悩ましいトレードオフの関係を「AND思考」で考えて解決する
悩ましいトレードオフの関係を「AND思考」で考えて解決する
トレードオフの対処は、3つしかない
「コロナ感染を止めるには、ロックダウンが一番。でも、経済が止まる」
「品質を高めようとすると時間と手間がかかる」
「ダイエット中で、食べたいものが食べられない」
世の中には、こんな「トレードオフ」( trade-off)の関係が溢れています。トレードオフとは、「何かを得ると別の何かを失う」、相容れない関係のことです。トレードオフは、元々経済用語でしたが、今ではビジネスシーンだけではなく、日常生活でも使われています。
トレードオフは、一方を尊重すればもう一方が成り立たない悩ましい状態のことです。ビジネスシーンや個人生活において常に現れるものです。トレードオフの対処を間違うと金銭的な損失を伴います。また、精神的にも2つ以上の欲求の板挟みになって、強いストレスを感じることになります。
極論すれば、「トレードオフの関係をうまく対処した企業や個人が、大きな成果を得ている」と言っても過言ではありません。
AとBの要素が互いにトレードオフにある時の対処法は、3つしかありません。
1)どちらかの要素を選ぶ(AかB)
2)2つの要素のバランスをとる(AとBの中間)
3)2つ要素が両立する「AND思考」で考える(AとBどちらも)
トレードオフの関係にある問題の対応をするとき、AかBを選ぶか、AとBの折衷案を考えがちです。しかし、問題の捉え方によっては、AもBも成り立つ道が見つかります。そんな、AとBを両立させる道を見つけた企業や人は、大きな成功を手にしています。
トレードオフに直面して、どちらかを選ぶ
ビジネスの世界で、「選択と集中」を盛んに言われる時期がありました。バブル崩壊後、多角化で肥大化した事業を統廃合することが推奨されました。特にその会社のメインと言われた事業をやめるのには、大きな抵抗があります。しかし、限られた資金と人材をいくつかの事業に分散させるとどれも成功は得られません。トレードオフの関係になった問題においては、いずれかの要素にすべてを賭けることで大きな成功の可能性がでてきます。
トレードオフの要素になり易い時間や資金は、個人や企業にとって有限です。それを、AかBのいずれかに集中させることは、リスクを伴います。高校生がすべての時間を受験勉強につぎ込む、あるいはスポーツにつぎ込むというのも「どちらかを選ぶ」戦略です。強い意志がなければ、うまく行かないかも知れません。
「どちらかを選ぶ」戦略を取ったとき、成功の秘訣があるとすれば、選択したら迷わないで実行することです。
気をつけたいのは、トレードオフの問題に対して、「二分割思考」で対応することです。AとBの要素があるトレードオフの問題に対して、「All or Nothing」で考えるのは危険です。例えば、
「優勝できなければ、何位であっても同じ。勝者か敗者か」
「悪人か善人か」
などと考えることです。マスコミの報道には、この手の考え方が蔓延しています。ほとんどのトレードオフの問題は、AとBの要素を0と100に分割できません。個人生活や家庭があれば、「仕事に100%集中している」といっても現実には、わずかであっても時間と労力を仕事以外に回さざるを得ません。「100%悪人」「100%善人」もいないものです。
また、二分割思考は、必要以上の完璧主義に繋がり精神的にストレスを受けやすいことに注意が必要です。
2つの要素のバランスを取る
トレードオフが起こった時、2つの要素の最適なバランスを考えるのが一般的です。もともと両立はできないのですから、ベストな配分を考えることになります。
様々なビジネスシーンにおいて、トレードオフが現れたとき、2つの要素のバランスを考えて意思決定がなされます。先のコロナ感染対策でも
「飲食店の営業は認めるが、酒類の提供時間の制限をして欲しい」
といった具合です。このような選択は、関係者全員から不満が出やすいことを覚悟しなくてはなりません。それぞれの立場で利害が異なるからです。
そこで、重要なのはトレードオフの問題に直面したとき、共通の目的を各人が共有し、全体最適化の意識をもつことです。
これは、一種の企業理念にも繋がります。私は、製造会社において、品質を上げるとコストがかかる。納期を短くすると品質が下がる。こんなトレードオフの状況に直面していました。そこで、
「品質の納期を守って、コストミニマム!」
というスローガンを出しました。「品質と納期を守れなければ、『製品』とは言えない」との考え方が根本にあります。製造において、いくつかの工程や部署が関わっていると、各部署は勝手に「優先順」をつくってしまいます。製造部門は、品質にこだわり納期遅れを気にしない。調達部門は、安さにこだわる。営業部門は納期にこだわる、といった具合です。各部署が、同じ考え方、つまりバランスポイントを共有していないとトレードオフ関係にうまく対処できません。当初は、
「コストの優先順が低く、これで会社が潰れてもいいのか」
といった反発もありましたが、当時大手企業の品質問題が世間を賑わせていたという背景もあり、この考え方は理解され定着しています。
2つ要素が両立する「AND思考」で考える
トレードオフと思っている問題が起きた時、「本当にトレードオフか」と考えることが重要です。トレードオフに見えていたものが、視点を変えるとトレードオフでなかったということもあります。
「AND思考」は、トレードオフから逃げずに両立させようとするものです。ジム・コリンズ他著「ビジョナリー・カンパニー」(日経BP社)には、これを「ANDの才能」として紹介しています。そこには、ANDの才能について
「さまざまな側面の両極にあるものを同時に追求する能力である。AかBかのどちらかを選ぶのではなく、AとBの両方を手に入れる方法を見つけるのである。」(p.73)
と述べています。利益を超えた目的と現実的な利益の追求。理念の管理と自主性の発揮。そんな一見矛盾するようなことを両立させる。そういう考え方をし、実践して成功している会社が紹介されています。
都会に店やオフィスを構え、客や社員を集めることで、売上や業務の効率化が図れます。しかし、高い家賃や従業員の長い通勤時間が問題です。売上と家賃や従業員の通勤負荷は、トレードオフの関係に見えます。ところが、近年リモートワークやネット販売が主流になると、必ずしも都会に店やオフィスを構えずとも仕事ができるようになりました。売上と高い賃料や通勤時間との関係は、トレードオフから解消されようとしています。
企業変革や開発を成功させる会社は、「AND思考」を実践しています。トレードオフの問題に直面したとき「両方解決できる方法はないか」と徹底的に自問自答をして自分たちの解を見出していきます。企業改革、発明品の多くは、トレードオフの問題を「AND思考」で克服した成果です。
まとめ
「何かを得ると別の何かを失う」、相容れない関係のことを「トレードオフ」と言います。トレードオフの関係にある時の対処法は、3つしかありません。
1)どちらかの要素を選ぶ
2)2つの要素のバランスをとる
3)2つ要素が両立する「AND思考」で考える
トレードオフの対応をするとき、どちらかの要素を選ぶか、2つの要素の折衷案を考えがちです。しかし、問題を「AND思考」で捉えることで、2つの要素を両立させ大きな成果を上げることが期待できます。