「能率」と「効率」に分けてアプローチする8つの生産性向上対策
「能率」と「効率」に分けてアプローチする8つの生産性向上対策
よくある「生産性向上対策」は、「能率」と「効率」を混同している
Googleで「生産性の向上」と検索すると様々な記事が出てきます。人材採用会社や研修会社の方が書かれた記事が、多いようです。教科書的にまとまっていますが、生産性向上で苦しんだ者からすると、「それだけじゃないよ」と思えます。これらに紹介されている生産性向上対策は、「能率」と「効率」を混同しています。よく紹介される機械化やシステム化は、能率を上げますが、動いている時間が短ければ、全体の生産性は上がりません。会議や休み時間を減らせば、生産性は上がりますが、必要な時間を削れません。能率と効率をそれぞれバランス良く改善することで、生産性向上が実現します。
ところで、「能率」とは仕事の速さです。一方、「効率」とは、全労働時間に占める有効な仕事をした時間比率です。東京から大阪まで500キロを10時出発17時着、途中休憩を2時間取ったとします。能率である平均走行速度は、100キロ/時です。効率は、5時間/7時間で71%です。与えられた7時間で、出来るだけ遠くまで走行しようとすると、平均走行速度を上げるか、走行時間を増やすかです。生産性の向上には、「能率」と「効率」とをそれぞれ整理して対策をたてるのが有効です。以下に「能率」と「効率」に分けてアプローチする生産性向上対策をご紹介します。
なお、生産性における「能率」と「効率」についての詳細は、本ブログ「生産性は『能率』と『効率』で決まる」にあります。
「能率」を上げる生産性向上対策
業務の標準化を行う
同じ業務を行ってもメンバーによってやり方が異なれば、作業時間、品質にばらつきが生れます。業務が属人化されていると、退職や異動でたちまち混乱します。業務のマニュアル化、標準化が極めて重要です。製造現場で「職人芸」といわれていること、事務処理の仕事で上司さえ知らないものなどを表出しすることです。マニュアルや標準を作るときのコツは、その職場で最も能率のいい人の仕事のやり方を取り入れることです。「最も能率よく仕事をする人」のやり方が、新人でもできるようなマニュアル、標準が理想です。
各個人のスキルをアップする
仕事の能率は、個人のスキルと設備に依存します。同じ設備や環境のもとでは、新人が配属されたり、配転者が来ると必ずグループの生産性は下がります。これらの人をいかに早く一人前にするかが、生産性回復の鍵となります。「新しい人を育てるのは大変だ」と新人や配転者を受け入れた側から声がでます。しかし、積極的に彼ら(彼女ら)にやらせることで、あんがい早く一人前になるものです。OJTと言いながら、日本的な「見て覚えろ」とか「仕事を盗め」では、時間がかかり過ぎます。こんな教育法は、今の若い人にそっぽを向かれます。新人の生産性(能率)のデータを取ることをお勧めします。
「新人のころは、時間あたり3.5個仕上げていたのが、6か月後の5.2個になった。君の頑張りが、数字で出ているよ」
これは、実際に職場であった話です。新人の生産性を取り、推移を本人に示すことでスキルアップが実感でき、本人の励みになった経験です。
自動化、システム化する
人に代わって機械で仕事をする自動機械、システムは、「能率」大きく生産性を向上させます。IT技術でも、最近はRPA(Robotic Process Automation)のように、パソコンでおこなう定型業務をプログラム上のロボットに覚えさせ自動化できます。問題は、それなりに投資が必要であり、十分な仕事量がなければ、「効率」を維持できず宝の持ち腐れとなることです。
「効率」を上げる生産性向上対策
社員1人ひとりの業務を見える化する
製造現場や紙で仕事をする事務処理では、仕事の進捗を容易に把握できます。ところが、パソコンの前で仕事をしている職場では、仕事の進捗が全くわかりません。単純な事務処理ならコンピューターの入出力量でわかりますが、コンピューターによる設計(CAD)やシミュレーションになると職場のリーダーも仕事が終わるまで全く途中経過が分からない状況になります。仕事を失敗してやり直しロス時間が発生していても、本人以外分かりません。職場リーダーの重要な役目である「業務が適切に振り分けられているか」「優先順位が低い業務をしていないか」「いつまでにその業務を終わらせるのか」といった管理ができないのです。どうすれば、見える化できるか、職場ごとに解決していく必要があります。職場のグループ員それぞれが、適切な負荷で仕事をする状況を作ることが「効率」を高めることになります。
多能工を増やし、忙しい人をサポートする
仕事は、量と質の変動があるものです。個々の担当者が、一つの仕事しかできないと、仕事のオーバーフローと仕事待ちの状況がすぐ生じます。一人の人が、少なくとも2,3種類に仕事をこなす多能工であれば、大いに「効率」を高められます。個人スキルとして多能工になること、リーダーは、その人達を活用することが大切です。リーダーは、チーム内の仕事と誰が出来るかの星取表を作ることをお勧めします。意外なほど「その人」しかできない仕事が多いことに気付くものです。
仕事のミスを減らし、やり直し時間を減らす
仕事でミスをするとやり直し時間が発生します。一連の仕事では、ミスの発見が後工程になるほどやり直し負荷が増え、トータルのロス時間が増えます。製造業では、原料のロスが発生するので、ミスは注目されます。しかし、サービス業などモノが伴わない仕事では、仕事のミスによるロスが見逃されやすいものです。注文の内容が曖昧で何度も発注者に内容確認をする。コンピュータープログラムの設計のミス。印刷が終わってからミスプリが発見される等々は、生産性を直接的に下げています。担当者だけが知っている作業ミスによるロスを表に出す必要があります。
効率を上げる、社員の空き時間を無くすシステム
システム化は、その速い処理速度により「能率」を高めます。また、一方で「効率」を高めるシステムもあります。例えば、設備の空情報を営業に伝えて、稼働率を高めるシステムがその例です。タクシーのオンライン配車、ホテルの予約システムなど企業の存亡にかかわるシステム化であると認識すべきです。日本が米国に後れを取った大きな要因は、「効率」を高めるシステムの構築遅れです。演算速度が世界一のスーパーコンピューター「富岳」は、「能率」世界一です。しかし、どのくらい有効に稼働しているかの「効率」においては、今後の課題です。
さまざまなワークスタイルの許容。オフィスだけが、職場ではない
新型コロナウイルス感染症の影響により各企業でリモートワークといった働き方が急速に普及しました。インターネット環境を整備することができれば、時間や場所を問わず、いつでもどこでも仕事をすることが可能だと証明されました。リモートワークやフレックスタイム制のように、ワークスタイルの自由度を高めることによって「効率」が向上します。
まとめ
「能率」とは仕事の速さ。「効率」とは、全労働時間に占める有効な仕事をした時間比率です。労働生産性を向上させるには、「能率」と「効率」に分けて、それぞれからアプローチすることが有効である。能率では、1)標準化 2)個人のスキルアップ 3)自動化、システム化。効率では、4)業務の見える化 5)多能工化 6)ミスの削減 7)社員の空き時間を無くすシステム 8)多様なワークスタイルの許容などが、生産性向上対策となる。