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人事制度として「成果主義」がうまく機能しない3つの理由と対策

 
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

人事制度として「成果主義」がうまく機能しない3つの理由と対策

 

「成果主義」がうまく機能しない3つの理由

「年功序列から成果主義へ」
「コロナの時代こそ成果主義」
人事関係のネット記事を見ているとこんな言葉が出てきます。多くの人事関係の支援企業、コンサルの方が「成果主義」のメリットを上げ、その実現方法を述べています。しかし、実際に「成果主義」を適用しうまく機能させるのは大変です。

日本において「成果主義」は、バブル崩壊後1990年代後半から大企業を中心に導入が進みました。ところが、数年でうまく行かないことが判明し、富士通、ブリジストン、三井物産など2000年代半ばまでにやめた会社が続出しました。そもそも導入の理由が、「年功序列」に基づく賃金制度で膨れ上がった人件費を抑えることであったことに問題があります。その後、制度としての「成果主義」は、日本風にアレンジされ広がっていますが、運用の困難さは、解消されていません。

成果主義がうまく機能しないのには、3つの理由があります。
1)個人目標と組織目標が、一致していない
2)評価する上司が、仕事を知らない
3)上司と部下が成果について十分な話をしない。
現在、多くの会社で成果主義が取り入れられています。(例えば、ARCリポート「成果主義の光と影 成果主義の導入を振り返る」)しかし、正確に言えば「年功序列との併用型」が多いようです。「成果主義」と「年功序列」とを組み合わせています。つまり、年功序列をベースとして、「成果主義」を取り入れて、昇格昇進に差をつける方法です。どの程度「成果主義」を取り入れるかは、各社で異なるというのが実態です。

そんな、「成果主義と年功序列併用型」でも、「成果主義」の部分をうまく運用しないと、弊害が生まれます。例えば、
1)個人の成果ばかりを気にして、評価されないことは避ける
2)「上司が正当に評価してくれない」との不満
3)確実にクリアできる低めの目標を立てる
4)リスクのあることを避ける
等々です。
この記事は、実際に1990年代後半から「成果主義」のもと、実際に日本と米国の会社で人事評価をした経験から「成果主義」の課題について紹介します。

 

個人目標と組織目標が、一致していない

「成果主義」とは、業務遂行の過程と結果を基準として社員の評価を行うという考え方です。勤続年数に応じて評価が上がる「年功序列」や、業務の結果だけが評価の対象になるといる「実績主義」とも異なります。「実績主義」と「成果主義」との違いは、「成果主義」が結果に加えて、何をどうやったかという過程も評価の根拠に含まれるという点です。

「成果主義」による評価は、営業職や生産担当などの売上や生産量、コストダウンなどで直接評価できる職種なら比較的容易にできます。ところが、間接部門と言われる事務職や開発部門では、評価が難しくなります。
そこで用いられるのが、個人目標です。半年や1年後の目標を設定し、これが達成されたかどうかで評価しようというものです。目標は、上司から与えられるか、自己申告で決めます。ここで、問題なのは、達成を確実にしようと容易な目標設定にしようとする傾向が生じることです。特に自己申告では、安全サイドの設定になりがちです。
この問題に対して、目標の難易度を付ける方式がでてきました。達成の難易度を5ランク程度に分類し、その達成度(5ランク程度)と掛け合わせ合計点を出して評価する方式です。フィギュアスケートや体操の採点方式と同様です。実際に、この方式を運用してみると目標に上げたことに対する成果の評価は、上司も部下もの納得できます。しかし、何か不足感があります。それは、目標としていることが、仕事の一部に過ぎないこと。目標が達成されても会社の発展に貢献していない場合があることです。

製造部門のAさんは、目標として「部門の生産性5%アップ」を上げていました。1年後に上司と面談したAさんは、こんなことを言われました。
「部門の生産性は、8%アップしたけど、君は何をしたのですか」
個人の仕事として、現場のトラブル対応で走り回っていたのですが、生産性向上にどうかかわったかうまく説明できませんでした。「生産性は上がり目標達成なのに、自分は上司に評価されなかった」との不満がAさんに残りました。
ある営業マンの例では、自分の契約目標が達成したら営業活動をしません。「来期の受注にとっておく」ためです。また、ある関東エリア担当の営業マンは、
「関東のお客を名古屋担当に奪われて目標未達になった」
と上司に言い訳をしていました。
これらの例は、個人の目標が、組織(会社や部署)の目標と一致していない例です。個人の目標設定に基づく「成果主義」の評価は、目標設定そのものが合理性を持っていないとうまく行きません。

