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職場におけるDX推進方法と「2025年の崖」「レガシーシステム」

2021/09/15
 
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

職場におけるDX推進方法と「2025年の崖」「レガシーシステム」

 

DXと「2025年の崖」「レガシーシステム」

「医療機関の連携の悪さ」
「役に立たない感染者接触アプリ」
「進まないテレワーク」
これら、最近のコロナ禍における状況を見ていると、日本がDXで後れを取ってしまっていることを実感できます。
日本におけるDXの遅れは、コロナ禍前から指摘されていました。経済産業省は、毎年「DXレポート」を発表し2018年には、2025年の崖」という言葉を出しています。「2025年の崖」とは、日本企業が世界市場で勝ち抜くためにはDXの推進が必要不可欠であり、DXを推進しなければ業務効率・競争力の低下は避けられないとしています。競争力が低下した場合の想定として、2025年から年間で現在の約3倍、約12兆円もの経済損失が発生すると予測しています。その後も毎年「DXレポート」が発表されていますが、同じトーンの報告が続いています。

そもそも「DX」とはDigital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略称で、デジタルによる変革を指しますが、きまった定義はありません。一般的には、デジタル技術であるIoT、クラウド、AI、ビッグデータ等を使って、企業がビジネスを生み出したり、社会生活が変化したりすることを指しています。

企業におけるDX推進には、2つ方向があります。
1)デジタル技術を使い、業務の効率を上げる。
2)デジタル技術を使い、ビジネスモデルを変える。
DXのX「トランスフォーメーション」という言葉は、映画の「トランスフォーマー」をイメージすると分かり易いかと思います。映画「トランスフォーマー」では、クルマが一瞬で巨大なロボットに変身します。同様に企業が、突然ビジネススタイルを変え、既存の業界を破壊するような力を持つことがあります。GAFAやBAT(百度、アリババ、テンセント)などが代表例です。

企業がDXを推進していくには、3つのことに取り組む必要があります。
1)社員のデジタル活用技術の向上と意識改革
2)「レガシーシステム」(既存基幹システム)からの離脱
3)ビジネスモデルの改革、創造
これらは、スタートアップ企業では、すべてゼロからですから容易です。しかし、既存の企業、それも伝統的な企業ほどこれらを実施して、DXを推進することが困難です。
この記事では、実際にDXを意識して、業務改革に取り組んだ例からDXを解説します。


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社員のデジタル活用技術向上と意識改革

職場でDX推進を意識して生産性を上げるようと実務現場で調査したことがあります。この調査例では、分析を主な業務とする管理職、一般職200人を対象にしたアンケートです。
IoTAI等を含むデジタル技術を活用して、生産性や品質の向上が図れそうな『あったらいいな』と思うことをリストアップしてください」
というものです。その結果、重複を除き400件ほどの「あったらいいな」がリスト化できました。

「ボタン一つで、分析結果の集計が自動でできてお客様に自動的に報告ができる。」
「電子顕微鏡像を自動判定して、製品の合否を決める。」
「明日の仕事量を予想する。」
などなどです。

この「あったらいいな」リストを実現手段で分類しました。大まかな数字ですが、その結果が以下です。
1)既存の基幹システム改善や機能アップ35%
2)Excel、Word等の機能活用(マクロ等)15%
3)通信インフラ等設備の改善10%
4)設備組み込みソフトの更新10%
5)AIの活用10%
6)市販ソフト(AI活用を含む)の導入5%
7)その他(当面実現不可能等)15%
予想はしていましたが、「あったあらいいな」の半分は、基幹システムやExcel、Word等の機能活用で解決できる話でした。

具体的には、基幹システムやExcelに既にその機能が搭載されているのに知らない、使ったことがないというものが約半分です。基幹システムと連携しているBIツール(ビジネス・インテリジェンスツール)やExcelのマクロ機能が使えれば、出来ることです。人は、それを使わなくても業務ができれば、便利なツールも使うことはありません。ましてや少しトレーニングが必要となれば、見向きもしません。コロナ禍で必要に迫れて急速にリモート会議が広まったように、強制的に便利ツールを活用するデジタル活用技術の向上が必要であり、活用して生産性を上げようとの意識改革が大切です。この例では、BIツールやマクロプログラミングに詳しい人が、個別指導で巡回するようにしました。

 

