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「私には、これしかない」という気持ちに注意、それ「認知的固定化」かも?

 
旋盤を使う職人のイラスト
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

「私には、これしかない」という気持ちに注意、それ「認知的固定化」かも?

 

「私には、これしかない」という気持ちとは

「ミュージシャンAを推して、20年」
「この仕事20年、私にはこれしかない」
「いつも観ている、いつものYouTube」
こうした言葉を口にする人がいます。同じ仕事、慣れ親しんだ狭い範囲の環境や情報、限られた選択肢に長く浸ることで、人は自然と「自分にはこれしかない」「これがすべてだ」と感じやすくなります。
心理学や認知科学では、以下のような概念で説明されます。
・機能的固着(Functional Fixedness)
特定のやり方や価値観に固着し、他の可能性を見失う状態。
スキーマ(schema)
過去の経験や知識から形成された、情報を受け入れて解釈するための認知的枠組み。(思い込みや思考の土台)
・エコーチェンバー効果(Echo Chamber Effect)
 SNSやネットニュースで、自分と同じ意見だけに接することで世界観が一方向に強化される現象。
この記事では、これらの現象をまとめて、「認知的固定化」と呼びます。
認知的固定化は、年齢に関係なく誰にでも起きる心理現象です。しかし、経験が長いほど固定化しやすく、ベテラン社員や管理職では特に注意が必要です。
以下、認知的固定化が起きる原因、その影響と対策について、実例を入れてご紹介します。

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なぜベテランほど、認知的固定化が起きるのか。5つの原因

1)長年の経験による判断基準の固定化
長く同じ仕事を続けていると、行動や判断が自動化されていきます。その結果、いつの間にか
「このやり方が正しい」
「他の方法は効率が悪い」
と思い込んでしまうようになります。また、臨機応変に変化させるという柔軟性が低下します。経験は強力な資産ですが、同時に思考の幅を狭める要因にもなります。

2)属人化(自分にしかできない仕事の増加)
特定の社員に業務が集中すると、その人だけが持つ「暗黙のルール」が作られていきます。こうした属人化が進むと、他者の意見を受け入れにくくなります。「自分のやり方が最も正しい」という感覚が強まり、認知的固定化が加速します。

3)成功体験への固執(過信)
成功体験は、強力な心理的資産です。しかし、成功体験は
「自分の判断は正しい」
「このままのやり方でいける」
という過信を生みます。環境が変化しても、過去の成功に基づく判断を続けてしまい、新しい方法を拒否する原因になります。この傾向は、経験豊富なベテランほど強く表れます。

4)暗黙知の多さ
ベテランになると言語化されていない「勘」「コツ」が増えます。職人などの技術系のみならず、営業や事務職であっても、表にでないノウハウがあります。暗黙知は他者に伝えにくく、自分のやり方に固着する要因になります。暗黙知が多いほど、他者の方法を理解しにくくなり、認知的固定化が進行します。

5)SNSの影響
SNSは、閲覧履歴から興味のある情報だけを表示します。 その結果、「自分の考えと同じ情報だけが集まる」 「異なる意見が見えなくなる」 という状態が生まれます。SNSは、認知的固定化を構造的に強める仕組みを持っています。
また、オールドメディアであるテレビや新聞も基本的には、視聴者や読者の好みに合わせたコンテンツを発信しています。
「SNSは個人単位で、マスメディアは集団単位で情報を偏らせる」
といった特性があります。

 認知的固定化がもたらす仕事や生活面での影響

業務における影響

1)判断の硬直化
新しい方法や改善案を受け入れにくくなります。若手の提案を否定しやすくなり、 組織の変化が遅れます。
また、上司の価値観が固定化していると、 若手は「理解されない」と感じて気持ちが離れ、離職の原因になることもあります。判断の硬直化、言い換えると「ベテランの頑固さ」が、コミュニケーションの障害になることもあります。
2)組織の意思決定の遅延
固定化した価値観が、変化への対応を遅らせます。新しい市場や技術への適応が遅れ、競争力低下を招きます。
3)組織リスク
属人化により、特定社員が欠けると業務が止まるというリスクがあります。

生活面での影響

1)趣味や情報の偏り
毎日、同じ音楽、同じ動画、同じニュースだけを見ることで、認知的固定化が強固になっていきます。その結果、情報の幅が狭まり、世界観が固定化します。
すると、新しいことへの挑戦に抵抗感がでます。
「自分には無理だ」
「今さら変われない」
といった気持ちです。いつも聞いている音楽と異なるジャンルの音楽、新しい趣味や学習に挑戦しにくくなります。
2)人間関係の固定化
似た価値観の人とだけ付き合うことが多いと、視野が狭くなります。異なる価値観の人との交流が減り、固定化が強まります。

