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デザイン思考を使ったDXの進め方(駐車違反対策から始まったDXの例)

 
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

デザイン思考を使ったDXの進め方(駐車違反対策から始まったDXの例)

 

デザイン思考を使ったDXの進め方

DXをどう進めるか悩んでいる」
「自社の業界でDXはできるのか」
こんな声がありませんか。経営者の肝いりで、DX推進のためのチームを作ったものの実績が上がらずにいる会社が多いようです。今日本では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれています。日本能率協会の発表した「日本企業の経営課題2022」調査報告【第1弾】DXの取り組み状況や課題」によれば、DXに取り組んでいる会社は、従業員3000人以上の大企業で80%、300人未満の企業で36%となっています。この数年で、DXに取り組む企業が、大きく増えています。ただし、同調査によれば、DXのビジョンや戦略が課題という企業が68%、具体的に事業への展開が進まない66%、そしてDXの人材不足を86%の企業が訴えています。

DXへの取り組み

Status-of-DX-initiatives 出典:日本の経営課題2022(日本能率協)
企業には、DXに取り組もうという姿勢はあるのですが、ビジョンが明確でなく、成果もこれからといった実態が見えてきます。
DXは、デジタル技術を使ったイノベーションです。イノベーションを提唱したシュンペーターは、イノベーションを
「既存知と既存知の新結合」
と定義しています。DXは、
「デジタル技術を使った既存知と既存知の新結合」
です。お客様や社内の課題を見つけ、デジタル技術で解決することから、DXを起こすことができます。DXを含むイノベーションでは、従来の前提としていたことを疑い、従来のやり方を大きく変えていく必要があります。
問題解決が、従来のやり方の延長上にあるなら既知の法則やセオリーを活用する論理思考が有効です。しかし、DXにおいては、顧客(対象者)に対する理解を深める手法であるデザイン思考が有効になります。デザイン思考は、セオリーに囚われず新しい価値をつくる手法です。
また、デザイン思考に関して、経済産業省の2018年9月に発表した「DXレポート」において、「デザイン思考のできる人材が必要」との見解を示しています。
デザイン思考を使ったDXの進め方には、以下のステップがあります。
1)共感・理解による発見
2)発見した課題の定義・明確化
3)課題を解決するアイデア創造
4)試作・テスト
このステップに従い、課題を見つけデジタル技術による解決策を見つけていくことでDXが生まれます。
この記事では、ある工場前のトラック駐車違反問題の解決から始まったDXの例をご紹介します。
この会社では、工場前の道路に毎朝多くの大型トラックが駐車していました。10台以上止まっていることも珍しくありません。周辺住民から
「駐車違反をなんとかしろ」
との声が上がっていました。そこで、この会社は、駐車違反対策としてトラックの混雑緩和に取り組みました。入門手続きのデジタル化、IC通門証発行等により混雑緩和が実現し、更にこれが引き金となって、物流体制全体のDXが進行しつつあります。この会社でデザイン思考を意識していたわけではありませんが、結果としてデザイン思考の手順に沿ったDXが進んでいます。以下、具体的取組みをご紹介します。

 

共感・理解による発見

デザイン思考は、顧客(対象者)行動に対する共感・理解から始まります。
例に挙げる工場は、液晶パネルや各種電気製品を製造する大工場です。特に朝は、高速道路の深夜割引を利用したトラックが多く、工場の門が開く7時半前は、工場前に沢山のトラックが駐車していました。原料や部品を積んだトラック、工場内工事のために入るトラック、製品出荷トラックなどです。車両確認と入場許可、車両重量測定、工場内の行先指示などを守衛とやり取りをします。その間をぬって商談などで来訪する乗用車が混じります。コロナ禍では、これに来訪者の問診票記入や体温測定まであって大混乱状態です。
この時、各ドライバーの行動を観察すると特定の行動があることに気付きます。
常時出入りしているトラックは、入場証明を持っていますので、証明書の確認だけで通過していきます。
初めて工場を訪れたドライバーは、諸手続きで戸惑っています。何度か来たことのあるドライバーは、手際よく車両の情報や所属会社の情報を用紙に記入し一時通門証を受け取っています。また、待っている間に、携帯電話で話をしている人が多くいます。何をしているかと聞くと
「荷下ろしの時間がかかるので、あらかじめ担当に到着を知らせています」
「荷下ろし用のフォークリフトが準備できているか確認しています」
などの答えが返ってきました。また、あるドライバーは、
「入門許可証の必要事項を記入するのに時間がかかるので、次回分の用紙も取っている」
とのこと。
結局、ドライバーの関心事は、「工場内の滞在時間を如何に短くするか」ということがわかりました。
もしドライバーに直接
「何か不満がありますか」
と尋ねたら、
「入門に時間がかかること」「車を止めるところがないこと」
といった直接的な答えが返ってくるだけでしたでしょう。
しかし、よく行動を観察すると、慣れたドライバーは受取先でスムースな荷下ろしや積み込みを考えて、受取担当者と連絡を取り合っています。もっと気の利くドライバーは、工場の到着1時間前には担当者と連絡を取っているとのことです。門で待たされるのは、せいぜい10分ほどです。ところが、荷下ろしで担当者がいない。クレーンやフォークリフトが空いていないなどの理由で、数時間待たされることはざらだといいます。積み込み待ちも同様で、トラック到着後に積み込む荷を揃え始める部署さえあるとのこと。
これらも、細かな観察とヒヤリングで分かったことです。

