提案が、安直で陳腐な「妥協案」にならないための3つのポイント
提案が、安直で陳腐な「妥協案」にならないための3つのポイント
提案が、安直で陳腐な「妥協案」にならないための3つのポイント
「こんな周囲に気を使った妥協案は、面白くない!」
「毒にも薬にもならない実施案だ!」
役員が、部長の持って来たある実施案をこう言って却下しました。もともとは、若手が革新的な提案をしてきたのがきっかけで、当該部署が作成した実施案でした。ところが、複数の人が関わるうちに、初めの提案に様々な立場から修正が加えられ、「妥協案」となって役員に報告されたのでした。
「妥協する」とは、異なる主張を持つ二者の双方あるいは片方が歩み寄り、両者が納得できる点に到達させる行為を意味します。必ずしも、双方の意見(案)の良いところを合わせたものではありません。関係者が、納得できるだけであって、内容が優れているわけではないのですが、会社や行政が実施することは、「妥協案」で溢れています。
皆が納得した「妥協案」で、皆がそれなりに満足できることは、それでもいいのでしょうが、相手のある競争では、敗北する可能性が高くなります。また、イノベーションといった新機軸を必要とする場面での「妥協案」は、革新性が失われることが危惧されます。
提案が、中途半端な「妥協案」にならないためにの3つのポイントがあります。
1)独立した個人やチームで複数の案を作る
2)良いとこ取りの「折衷案」は、「妥協案」と同じと心得る
3)「妥協案」ではなく、「代案」を使う場合もある
これらの点を決定者であるリーダーが考慮することで、安直な「妥協案」から逃れることが期待されます。
独立した個人やチームで複数の案を作る
提案を始めから1つの案に絞り、多くの人で完成させようとすると、「妥協案」になりがちです。冒頭の例に挙げたように、たとえ革新的な提案からスタートしても、多くの人を満足させようとすると「妥協案」になってしまいます。特に対立を嫌う日本の組織では、「妥協案」を生みやすく下地があります。
これを避けるために、独立した個人やチームで複数の案を作り、その中から決定者(リーダーや決定機関)が選ぶという方法がとられることがあります。
例えば、建築の設計をコンペ方式で募集するといったことです。2020年東京オリンピック(実施は2021年)のメインスタジアムである国立競技場は、コンペ方式で設計が決められました。当初ザハ・ハディド氏の案が選出されました。ところが、その後「コストが高い」「日本(神宮)の雰囲気に合わない」など異論が出され、隈研吾氏の設計に変更されました。このゴタゴタで工期的にも予算面でも冷や汗をかくことになりました。
複数案を独立に作り提案し、その中から選ぶ方式は、個性的な提案を選択できる反面、選ぶ側に責任を負う覚悟がないと、東京オリンピックのスタジアム騒動のようになってしまいます。選ぶ側に強いリーダーシップが求められます。
米国のケネディ大統領は、「キューバ危機」が起きた直後から、取るべき施策案をグループ毎に提出させ、自分の責任で選ぶことで「危機」を乗り切りました。(折木 良一著「経営学では学べない戦略の本質」KADOKAWAより)これは、独立で複数の案から実施策を決める際、強いリーダーシップが有効に働いた例です。
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良いとこ取りの「折衷案」は、「妥協案」と同じと心得る
個人やチームが独自で提案を作成しても、どれかを選ぶのではなく、「折衷案」とすることがあります。
「折衷案」は、「2つ以上の物事や考え方のよいところをとって1つに合わせた案」ということです。そもそも「折衷」という漢字に「双方の極端な部分を削ぎ落として、一つにまとめること」「いくつかの異なるアイデアを1つにまとめること」という意味があります。 そうした行動で生み出した案が「折衷案」です。
良いところを単純に足し算して、弊害がなければ、「折衷案」は良い案ですが、大抵合わせることで弊害が生まれます。
例えば、景気対策として減税案と公共事業案があるとして、どちらもやろうとすると予算問題でどちらも中途半端になります。予算を無視してやれば、国債の発行が増えます。結局、「折衷案」は、良いとこ取りではなく、「妥協」の産物になってしまいます。リーダーは、「折衷案」が良いとこ取りではなく、「妥協案」であると認識して、実施していくことです。
「妥協案」ではなく、「代替案」を使う場合もある
複数の提案の中から1つの案に絞れないときや、「折衷案」をつくることが出来ない時、「代替案」(代案)が出されることがあります。「代替案」とは、「既に決定された案の代わりになる案」という意味です。「折衷案」や「妥協案」のように複数の案から作り出す案ではなく、元々ある案と全く別物の案ということです。
2020年東京オリンピックでメインスタジアムは、一旦ザハ・ハディド氏設計の案で決まっていたのを、隈研吾氏設計の案といる「代替案」が採用されました。ザハ・ハディド案が決まった後、周辺環境に合わせて設計を修正しようとしたり、コストダウン案を検討をしたりしていましたが、結局新設計した方がいいということで、隈研吾氏の設計になりました。
他にも、組織の変更やシステムの変更で、複数の案が提出され、どれにするか検討したり、折衷案を検討したりしているうちに、期限が
迫ったり予算が不足して、当面は「現状維持」という「代替案」で決まるといったことがあります。
一旦決まったことでも、その案が納得いかないものであれば、「代替案」を検討することも選択肢にあることを頭に入れておくべきです。無理やり作成した「妥協案」に拘る必要がないと思うことです。
まとめ
「妥協案」とは、異なる主張を持つ関係者が歩み寄り、皆が納得できるようにした案です。必ずしも内容が優れているわけではなく、効果が半端になりがちなものです。提案が、中途半端な「妥協案」にならないための3つのポイントがあります。
1)独立した個人やチームで複数の案を作る
2)良いとこ取りの「折衷案」は、「妥協案」と同じと心得る
3)「妥協案」ではなく、「代案」を使う場合もある
これらの点を決定者であるリーダーが考慮することで、安直な「妥協案」から逃れることが期待されます。