「なりたい姿」に向かって変えていく「改革志向」の意見満載

成功事例の話では、「生存者バイアス」がかかりやすいと心得よ!

 
生存者のプレゼンのイラスト
記事一覧

この記事を書いている人 - WRITER -
長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

成功事例の話では、「生存者バイアス」がかかりやすいと心得よ!

 

危険な「生存者バイアス」が生まれる3つの理由

「イノベーションの成功例」
QC活動の成功事例プレゼン」
マスコミやネット記事、経産省や自治体の事例集などに創業して成功した話、改革を成し遂げた企業の話題が溢れています。どの話も様々な苦労を乗り越え、成功に至った経緯が語られ、沢山のヒントが提供されています。そして、なにより「自分も成功する」という勇気がもらえます。
ところが、冷静に考えると、成功の裏には、多くの失敗が隠れていることが分かります。成功事例として取り上げられるのは、様々な困難を乗り越えて今日に至った「生存者」の事例です。発明発見やイノベーションは、成功より失敗の方が多いのです。成功事例として残る話は、失敗を乗り越えた人の体験です。致命的失敗をして、事業をあきらめた話は、ほとんどありません。
日経ビジネス誌に「敗軍の将、兵を語る」という連載記事があります。毎回、堂々と自分の失敗を語っていただく人の勇気に感服します。しかし、中には災害、制度や法の壁など「不可抗力」を失敗の原因にして、本当のことが見えてこないことも多々あります。
困難を乗り越えて生き残った話だけでは、致命的な問題が見えないまま、すべたが分かったような気になりがちです。これを、「生存者バイアス」と呼びます。生存者バイアスは、様々な場面で現れます。これを見抜くには、生存者バイアスが生まれる原因を知っておくことが大切です。
「生存者バイアス」が生まれる原因は、以下のようなものがあります。
1)消滅したサンプルが入手できない
2)生存者は、失敗話を省略できる
3)勝者の理論が通る、「死人に口なし」
この記事では、「生存者バイアス」と言われる「認知バイアス」の心理学上の厳格な定義から離れて、拡大解釈している可能性がありますが、実社会の例として上記3つのポイントを紹介します。

「脳のクセ」に気づけば、見かたが変わる 認知バイアス大全

消滅したサンプルが入手できないと「生存者バイアス」が起きる

生存者バイアスの例として、事故生存者の話を聞いて、「その事故はそれほど危険ではなかった」と判断するという事例があります。それは、話を聞く相手が全て「生き残った人」だからです。事故で死んだ人の話を聞く方法はなく、それがバイアスにつながります。
第二次世界大戦中、統計学者E・ウォールドは、敵の射撃による爆撃機の損失を最小限に抑える方法を検討する際に、生存者バイアスを考慮したことが知られています。海軍分析センターの研究者は、任務から戻った航空機が受けた損傷の研究を行い、最も損傷が多かった部位に装甲を施すよう推奨しました。ウォールドはこれに対し、分析センターによる研究は任務から「生還した」航空機しか考慮していない、撃墜された爆撃機が損害評価に入っていないと主張。ウォールドは海軍に対し、帰還した航空機が損傷を受けていない部位を補強することを提案しました。それは、帰還した航空機に空いた穴は、損傷を受けても安全に帰還できる場所を表しているとの理由からでした。(出典:Wikipedia「生存者バイアス」など)
1999年11月15日に、H-2ロケット8号機が、打上げの約4分後に第1段エンジン(LE-7)の燃焼が急停止し、墜落するという事故がありました。ロケットは、広い太平洋の深海に沈み、回収は困難だと思われました。しかし、関係者の「現物を見て原因を突き止める」という執念が実り、2000年1月に小笠原沖の深さ約3000 mの海底からLE-7エンジンが回収されました。その結果、設計想定外の振動によって、液体水素ターボポンプのインデューサ羽根の1枚が疲労破壊し、連鎖反応的な破壊によって、ポンプが急停止したことが判明しました。もしエンジンを回収できず、残された飛行データだけから事故原因にせまることは、まず不可能だったと言われています。その後H2シリーズの信頼性は、揺るぎないものになっています。
事故や事件の物的証拠(サンプル)は、原因の真相に迫る情報を持っています。司法解剖や現物調査に時間と労力が使われるのはそのためです。ところが、そのサンプルが、失われたり、何かの事情で入手できない状況で、原因を調べるとき「生存者バイアス」が働き易くなります。E・ウォールドやH2ロケットの関係者は、それをよく理解していた事例です。

