労働生産性を上げる事務処理改革。不要な仕事は、ECRSの視点でみて「すぐやめる」
不要な仕事は、ECRSの視点でみて「すぐやめる」
「労働生産性が上がらない要因」について、事務処理部門の人に聞いてみた
従業員が400人ほどのある事業所で、「業務グループ」と言われる10人ほどの事務処理を主たる業務とする職場がありました。そこで、「生産性があがらない要因は何か」をテーマとしてヒヤリングしたことがあります。すると、以下のような意見が出てきました。
「誰が担当かわからない業務の依頼があり、担当してくれる人を探しまわる」
「毎日、毎月の各種集計業務が多い」
「夕方になると上司や他部署からの突発依頼業務が多い」
「外部から来るデータが、なかなか集まらず仕事が進まい」等々
聞く人すべてから、沢山の不満が出てきました。そのなかで、特に気になったことがあります。それは、
「自分達の苦労を幹部は知らない」
という声でした。
幹部は、部下が「何の仕事を」「どんなやり方」で遂行しているかを知らない
製造現場に行けば、「何の仕事を」「どんなやり方」で遂行しているかすぐわかります。ところが、事務処理部門では、オフィスに行ってもパソコンの前で仕事をしている姿を見ることはできますが、「何の仕事を」「どんなやり方」でしているかは、話を聞かないとわかりません。ましてや、前述のような苦労など分かりません。もちろん、直接の上司や過去にその仕事をしたことがある人は、知っています。そんな人にとって、「その仕事」も「やり方」もあたり前、生産性向上の問題点とは思いません。
ある時、社内で生産性改善の進捗報告会がありました。職場毎にスライド5枚程使ったミニ発表です。ある事務処理職場でパソコンソフトを改善して、月々の集計業務時間を短縮したことが発表されました。なかなかいい発表です。すると、出席していた部長からこんな話がでました。
「知らなかったな。いい改善だが、それ以前に、内の部でそんな仕事を、しかも手作業でしていたとは」
「その資料、私も毎月回ってくるから見ていたけど、あんまり必要性を感じないな。何かに利用している人がいるのかね。改善発表を聞いた後で申し訳ないが、やめてもいいのでは」
発表した女性社員は、呆然としています。部長もまずいと思ったのか、
「すまん。君たちの苦労を知らなかった、私が悪かった」
ということで、その場は終わりました。
部長など幹部や他部署の人は、作業結果である資料を目にすることはあっても、その作成過程は知りません。また、その資料の必要性も「誰か使っている人が、いるかも知れない」位しか思っていません。幹部は、仕事を「しろ」とは、指示しますが、「やめろ」との指示はしないものです。
後日談ですが、部長が知った「不要な仕事」は、廃止になりました。また、彼女が躊躇していた40万円のソフトの購入の話を聞いてもらい、「今どき、そんな手作業をしているのか。40万円で、生産性が上がる既製品ソフトがあるなら、すぐ買いなさい」で決着がつきました。
労働生産性向上は、ECRSで業務チェック
前の例のように、生産性を上げるには「不要な仕事」を廃止することが一番効果的です。このような、仕事の見直しをするときの考え方を示すのがECRSという手順です。以下、事務処理をこの手法で考えてみます。
ECRSとは、Eliminate(排除)、Combine(結合と分離)、Rearrange(入替えと代替)、Simplify(簡素化)の英語の頭文字を選択したものです。生産性向上を図るには、業務をECRSに当てはめて検討するといいでしょう。前の例のように、業務改善をしてから、その業務そのものが不要なんてムダが防止できます。(参考:㈱日集本能率協会コンサルティング用語集)
「E: 排除する」
「やめられることはなにか?」といった思考法。事務処理の場合、担当だけでは判断しにくく、幹部に「この資料、本当に必要ですか?」などと問いかける方法もあります。
「C: 結合する」
「異なる手順や作業を同時並行・同時処理できないか?」という思考法。異なる職場での重複作業などが例としてあります。重複は、モノづくりにおいては、すぐに気が付きますが、事務処理では、見つけにくいものです。各部署で同じような統計を取っているようなことがありませんか。
「R: 再編成する」
排除や結合・分割が完了した業務に関して、「全体の構成や流れを見直し作り変えることができるか?」を検討すること。業務フローや人員配置の最適化がこれに当たります。
「S: 簡素化する」
「複雑な工程や業務をもっとシンプルにできないか?」改善活動の最後に理想の業務や行程の形を検討することです。「排除」の改善行程では廃止されなかった業務や行程を最適な状態にする「仕上げ」の活動です。
まとめ:労働生産性向上は、上司が部下の仕事を知ること
事務処理職場の生産性向上は、まず仕事を見える化することです。幹部が、「何の仕事を」「どんなやり方」で遂行しているかを知ることで、改善が加速することがあります。要は、幹部の生産性に対する関心が重要ということです。また、業務をECRSの手法で進めていくことは、効率的に生産性を上げる手法として大切です。更に、システム化による生産性の向上策などは、今後の記事に載せていくつもりです。