多くの人は、幼児の頃に持っていた「学習意欲」をなぜ失ってしまうのか?
多くの人は、幼児の頃に持っていた「学習意欲」をなぜ失ってしまうのか?
学習意欲は、「自分にもできる」というマインドセットから生まれる!
近年、日本社会では「リスキリング」という言葉が頻繁に語られるようになっています。デジタル技術の進展、AIの普及、産業構造の変化により、社会人が継続的に学び直しを行うことが不可欠だとされています。政府や企業も、社員の学び直しを支援する制度を整備し始めており、研修やオンライン講座、資格取得支援など、表面的には「学びの機会」は増えています。
しかし、その一方で、日本の社会人の学習意欲は決して高いとは言えないようです。例えば、ベネッセの調査報告(「社会人の4割以上は学習経験がなく、リスキリングにも無関心」)によれば、リスキリングの必要性を理解している社会人は多いものの、実際に学習行動に移している人は限定的であることが示されています。頭では「学ばなければならない」と分かっていても、心と行動がついていかないのです。
同様の構図は、子どもの教育にも見られます。学校教育の大きなテーマの一つは「学習意欲の向上」であり、「主体的・対話的で深い学び」が強調されています。にもかかわらず、現場では「勉強しない子」「やる気がない子」が問題として語られ続けています。つまり、大人も子どもも、「学習意欲の不足」が共通の課題になっています。
こんな状況を受けてか、世の中には学習意欲を高めるためのテクニックが数多く紹介されています。モチベーション管理の方法、習慣化のコツ、効率的な勉強法、目標設定の仕方など、本やネット記事を探せば無数に見つかります。しかし、これらのテクニックには、ある前提条件があります。その前提が満たされていなければ、どれほど優れた方法論も効果を発揮しません。
その前提とは、「自分にもできる」というマインドセットです。
どれほど合理的な勉強法を知っていても、本人が、
「どうせ自分にはできない」
「自分には無理だ」
と思っている限り、学習意欲は生まれません。逆に、
「自分にもできる」
「時間をかければ到達できる」
と信じている人は、多少の困難があっても学び続けます。学習意欲の根源は、テクニックではなく、本人の心の持ちよう、すなわちマインドセットにあります。
「自分にもできる」というマインドセットは、人の一生を通じて大切な要素です。勉強に限らず、習い事、スポーツ、あるいは怪我や病気のあとのリハビリといったことでも「自分にはできる」というマインドセットが、「やる気」や「継続性」の基礎となります。
幼児期、どんな人も「自分にもできる」というマインドセットを持っています。ところが、成長するに従い失ってしまう人が多くなります。
この記事では、「自分にはできる」というマインドセットを失う過程とその影響例をご紹介します。
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「無敵」のマインドセット 心のブレーキを外せば、「苦手」が「得意」に変わる
幼児は学習意欲の塊
幼児は、転んでも、転んでも立ち上がり歩こうとします。何度転んでも、痛くても、周囲が止めても、再び立ち上がり足を前に出そうとします。そこには、「恥ずかしい」「失敗したらどうしよう」といった感情はありません。ただ「歩けるようになりたい」「自分も歩けるはずだ」という純粋な意欲だけが存在しています。
また、幼児は世界のあらゆる事象に対して
「どうして?」
「なんで?」
と親や大人が「うっとおしい」と思えるほど、次々と質問をしてきます。これは、幼児が生まれながらにして強い学習意欲を持っている証拠です。周囲の世界を理解したい、知らないことを知りたい、できないことをできるようになりたいという欲求が、行動の原動力になっています。
幼児の行動を観察すると、学習意欲の源泉がどこにあるかが明確です。それは、
「自分にもできるはずだ」
という自己効力感です。幼児は、歩けるようになることを疑いません。言葉を覚えられることを疑いません。世界を理解できることを疑いません。人間は本来、学習意欲に満ちた存在であり、その意欲が他の動物とは異なる進化の道を歩ませたと考えることができます。人間が文明を築き、技術を発展させ、社会を形成してきた背景には、この強烈な学習意欲が存在することが大きいかも知れません。
ところが、この学習意欲は、成長とともに弱まり、失ってしまう人もいます。幼児期には誰もが持っていた「自分にもできるはずだ」という感覚が、学齢期、そして成人期にかけて、多くの人が失っていくことが原因です。
学齢期に「自分にはできない」という壁を作る
小学校に入るころから、学習意欲に大きな個人差が生まれます。幼児期には誰もが持っていた学習意欲が、学齢期になると急速に低下する子どもが現れます。その理由は、環境の変化にあります。
