「相関関係」を「因果関係」と間違うことで起きる「クレーム」、大袈裟な「タイトル」
「相関関係」を「因果関係」と間違うことで起きる「クレーム」、大袈裟な「タイトル」
「相関関係」を「因果関係」と間違うことで起きる「クレーム」
「このクリームを使ったせいで顔に湿疹ができた!」
化粧品メーカーには、こんな苦情(クレーム)がお客様から寄せられます。しかし、中にはトラブルの原因が、その商品を使ったことによるものかどうか、わからないことが多々あります。お客様に、
「本当に当社の商品が原因で、トラブルが起きたのでしょうか?」
と質問すると、証拠として皮膚にできた湿疹の写真を示され、
「原因は、おたくの商品」
と迫られるとのこと。時には、医者の診断書を出されることもあるとか。ところが、診断書には、病名が書かれていても原因は書いていないことが多いようです。医者は、症状を判断できても原因までは分からないことが大半だからです。商品と湿疹は、なんらかの関係がありそうでも、直接の原因かどうかの判断が難しいものです。
消費者と企業、企業間で発生する「もめるクレーム」のかなりのものは、関係者が「因果関係」と「相関関係」を混同しているケースで起きます。
先ほどの例では、お客様は、「クリームを塗ったから湿疹が出た」と「因果関係」を主張されます。しかし、客観的にみれば、クリームを塗ったことと湿疹に「相関関係」があっても、「因果関係」があるとは、簡単に言えません。他のお客様でも湿疹はでるのか、前回使用した時に問題はなかったのかなど、確認のための情報が必要で、「因果関係」を認めるには時間がかかり、トラブルがこじれがちになります。実は、化粧品メーカーは、
「稀に湿疹等がでることがあります。その場合、速やかに使用を中止し、専門医にご相談ください」
との注意書を付けて、逃げ道を作っています。消費者と製造元との間の「因果関係」に関するトラブル経験から生まれた注意書とも言えます。
消費者が、「相関関係」を「因果関係」と誤解することで、
1)クレームが速やかに解決できない
2)因果関係と相関関係の混同を誘発させる商品PR
などが生まれ、トラブルとなることがあります。これを防止するためには、「因果関係」と「相関関係」の違いを明確に理解することが大切です。
この記事は、クレーム処理を担当したときの経験などを基に、お客様が陥り易い「因果関係」と「相関関係」の混同とそこから生まれるトラブル例をご紹介します。
「因果関係」と「相関関係」の違い
「相関関係」とは
「一方の値の大きさと、もう一方の値の大きさに関連性がある」
関係のことです。一方、「因果関係」とは
「原因と結果の繋がりがある関係」
のことです。因果関係は、相関関係の中に含まれます。
Causation and Correlation
例えば「Aが多いとき、Bも多い傾向がある」という場合、「AとBは正の相関関係がある」と言います。AとBとが逆の傾向の場合は「AとBは負の相関関係がある」と言います。相関の強さは、相関係数で表されます。
相関関係の中で、「原因と結果」が繋がっている場合、「因果関係がある」ということになります。因果関係には、Aが原因でBが起きるという関係(A→B)とその逆の関係があります。
他にも、「疑似相関」といわれるAとBとが、共通の原因Cをもっていて、そのためAとBとに因果関係があるかのように見えることがあります。
例えば、「プロ野球チームTは、火曜日に強い。勝率9割越え」は、疑似相関です。確かにチームTは、火曜日に勝つことが多いのですが、それは火曜日にエース投手が登板するからです。エース投手(C)が、火曜日(A)に登板することは決まっています。また、エースが投げれば、高い確率で勝利(B)します。だからといって、火曜日(A)は、高い確率で勝利(B)するとは言えません。これは、疑似相関の例です。
また、「単なる偶然」によって、AとBとの相関関係があると見えることがあります。何かイベントのたびに雨が降ると、
「私は、アメ男(女)」
と言っているような例です。
クレームを速やかに解決できない理由は、「因果関係」と「相関関係」の混同
お客様が、商品を使った際に起きたトラブルで、提供者にクレームを申し立てるとき、商品とトラブルの「因果関係」を主張します。しかし、これが「因果関係」ではなく、「疑似相関」であったり、「単なる偶然」であったりすることがあります。