 

評価する上司が、仕事を知らない

成果の目標は、上司の承認を得て決められます。ところが、上司がどこまで部下の仕事を理解しているか疑問です。
そもそも部下にどんな仕事し、どの程度の成果を期待するかを知らない上司が多くいます。部下が持ってきた業務目標や難易度を上司が追認するだけのことが結構あるのではないでしょうか。下手をすると部下が目標設定のテクニックを身に着け、単に古い書類を捨てるだけでも「標準類の整備」として目標にすれば、立派な仕事に見えます。

上司から売上など数値的に明確な目標を出す場合、現場の仕事をよく知らず、昨年の例に従い「生産性昨年比5%アップ」などと示す上司がいます。仕事の内容、難易度、将来性を理解しないで、部下の目標を決めているようでは、意味のある「成果主義」には、ならないでしょう。

「成果主義」を有効に働かせるには、上司が部下の仕事を知ること。その仕事の価値を理解することが必要です。そうでなければ、部下に舐められたような低い目標を立てることになります。あるいは、部下がやる気をなくすような過大な目標を示して、追い込むことになります。

 

上司と部下が成果について十分な話をしない

「成果主義」をうまく運用するには、成果を評価する上司と評価される部下が、仕事の成果についてよく話をすることにつきます。成果主義を活かすためには、徹底的なコミュニケーションが必要です。
そもそも、目標として取り上げる業務は、全業務の一部です。重要な仕事、見てくれのよいまとまった仕事を目標に上げ、膨大な量の「雑用」とも言うべき仕事は目標にしません。設備のトラブル対応、上司の質問に対する対応、突然の来客や顧客からの問い合わせなどなど「雑用」として目標のリストから外されているものです。これらの「雑用」を上司が理解せずに評価をすれば部下の不満が高まります。
また、開発や革新的プロジェクト、イノベーションと言われることに携わる仕事は、成果が半年や1年で出ることは稀です。トライしたこと自体を評価しなければ、当人たちはやる気をなくします。とにかく上司は、話を聞くことが必要です。

私は、「成果主義の本場」米国で部下を持って仕事をしていました。そこで、製造課長の成果について本人と話をしました。
「よくやった。君のお陰で、生産が昨年よりも10%増えた。これを評価して昇給する。」
こう話しました。すると、彼は
「ボス(私のこと)が、設備投資を認めてくれたら、30%は生産を増やせた。もっと昇給してもらえた」
と答えます。
そういうが、もし君が別のやり方をしていたら、10%ではなく15%増産できたのでは」
「でも、設備投資をした場合の30%には届かない」
「投資をして30%増産したら、販売が追い付かず工場は在庫の山になったであろう」
「それは、そうかも知れないが・・・」
といった調子で、延々と部下と上司が、成果について互いに納得するまで話をします。
米国で「成果主義」が定着しているのは、ベースに「年功序列的」な考え方がそもそもないことに加え、部下と上司が成果について良くコミュニケーションを取っているからかも知れません。多くの社員が上司と「成果を議論する」というより、「部下が自分の給料の根拠を上司に聞く」と言った感覚で話すことが、「成果主義」を定着させている理由かと思います。

「成果主義」とは、上司にとって意外に面倒なものです。「年功序列」なら考えずとも評価や給料が、自動的に決まります。ところが、「成果主義」では、相手が納得する形で、「成果の評価」を説明しなくてはなりません。これができていない「成果主義」は、年功序列より社員の不満が高まる可能性があります。


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まとめ

成果主義がうまく機能しないのには、3つの理由があります。
1)個人目標と組織目標が、一致していない
2)評価する上司が、仕事を知らない
3)上司と部下が成果について十分な話をしない
たとえ「成果主義と年功序列との併用型」であっても「成果主義」の部分をうまく機能させないと弊害が生まれます。

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