「炎上」の拡大版である「キャンセルカルチャー」のメリットとデメリット

「炎上」の拡大版である「キャンセルカルチャー」のメリットとデメリット
「キャンセルカルチャー」とは
「コロナ禍、『自粛警察』がSNSを賑わせる」
「フジテレビと中居正広氏を巡る2024年から2025年の問題」
このような、法律には触れていないが、「容認されない言動を行った」という理由で、非難され、排斥・追放されるような社会的現象を「キャンセルカルチャー」と呼びます。
キャンセルカルチャー(Cancel Culture)という言葉は、アメリカで生まれ、特に2010年代中頃からSNSの普及とともに広がりました。元々は、1980年代の音楽や映画の中で、「打ち切り」「終わり」といった意味で、「キャンセル」という表現が使われたようですが、現代的な意味でのキャンセルカルチャーは、2015年頃からTwitterなどのSNSを利用する黒人の間で広まり、「#MeToo運動」や「Black Lives Matter運動」など、社会的な不正や差別に対する抗議活動の一環として広がりました。
キャンセルカルチャーは、特定の個人や団体の発言や行動が社会的に問題視される際に、批判やボイコットなどを通じてその影響力を制限しようとする動きです。この現象は、社会的なメリットとして以下のようなものがあります。
1)社会的責任の顕在化
不適切な行動や発言をした個人や団体に対し、責任を問うことで倫理的な行動を促します。米国では、人種差別的な発言をした企業の広告が批判を受け、企業が謝罪して広告を撤回するといったことがよくあります。「#MeToo運動」では、有名な映画プロデューサーが長年にわたり性的暴行を行っていたことが告発され、当事者が業界から排除されるようなことがおきました。
日本でも、芸能人スキャンダルなど、法的には問題ない、あるいは解決済みと当事者が思っていたことが、社会問題化することがあります。
2)被害者の声を広める
キャンセルカルチャーの現象がおきると、声を上げにくかった弱い立場の人々や少数派の意見が出し易くなります。その結果、社会的な問題への関心を高めるきっかけとなります。いじめやパワハラを受けた人がSNSで声を上げることで、多くの人が共感し、加害者や企業に責任を取らせるといったことです。
3)行動の変化を促す
批判を受けた個人や団体が、過去の行動を反省し公正な方針に変化します。さらに、社会全体の意識改革や行動の変化を促します。
なお、キャンセルカルチャーと同じような現象に、「炎上」があります。対象の個人や団体の発言や行動が原因で非難が集中することは同じです。ただし、炎上は一時的な感情的反応が多く、時間が経つと自然に収束することが一般的です。これに対し、キャンセルカルチャーは、倫理的・道徳的に問題があるとされる行為や発言に対して、社会的制裁を求める運動です。不買運動や出演キャンセル、契約解除など、具体的な行動を伴うことが特徴で、長期的な影響を与えます。対象者の社会的評価や活動に大きなダメージを与えます。炎上は一時的な「騒ぎ」であるのに対し、キャンセルカルチャーは社会的な「制裁」を目的とした持続的な動きと解釈できます。
広告
ハマス・パレスチナ・イスラエル-ーメディアが隠す事実 (扶桑社新書)
キャンセルカルチャーの弊害
キャンセルカルチャーの弊害もあります。例えば、
1)過剰な批判やリンチ化
2)一方的な判断
3)表現の自由の抑制
といったことです。一度キャンセルカルチャーの現象が起きるとその流れがエスカレートしがちです。もし、批判している内容が誤りであったり、一方的な見解であったりしても、制御できなくなってしまう可能性が大きくなります。
過剰な批判やリンチ化
批判が行き過ぎると、対象の個人や団体の社会的地位を完全に破壊し、精神的な健康やキャリア、事業に深刻な影響を与えます。法に触れるようなことをしていなくても、キャンセルカルチャーにより制裁を受けるのは、リンチと同じです。法律によって裁かれる場合は、客観的な基準があります。ところが、リンチ化すると批判する人の感情、社会的なムードで制裁が加えられることになります。
一方的な判断を押し付ける
キャンセルカルチャーや炎上は、SNS上へ個人や団体の批判意見から始まることが多いものです。その批判の元になる情報は、必ずしも正確とは限らず、誤った情報に基づいて不当なキャンセルが行われるといったことがあります。直接当事者の言動に接したのではなく、誰かの言ったことやSNSの投稿内容を元に批判が増幅されます。
また、「良い」「悪い」の判断基準が、批判者の倫理観や宗教観によるところもあります。「セクハラや女性蔑視の言動」をしたとして批判に対して、イスラム教の人々は「男は男の役目が与えられ、女には女の役目が与えられ、神の元では平等」と反論するかも知れません。
表現の自由の抑制
過去にキャンセルカルチャーを体験したり、社会現象をみたりした人は、キャンセルカルチャーや炎上を避けようとします。言動に対しての有無を言わせぬ反論、意見・意図の誤解を恐れて、自由な意見交換が難しくなる可能性があります。
日本では、原子力発電の推進、核兵器を含む軍事問題、機密漏洩法(スパイ対策)強化などに対する積極的意見は、キャンセルや炎上を引き起こすリスクがあり、避ける傾向があります。世間話のレベルでは、摩擦の起きる話題は避ければいいのですが、政治家や学者が避けてしまうのはいかがと思うところではあります。
まとめ
キャンセルカルチャーは、社会や対象者に対して
1)社会的責任の顕在化
2)被害者の声を広める
3)行動の変化を促す
といったメリットがある一方で、対象の個人や団体に対して
1)過剰な批判やリンチ化
2)一方的な判断を押し付ける
3)表現の自由の抑制
といったデメリットがあります。