提供者は、商品とトラブルの関係を調べ、それが「因果関係」にあるかどうか判断し、お客様に説明する必要があります。勿論、そこに「因果関係」があれば、責任が生まれます。
この原因調査の際、お客様から提供される情報が不十分であることで、「もめる」ことになります。
「因果関係」と「相関関係」の混同から大きな問題になった事例があります。2009年から2010年、米国において複数のトヨタ車が急加速し、死傷者を出す事故が多発したことがあります。いわゆる「意図せぬ急加速問題」です。被害者は、トヨタ車の電子制御の欠陥が事故につながったとして訴訟が起こし、トヨタの社長自身が米議会の公聴会で証言する問題にまで発展しました。
このとき出された資料には、「トヨタ車の事故率は、他社のそれより高い」「トヨタの電子制御車で事故率が高い」といったデータです。データには、トヨタ車と事故との「相関関係」が、確かにあります。しかし、「因果関係」があるかどうかとなると、調査に時間を要しました。その後、アメリカの運輸省当局は、基本的な自動車の電子制御に関する欠陥はなかったことを明らかにしました。事故の原因は、「誤操作」「濡れた床マットの引っかかり」などで、「トヨタの電子制御が原因である」と特定できにないというものでした。
ただし、この問題に関する民事訴訟では、トヨタ側は最終的に和解に応じており、その総額に関しては訴訟費用等を入れると30億ドル(当時のレートで3000億円)以上になったといわれています。参考記事;「トヨタが1200億円の和解金を払った理由とは?」
お客様が、
「買った商品のせいで、トラブルが起きた」
と主張されるクレームには、「相関関係」を「因果関係」と誤解したものがあります。厳密に調べた結果、「因果関係がない」と判断されても、トヨタの例にあるように、クレームを受け入れるかどうかは、売り手のマーケティング戦略に基づく判断になります。
因果関係と相関関係の混同を誘発させる商品PR
「○○を毎朝食べるだけで、10キロのダイエットに成功」
こんな健康食品の広告を目にすることがあります。「○○を毎朝食べること」と「減量」に「相関関係」があるかもしれませんが、「因果関係」と言うには無理があるように思えます。しかし、相関関係を示すグラフを出し、有名人がPRすると、あたかも「○○を毎朝食べると減量できる」気がしてきます。「減量できたこと」は、ウソではありません。問題なのは、「○○を毎朝食べるだけ」という原因と「10キロやせた」ことの間に「因果関係」があるかどうかです。
この例では、売り手が消費者に対して意図的に「因果関係」を意識させようとしています。ただし、予防線として、「効果には、個人差があります」とか、「当社データによる」といったことが付いています。消費者は、売り手のワナにハマらないことが大切です。
テレビのワイドショーなどでも
「○○が危ない! ○○する人は、そうでない人の3倍癌にかかる可能性がある!」
といったセンセーショナルなタイトルで話題を取り上げることがあります。内容を見れば、それは「相関関係」であることが分かりますが、タイトルは、あたかも「因果関係」があるように打ち出されています。それほど、目くじらをたてずとも、番組の中身を見れば、情報番組というより、エンターテイメントと捉えるべきものであることが分かります。
商品のキャッチコピー、雑誌記事のタイトルなどでは、「相関関係」を「因果関係」と誤解させるように誘導をして成功している例が沢山見られます。
「一粒300メートル」
は、とてつもなく古いグリコのキャッチフレーズです。どこか、科学的な「因果関係」を連想させて成功しています。これが、真実かどうかより、言葉として楽しいことが、多くの人に支持された理由でしょう。
まとめ
「相関関係」とは、「一方の値の大きさと、もう一方の値の大きさに関連性がある」こと。「因果関係」とは、「原因と結果の繋がりがある関係」のことです。因果関係は、相関関係の中に含まれます。
「相関関係」を「因果関係」と誤解することで、
1)クレームが速やかに解決できない
2)因果関係と相関関係の混同を誘発させる商品PR
などが生まれ、トラブルと成ることがあります。これを防止するためには、「因果関係」と「相関関係」の違いを明確に理解することが大切です。