 

生存者は、失敗話を省略できる

各種の成功事例が紹介されるとき、失敗について多くは語られません。いろいろ苦労はあったが、それを乗り越えたことで成功し、ハッピーエンドです。言い換えると乗り越えられた失敗や困難だけが語られます。
成功の過程で、枝葉の道に入り込み、後戻りして本流に戻った話は、省略されます。そこまで話をすると、長くなり過ぎる懸念があるからです。あくまでも、成功者(生存者)が不要と判断して話が作られます。さすがにねつ造した話はできませんが、省略することは可能です。実際、成功事例の記事やプレゼンの指導で、
「その話は、読者(聴衆)が分かりにくいし、直接成功とかかわらないので省略しましょう」
ということを、私自身よくやりました。記事やプレゼンは、話としてまとまっていて、「共感」を得ることが重要です。要するに成功した「物語」であることが、評価されます。歴史上の人物がヒーロー(ヒロイン)として大活躍する歴史小説と同じです。事例から真に教訓として学びたいなら、省略された失敗を探ることも必要かもしれません。発表者に質問する、一次資料(報告書)を調べるなどが必要です。

 

勝者の理論が通る、「死人に口なし」

よく「歴史とは、『勝者の歴史』」と言われます。戦争で敗れた方の話は、ほとんど残りません。残ったとしても、一方的に「悪」とされてしまいます。
第2次大戦後、戦前の教育や思想は、米軍の指示で「否定」されました。その後、米軍が去っても、「戦前の教育=悪」が定着してしまっています。米軍と同じことは、明治新政府もしました。江戸時代のものは、すべて「悪」とされ、江戸時代の暮らし方が「否定」されました。勝者が去れば、バイアスが消えそうですが、そうならないことが問題です。
勝者が去らなければ、バイアスというより、圧力そのものになります。
戦前・戦中は、中国、ソ連、米国は、日本と同様、相当ひどいことをしています。条約違反もあれば、戦争犯罪に当たるものもあります。しかし、その後もこれらの国が戦勝国として存在する限り、「犯罪」として日本国が主張することは実質上できません。
ビジネスの世界でも、
「俺のこのやり方でうまく行った」
成功体験のあるオーナー社長が主張すれば、どうしようも有りません。当時、反対の立場であった人は、黙り込むしかありません。
不祥事を起こした組織が、誰かを生贄にして
「これらは、○○個人がやったことで、組織ぐるみではありません」
などと言い訳する例もあります。
これら、勝者としての「生存者」は、その後も強い影響力を行使できます。更に敗者が消えると「死人に口なし」状態に陥ります。すべての「悪」を敗者に押し付けることができます。
戦争・外交、企業競争から子供のけんかまで、争いがあるところでは、
① 当事者は、戦いに勝つこと
② 戦いに負けても口を閉ざさないこと
③ 第3者は、敗者の主張も聞くこと
ということでしょうか。大事なのは、争い事の後に「勝者の論理」が通ってしまい易いことを知っておくことです。

まとめ

成功事例として取り上げられるのは、様々な困難を乗り越えて今日に至った「生存者」の事例です。実際には、成功の陰に多くの失敗が隠れています。これを見落とすのが、「生存者バイアス」です。
「生存者バイアス」が生まれる原因は、
1)消滅したサンプルが入手できない
2)生存者は、失敗話を省略できる
3)勝者の理論が通る、「死人に口なし」
などです。成功事例から何かを学ぼうとするとき、「生存者バイアス」の存在を考慮することが大切です。

参考記事:ライバルを一瞬にして葬り去る「レッテル貼り」の怖さと有効活用術

「プライミング効果」を利用したマーケティングと目標達成

この記事を書いている人 - WRITER -
長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。
スポンサーリンク




スポンサーリンク




Copyright© 改革志向のおっさんブログ , 2022 All Rights Reserved.