中小企業で「経営戦略論」を使う前に必要な経営者の心得
中小企業で「経営戦略論」を使う前に必要な経営者の心得
中小企業の経営者に求められる経営戦略論の前に必要な心得
「売掛金を担保にして運転資金を借りるしかない!」
「今月の従業員の給与は、2/3だけ払い残りは後日にしてもらう」
これは、実際に私が携わった会社の話です。従業員20人ほどのA社は、私の所属していた会社の仕上げ工程を委託していた会社。高い技術力があり、拡販や開発にも熱心でした。この会社は、地元の銀行が資金だけでなく、経営の指導もしていました。銀行が紹介した経営コンサルが、様々な経営理論を駆使して何度も「再建計画」を作ったのですが、無力でした。結局、会社を分割して売却という結果が待っていました。
A社の例は、かつて活況を呈していた勢いで経営を続けているうちにリーマンショックから風向きが変わり、これに対応できなかったパターンです。コンサルが経営理論を使い、自社の「強み」「弱み」分析をしたり、市場を様々な方面からの分析をしたりして戦略を立てるのですが、経営者(社長)に
「自社には、絶対的な技術がある」
との先入観が強過ぎて、どんな分析をしても結果は曇っていました。また、コンサルも実際に顧客を訪問するなど泥臭いことをせず「経営戦略」作成していました。社長が、指導に従い「経営戦略」を作成しても意識や行動が変わらなければ、「経営戦略」は有効に働くことはありませんでした。
中小企業の経営者が、「経営戦略」を作成する上で気をつけるべき3つのポイントがあります。
1)資金を確保すること
2)経営理論を使う前に自社の立ち位置を理解すること
3)経営者(社長)が、「実行する覚悟」を持つこと
これらは、実際に中小企業の経営者と接して得た教訓です。経営理論の多くは、欧米の大学やコンサル会社から生まれたものです。世界の優れた会社の共通点から導かれた理論です。経営理論を使い「経営戦略」を立てるには、理論に隠れている前提条件を満たしていないとうまく行きません。その隠れた前提条件のうちの3つのポイントを紹介します。
資金を確保すること
会社は、血液である「カネ」がなければ、生きていけません。経営資源は、「ヒト、モノ、カネ」そして「情報」といわれます。特に近年、「ヒト」の重要性が強調されます。こう言えるのは、お金の心配がない会社の話です。カネがなければ、ヒトを減らさざるを得ません。モノを手放なさざるを得なくなります。
資金繰りに苦労している社長は、お金に関心があります。損益計算書(PL)に敏感です。ところが、会社の貸借対照表(BS=バランスシート)を理解しているかと疑問をいだく人がいます。
「今月の売上が目標を上回っているから大丈夫!」
こんな調子で、売上高だけしか興味がない社長です。PLが順調に見えていても本当に儲かっているか、手元にカネがあるかどうかわかりません。売上も入金までに日数がかかります。原料代の支払いもあります。在庫や借金もPLでは見えません。
BSは、会社の実力を示す指標です。私は、
「経営とは、強いBSをつくること」
位に思っています。過去からのBSの変化をみれば、会社がどう変化してきているかがわかります。負債の状況をみれば、会社が強くなっているか、弱くなっているかを見ることができます。また、経営計画から予想される今後のBSが作れます。設備投資をしたら今後財務状況がどうなるか分かります。BSを早くから注目していれば、A社の悲劇は防げました。(A社の不振は、過大な設備投資が原因。)
足元の資金がしっかりしていないと経営戦略論は全く意味がありません。A社が、倒産ではなく分割ですんだのは、経営理論ではなく「資金繰り表」のお陰でした。1日を午前と午後に分けた詳細な表に、入金出金の予定と実績を書き込んでいくことでした。社長自身がこれを書き込み、BSがどう変化するかを肌身で理解することで、初めて「経営」を理解したとのこと。
カネがなければ、生きるのに精いっぱいで、「何をするか」である経営戦略論など意味がありません。必要なのは、まず資金調達戦略か資金流失防止戦略かも知れません。
経営理論を使う前に自社の立ち位置を理解すること
世の中には、経営理論の本が溢れ、経営コンサルタントと呼ばれる人がいます。経営理論やそのフレームワーク、成功企業(いわゆるエクセレントカンパニー)の例が沢山紹介されています。
経営理論の多くが、米国から来たものです。欧米の成功した大企業の事例から導きだし、体系化したのが経営理論です。経営理論を適用しようとするとき注意すべきは、理論の元になった企業の事例や理論の適用例の会社がいる状況です。市場が地域なのかグルーバルなのか、事業規模が小さいのか大きいのかということです。それぞれを縦軸、横軸にとるとどの事象の事例かがわります。その上で自社の位置を確認することです。
また、起業時期の事例か、企業改革の事例か区別する必要もあります。ほとんどの経営理論は成功した事例から作られています。日本企業の衰退の理由は、他国の起業した成功事例から得た知見の裏返しとして説明されることが多いようです。日本企業が独自に持っている真の衰退原因がどこまで分析され経営理論に反映されているか疑問です。
先ほど例に上げたA社は、半導体や液晶パネル向けの部品を作っていました。小規模ですが、高い技術力があり国内大手メーカーに重宝されていました。ところが、納入先のメーカーが韓国、台湾、中国と拡大していきました。いつの間にか、立ち位置が「小規模グローバル」の事象に変わっていたのです。ところが、社長は「国内小規模」の意識が抜けていません。
「納入先の大メーカーは、技術力とこれまでの貢献があれば、自社を見捨てることはない」
と勝手に思っていたのが誤りでした。納入先のメーカーも自社もグローバル市場で戦っていることを認識しないで、経営理論を振りかざして「自社の『強み』を活かす」なんてコンサルと浮いた事業計画を作り撃沈してしまいました。
社長(幹部)が「実行する覚悟」を持つこと
「経営戦略」考え、「経営計画」を作成しても実行するのは大変です。会社の規模に関係なく、責任を持てない人が集まって決めたことは、たとえ正しい結論であっても、「決めたこと」を強力に推進し、社内外の抵抗勢力を押さえる力を持ちません。すべての責任を取らねばならない社長が、万難を排して「実行する覚悟」を持たなければ何も進みません。小さくとも「決定」をして、前に進まなければ運さえ巡ってきません。
コンサルを呼んで経営戦略を考え、経営計画を作成しても、経営者が本気でその計画を信じ、「実行する覚悟」ができているかどうかが重要です。経営者に「実行する覚悟があるかどうか」は、社員にも分かります。
社長自ら事業計画をつくり、その計画で予想されるBSを作成してみると、計画の内容や実現の難易度が実感できます。本当にPCに入力するかどうかは別として、事業計画の作成過程や予想BSの作成過程に接すれば、「実行する覚悟」が固まります。
まとめ
中小企業の経営者が、「経営戦略」を作成する上で気をつけるべき3つのポイントがあります。
1)資金を確保すること
2)経営理論を使う前に自社の立ち位置を理解すること
3)経営者(社長)が、「実行する覚悟」を持つこと
経営理論の多くは、世界の優れた会社の共通点から導かれた理論です。経営理論を使い「経営戦略」を立てるには、経営理論に隠れている前提条件としてのこれらのポイントを押させておかなければうまく行きません。