学校では、テストや通知表によって評価が行われます。点数や成績によって、子どもは自分の位置づけを意識するようになります。友達との比較も始まります。「あの子は頭がいい」「自分は勉強が苦手だ」といったラベルが、日常的な会話の中で形成されていきます。失敗は「恥」として扱われることも増え、間違えることを恐れるようになります。
こうした環境の中で、子どもは次第に「自分にはできない」「自分は勉強が向いていない」「自分は運動が苦手だ」といったマインドセットを形成していきます。このマインドセットが形成されると、学習意欲は急速に低下します。勉強だけでなく、運動でも、音楽でも、習い事でも、「自分にはできない」と思ったとたんに練習しなくなります。これは能力の問題ではなく、心の問題です。
学齢期の子どもにとって、学習意欲を左右するのは、能力そのものではなく、「自分にもできる」という感覚が保たれているかどうかです。幼児期のような自然な自己効力感が、評価と比較によって削られていくとき、学習意欲は失われていきます。
大人になるとマインドセットの差が学習意欲を決定的に分ける
大人になると、この現象はさらに強まります。「自分には無理」と思う人と「自分にもできる」と思う人では、学習意欲がまったく異なります。成人は、幼児や子どもよりも複雑な心理的背景を持っており、その分だけマインドセットの影響も大きくなります。
まず、失敗が社会的リスクになります。仕事での失敗は評価に直結し、昇進や給与にも影響します。新しい挑戦に失敗したとき、「恥」「損」「時間の無駄」と感じやすく、これを回避したい気持ちが強くなります。学生時代のように「失敗してもやり直せる」という感覚は薄れ、「失敗したら取り返しがつかない」と感じる人が多くなります。また、学習において、保険的な取り組みがなされます。つまり、うまくいかなくても、現在の仕事や立場に影響が出ない程度にやるといった態度です。その裏には、「自分にはできる」といった明解なマインドセットは存在しません。
次に、過去の経験が固定観念をつくり出しています。学生時代の成績、受験の成功や失敗、就職活動の結果、職場での評価などから、「自分はこういう人間だ」という自己イメージを作っています。「自分は文系だから理系のことは分からない」「自分は勉強が苦手だから資格試験は無理だ」「自分は運動神経が悪いからスポーツは向いていない」といった固定観念が、マインドセットとして定着します。
さらに、周囲の評価が強く意識し、他人の目を気にします。新しいことを始めると「どうしたの?」「急に勉強なんてして」といった反応が返ってくることがあります。それが心理的ハードルとなり、「余計なことはしない方がいい」「目立たない方が安全だ」ということになります。
こうした要因が重なり、成人は「自分にはできない」「自分の能力には限界がある」というマインドセットを持ちやすくなります。このマインドセットは、学歴や職歴を通してさらに強化されます。偏差値や大学名、会社名や役職などが、自分の能力の「証拠」として扱われ、「自分はこの程度の人間だ」という自己認識を固定してしまうのです。
一方、楽器を練習する人、ゴルフを練習する人は、必ずしも「プロになれる」と思っているわけではありません。それでも続けられるのは、「普通の能力でも、このくらいなら到達できる」という現実的な自己効力感があるからです。自分の能力には限界があると理解しつつも、「その限界の中で、まだ伸ばせる余地がある」と信じているのです。
音楽教室の宣伝では、
「中高年の方でも、好きな曲がピアノで弾けるようになります」
と言い、ゴルファー向けには、
「60歳で180ヤードだったドライバーの飛距離が、レッスンで230ヤード」
などと、可能性をPRします。つまり、
「あなたもできるようになります」
を強調しています。まさに「自分にもできる」というマインドセットをつくり出し、学習意欲を引き出そうという宣伝です。
大人になっても学習意欲を失わず、なお向上心を持ち続ける人には、特徴があります。
それは、「自分もできるようになる」というレベルの目標の設定が、うまくできているということです。
例えば、中高年になって英会話や楽器を習い始め継続できている人は、通訳や音楽のプロを目指している訳ではなく、外国旅行で会話をしたい、ある曲が弾けるようになりたいといった「自分にできそうな目標」を持っています。
ゴルファーなら「90を切りたい」、「80歳までゴルフを続けたい」といった目標を持つことで練習が継続できるといったことです。
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まとめ
学習意欲を高めるには、「自分にもできる」というマインドセットを持つことが重要。幼児は「自分にもできる」と信じて行動します。転んでも、転んでも歩こうとし、「どうして?」と問い続けます。
ところが、成長するにつれ、評価・比較・失敗経験、文化や社会構造によって、「自分にはできない」「自分の能力には限界がある」という壁を作り、学習意欲を失う人が増えます。
成人の学習意欲を高めるには、「普通の能力でも、このレベルなら到達できる」という現実的な目標を持つことが重要です。