あるベテラン社員が、関西の人気プロ野球球団の話題をきっかけに、若手社員と雑談をしようとしました。しかし、若手は全く反応しません。ベテラン社員は、
「近頃の若手は雑談もしたがらない」
と嘆きました。ところが、その若手は他人と会話をしたくないのではなく、単にプロ野球に興味がなく、その球団に関するニュースに全く接することがなかったのです。つまり、2人の認知的固定化の領域が全く違っていたため、会話が成立しなかったといえます。

 認知的固定化を防止する方法

1)自分の判断基準を確かめる
最も大切なのは、自分の判断基準が、認知的固定化をしていないかと疑うことです。そして、自分の判断基準に対して、
「なぜそう考えるのか」
と自分に問いかけることが重要です。判断基準の棚卸しは、固定化を防ぐ基本です。
これまで常識であった、
「長時間労働は当たり前」
「採用は、面談が重要」
といった認識が、履替えされてきました。自分に対しても
「この手の仕事は、自分に向いていない」
「このやり方が一番」
と思っていたら、「なぜそう考えるか」と問いかけてみることです。案外、一度失敗したからとか、一度うまくいったからというような、偶然に近い理由が、そう思わせている可能性があります。

2)暗黙知の形式知化
作業手順や判断基準を文書化し、他者と共有することで属人化を防ぐことができます。形式知化は、効率化のみならず、組織の柔軟性も高めます。
私の経験ですが、現場の技能継承のために、ベテラン社員の作業を録画して、作業標準を作成しようとしたことがあります。ベテラン社員の作業をそのまま録画し、あとでベテランに解説をしてもらうつもりでした。無事録画が終わり、その動画をベテランにみせたところ、本人から思わぬ発言が飛び出しました。
「完璧なやり方だと思っていたが、危ないことをしているな!」
「こりゃ、若手の手本にはならない」
この作業は、引張試験機を使用して、特殊な形状の材料の試験をする作業です。試験片を固定する部品を交換する際、5~10kgの金属製の部品を素手で持ち上げ、脱着をします。素手で作業しているのは、装着する際、取付けの感覚を確認するためとのこと。彼は、それが「あたりまえ」と思っていたようですが、万が一装置内で部品を落とせば、手は確実につぶれます。すると、
「部品の交換と取り付け具合の確認を分けて作業すべき」
「そもそも交換後に調整をしなくてもいいようにしては」
等々の意見が、若手からも出て、作業そのものを変更することになりました。これは、作業標準づくりの中で、ベテラン社員の認知的固定化が解かれていった例です。

3)異なる世代、異なる立場の人との対話
ベテラン社員が、若手社員の価値観や興味を知ることで、コミュニケーションのズレを防げます。また、異なる部署、異なる会社の人と会話することで、それらの人々が持つ価値観を知ることができます。これは、コミュニケーションの円滑化のみならず、指示や教育の質を高めます。
また、同じ職場に長くいる社員には、部署を替わらなくても、「自分だけの仕事」の他に、例えば、「教える役割」「支援する役割」を与えることです。異なる役割を担うことで、認知的固定化を防ぐことが期待されます。

4)普段と異なる情報に接する
SNSのおすすめ情報だけでなく、意図的に異なるジャンルの情報に触れる習慣を作ることが大切です。情報の幅を広げることで、固定化を防げます。
いつものスーパーに買い出しに行っていたら、同じメニューしか思い浮かびません。買い出しの店、飲食店、散歩コースや通勤ルートをたまには、変えてみると新しい発見があるかも知れません。

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まとめ

同じ仕事、慣れ親しんだ狭い範囲の環境や情報に長く浸ることで、人は自然と
「自分にはこれしかない」「これがすべてだ」
と感じやすくなります。これは、認知的固定化と言われ、ベテランほど起きやすいものです。認知的固定化について、以下のことが言えます。
1)長年の経験は強力な資産ですが、判断基準を固定化。
2)属人化や成功体験の固執は、柔軟性を奪う。
3)SNSは、同じ情報だけを見せるため、固定化を加速する。
4)固定化防止には、判断基準の棚卸し、暗黙知の形式知化、異なる情報への接触が重要である。

参考記事:職場における「属人化」が起きる3つの理由とそのリスク対策

「仕事ができるマネージャー」が組織をブラック化させてしまう理由

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