「レガシーシステム」(既存基幹システム)からの離脱

先のアンケートであった基幹システムについて、使い方の問題の他にシステムそのものの機能改善が必要であることが分かりました。この基幹システムは、OSのサポート終了に合わせ5年ほど前に数億円をかけて更新した受注管理、経理、生産管理に関する統合システムです。ところが、それが不満だらけなのです。画面の記載項目の追加や削除、他のシステムとの連携などの簡単な変更に思えますが、実際の改造は困難です。

「レガシーシステム」とも呼ばれる既存の基幹システムは、その維持管理に金がかかります。日本情報システム・ユーザー協会が公表した『企業IT動向調査』によれば、ランザビジネス(既存ビジネスの維持や管理)に使われるIT予算と、バリューアップ(新規開発)に使われるIT予算の割合は8:2だと言われています。既存システムのブラックボックス状態を解消し、データをフル活用した本格的なDXを実行することで技術的な負債を解決し、さらにクラウド技術等を活用することで投資を効率化させ、投資効果の高い分野へ資金を移すべきと主張されています。

もともと「レガシーシステム」もたないスタートアップ企業なら、新テクノロジーを自由に使えます。しかし、既存の顧客と既存のビジネスモデルを持つ企業では、そうはいきません。日本情報システム・ユーザー協会が公表した『企業IT動向調査2021』には、その苦労が出ていて、既存システム維持予算と新規システム開発予算とがバランスしています。図参照「(出展「企業IT動向調査2021」

IT投資で解決したい中長期的経営課題

Problems to be solved by IT

先ほどの例では、画面へのたった1件の表示項目追加に数十万円。他のシステムとの連携にいたっては、「既存のシステムを知っている人が他の仕事をしているので、待ってくれ」との話。「レガシーシステム」が抱えている問題そのものです。

多くの企業が、クラウドや既製品のソフト、新技術に対応している新システムの方が、今後の維持管理コストが有利であると分かっていながら、既存基幹システムに予算をさくことを余儀なくされています。一時的にシステム予算を大幅に増やす、既存システムの予算を凍結して新システム開発に予算を集中するなど、トップダウンの方針が必要でしょう。

 

ビジネスモデルの改革、創造

経産省を始めとして、世の中で期待されるDX推進は、新しいビジネスモデルの創造が期待されています。日本にGAFAやBATが生まれないと嘆く声でもあります。

規模はともかくとして、日本にもDXを使った企業は沢山生まれています。ただし、数が少なく、「ユニコーン企業」といわれるような急速に成長する企業がないとの指摘があります。DXによって新しいビジネスモデルを生み出すには、視点の変更が必要でしょう。Amazonが書籍のネット販売を始めたのは、「欲しい本が書店になかったから」と創業者のジェフ・ベソスは語っています。「書店が、顧客視点でなかった」とも言っています。日本では、昔からどんな書店でも手数料なしで本を取り寄せてくれていました。日本の店は、昔から「顧客視点」で商売をしています。だから、DXに遅れたとは言いませんが、とことん顧客視点に立てば、書店に本を取り寄せるではなく、「顧客の家に本を送る」発想になったかも知れません。

1つの成功したビジネスモデルを生みだすには、その数倍の失敗モデルがあります。成功すれば、すぐに模倣ビジネスが現れます。既存ビジネスからの転換、スタートアップ企業において、このリスクを覚悟してチャレンジすることが望まれます。

既存企業としてDXに取り組むにあたり、既存ビジネスのDXによる効率化、高度化をしつつ、新しいビジネスモデルを組み込んでいくことが現実的との判断が、日本の経営者には多いようです。この先の話は、クレイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」に譲ります。


イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき

まとめ

企業がDXを推進していくには、3つのことに取り組む必要があります。
1)社員のデジタル活用技術の向上と意識改革
2)「レガシーシステム」(既存基幹システム)からの離脱
3)ビジネスモデルの改革、創造
いずれも、スタートアップ企業では、すべてゼロからですから容易です。しかし、既存の企業、それも伝統的な企業ほどこれらを実施して、DXを推進することは困難です。既存システム、既存ビジネスモデルと新しいシステムやビジネスモデルとの共存や切替は、経営の重要な判断となります。

参考記事:労働生産性を上げる4つの要素と労働生産性の3つの表現方法

社内から不満だらけの「情報システム部門」の課題と対応

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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。
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