い初任給と少ない転職。業績に関係なく業界横並びの初任給(日本の生産性10)
安い初任給と少ない転職。業績に関係なく業界横並びの初任給
安い初任給と少ない転職。業績に関係なく業界横並びの初任給
企業の生産性を高めるには、いい人材が必要です。社会として人材を適正に配分することが、日本全体の生産性を上げます。しかし日本では、様々な理由でそれが出来ていません。その理由の一つが、新卒の採用や転職にあります。
企業や役所は、毎年定期採用が行われます。私が面接官をしていたとき、「是非、この学生を採用したい」と人事部に話をしたことがありました。その学生は、他社の採用試験も受けており、他社に流れそうです。
「初任給を倍出してもいいぞ」
人事部に提案しました。
「それは、できません。業界のバランスとか、社内バランスがありますから」
「会社の業績が悪くて払えないなら仕方がないが、少なくともここ数年はいいだろう。いい人材を集めよう」
こう反論しました。当時自分は、常務取締役です。それなりのポジションです。このくらいの裁量はあるはずです。ところが、頑として人事部は譲りません。結局、会社の役員でも人事部の方針を変えられませんでした。
収まらないので、業界各社の初任給を調べたところ、収益のいい会社も赤字会社もその額は同じです。他の業界を見ても皆ほとんど一緒。大卒で20万円前後だったでしょうか。冴えない中堅社員に、その倍以上の給料を出していることを思うと、有望な新人に40万円出しても惜しくはありません。「きっと若い人には不満が多いのでは」と、ネットを調べてみて、又びっくりです。若い人から全く逆の意見が、書き込まれていました。
「高い初任給を出す会社は、怪しいから行くな! 気をつけろ!」
「上場しているようなまっとうな企業は、高い初任給は出さない!」
なんて書き込みです。人事部のこだわりは、この点でした。
「妙に初任給を上げると会社の信用がなくなる」
これが、人事の言い分です。
「内が、外資系なら高い初任給でも、信用されます」
こうも人事が言います。これが、日本における世間の常識でした。こんなことで世界の競争で戦っていけるのでしょうか。外資系の企業や海外では、職種により高い初任給を出します。いくら規制緩和したとしても、海外の優秀な人材が、日本の企業で働いてくれるのでしょうか。
日本では、生産性が低い会社でも、安い給料で新人が採用出来てしまうのです。収益性の良い会社、つまり生産性の高い会社に人が集まることが、日本全体の生産性向上になります。初任給が、一律でなければ、就職希望学生の意識も、採用する側の意識も変わります。定期採用の様子は、まるで大学受験と同じです。学生を規格品として採用し、規格品として社畜にしていく会社にイノベーションを起こし、世界をリードすることが、できるのでしょうか。
日本で転職が少ない不思議は、「年功序列の壁」があるから?
中国の工場を運営していた時、「春節明けは要注意」と現地スタッフに言われたことがあります。
「春節で従業員が故郷に帰ったあと、戻ってこなくなることがある」
故郷に帰り友人たちと話をして、自分の給料が低いと分かると、転職してしまうと言うのです。数年前ですが、月給3、4千円(5%)程度の差で従業員をごっそり同業他社に取られたことがあります。日本でも、給料が理由での転職がありますが、年功序列が壁になって、収入が増える例は多くありません。海外では、このような制度・習慣がなく、概ね転職で収入が増えます。
今の日本は、江戸時代でもないのに、結果として職業の固定化が進んでいます。生産性の高い会社に転職し給料が増えることが、少ないのです。初任給の横並び、年功制の給与体系を社会としてやめるべきです。早い話、高い給料が出せる会社は、新卒にも転職者にも高い給料を出して人を集め、稼げばいいのです。高い給料が出せない会社は、出せるような改革をしていくことです。それが、社会全体の活性化につながります。
会社が、「初任給に幅を持たせる」「年功制をやめる」と宣言しようとすると、従業員に対するケアが大変です。
「若い時の安月給を清算しろ!」
と言われそうです。しかし、既に年功序列廃止を宣言した日立やパナソニックなどの例があります。
「中高年の人件費が高いから廃止する」のではなく、「能力に応じて給料を出すから、年功序列を廃止する」との前向きな説明が重要です。
まとめ
新卒で就職しようとする人、転職しようとする人、それを受け入れる企業や組織が、「優秀な人材には、高い給料を払う」という社会的合意ができないかと思います。経済学の教科書に出てくる求人と賃金の関係が働かなければ、社会の活性化はあり得ません。企業が勇気をもって、「優秀な人材には、高い初任給を出す」と宣言し、これまでの世間の常識を打ち破ることを期待します。
参考記事:日本企業の新卒採用者数の非合理的な決め方の実態と問題