 

発見した課題の定義・明確化

トラックドライバーの行動やヒヤリングでわかったことは、彼(彼女)らの思いは、
「出来るだけ速く、門を通過したい。」
「受取りで素早く荷を降ろす。荷を素早く荷を積み込む。」
ということであり、要約すれば、
「トラックの工場滞在時間を短くする」
ことだと改めて確認できました。(課題の定義・明確化)
このためには、
1)工場の門での書類作成時間、車両やドライバー確認時間を短縮する。
2)工場到着時点で、積み下ろし担当に車両到着を連絡する。
とのポイントが抽出されました。更に
3)積み下ろし担当は、車両の到着予定時刻に合わせて準備する。
ことで、更に工場内滞在時間を短縮できることが期待できます。

 

課題を解決するアイデア創造

課題が明確になった後は、トラックの「工場内滞在時間を短くするため」のアイデア出しです。
門での渋滞解消ですぐにできたのは、通門証所持車両の優先レーン設置です。限られた道幅なので、朝は工場へ入る車両の優先レーンをもうけ、午前10時を過ぎるとこの優先レーンを出て行く車両用としました。
次は、通門書類のデジタル化です。これは、病院の診察券をヒントにして、ICカードにするアイデアを採用しました。初回は、カード作成の時間にかかるものの、次回以降は、書類書きや確認の時間が大幅に短縮できます。また、デジタル化したことで、門でのカード読み取り時に、積み下ろし担当へ自動的に連絡が行くようにしました。

試作・テスト

アイデアを実行に移します。ポイントは、一気に完成形を目指すのではなく、試作して検証を繰り返すことです。
ICカード式通門証は、従来の通門証を守衛が確認していたのが、読み取り装置により無人化できました。無人ですので、従来7時半からとしていた開門時刻を6時に繰り上げることができました。専用レーンの設置と相まって、従来通門証を持っていた車両は勿論、IC通門証を取得した車両もスムースに通過できます。また、読み取りと同時に積み下ろし担当に連絡がいくようにして好評です。
ところが、問題は車両の通門証とドライバー(同乗者を含む)の通門証が、それぞれ別であることです。ドライバーがいろいろな車両を運転するので、一体化できません。また、門を通過したとき積み下ろし担当に連絡したのでは、積み下ろし準備の時間的な余裕が取れないとの話が出ています。
そこで、現在この会社ではICカード式通門証をスマホアプリにすることを検討しています。これであれば、一画面で車両とドライバーのQRコード表示ができます。工場到着前に到着予想時間が連絡できる機能も搭載できそうです。また、初期の登録が、スマホで事前にできるといったメリットが期待できます。
DXの特徴として、デジタルの仕組みを利用する中で、機能の向上、ネットワークが広がるなどで、利便性が高まることが期待できます。この例で挙げたスマホを使った通門証に「送り状」「受領書」機能をつけるとのアイデアも出ています。また、いっそスマホのGPS機能を取り入れて、もっと機能を拡大してはとの話もあります。
工場前の駐車違反対策から取り組んだカイゼンが、
「そもそもドライバーは、どんな行動をしているか。どんな思いでいるか」
といったデザイン思考的アップローチで、DXといえるような、大きな仕組みの改革が起きようとしています。

 

まとめ

デザイン思考を使ったDXの進め方には、以下のステップがあります。
1)共感・理解による発見
2)発見した課題の定義・明確化
3)課題を解決するアイデア創造
4)試作・テスト
このステップに従い、問題を見つけデジタル技術による解決策を見つけていくことでDXが生まれます。

参考記事:日本企業が、DXを推進するために乗り越えるべき3つの壁

イノベーションを起こすための「ラテラルシンキング」に必要な3つの力

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