チームリーダーのための「心理的安全性」論を活用したチーム成果の向上策
チームリーダーのための「心理的安全性」論を活用したチーム成果の向上策
チームのパフォーマンスを発揮するのに必要な「心理的安全性」とは
どんな規模の会社であれ、組織として仕事をする上で、数人のチームが最小単位となっています。チームとしての生産性向上は、会社全体の生産性向上にとっても基本的な課題です。そんな中、チームを率いるリーダーは、メンバーの能力を最大限に引き出し、継続的に学習し、成果を生み出すチームをつくることは重要な業務です。
従来、
1)オフィスや作業現場などの職場環境を整備する
2)報酬制度や評価制度の改善する
3)業務プロセスを見直す、標準化する
といった「制度的アプローチ」が生産性向上の中心に据えられてきました。しかし、これらの施策だけでは、一定の効果を持つものの、組織学習やチームの創造性を高めるのに、「十分」とは言えないものです。
それは、会社として、同じように環境整備を行い、報酬や評価制度を改善しても、成果を上げるチームもあれば、変化のないチームも存在することから分かります。この違いは、心理的安全性の違いという点から説明できます。
「心理的安全性(Psychological Safety)」とは、エイミー・C・エドモンドソンが提唱したものです。制度的アプローチでは補えない、人間関係の質が、チームとしてのパフォーマンスや学習に影響を与えると説明しています。心理的安全性とは、「対人リスクを取っても罰されないと信じられる状態」を指し、メンバーが率直に意見を述べ、失敗を共有し、助けを求め、改善提案を行うための前提条件となります。
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心理的安全性とは
エドモンドソンによれば、心理的安全性とは「対人リスクを取っても罰されないと信じられる状態」であり、メンバーが次のような行動を安心して取れる環境を指すとしています。例えば、質問する、意見を述べる、失敗を共有する、助けを求める、新しい方法を試すといったことができる状態です。
これらはすべて、他者から否定される可能性を伴う行動です。心理的安全性が低い組織では、メンバーは沈黙し、問題を隠し、挑戦を避ける傾向がでます。
ところで、心理的安全性は、しばしば「仲が良い」「居心地が良い」と混同されます。しかし、心理的安全性は「快適さ」ではなく、学習と挑戦を可能にする緊張感を含んだ関係性です。
・仲良し:衝突を避ける
・心理的安全性:必要な衝突を恐れない
この違いを理解しないまま、リーダーが心理的安全性をつくりだそうとしても、表面的な協調だけが残り、チームで学習する風土は生まれてきません。
心理的安全性が高いチームでは、問題が早期に発見される、情報共有が活発になる、改善提案が増える、失敗が学習に変換される、メンバー同士の助け合いが自然に起こるといったことが起き、結果としてチームの学習速度が上がり、生産性が向上します。
物理的環境整備の限界(フリーアドレスの失敗)
多くの企業において、フリーアドレス(職場座席の非固定)、オープンオフィス、コラボレーションスペースの設置といった施策を通じて、コミュニケーションの活性化を図ることが行われています。
ところが、40、50人規模の職場をフリーアドレス化したにもかかわらず、メンバーが小チーム単位で固まってしまう現象は、制度の限界を象徴しています。(これは、私の実体験です。)
フリーアドレスは、部署(チーム)を超えた交流や偶発的な出会いを期待して導入されました。しかし、心理的安全性が低い状態であったことから、
1)知らない人の近くに座ることがストレス
2)話しかけられるリスクを避けたい
3)自分の居場所が不安定になる
といった理由から、メンバーは自然と「安全な場所=自チームの近く」に集まっていました。つまり、席の自由度が高まるほど、心理的安全性の低さが露呈する結果となってしまいました。
日本の職場には、心理的安全性を低下させやすい文化的要因が存在します。例えば、失敗を避ける文化、上下関係の明確さ、「迷惑をかけない」価値観、同調圧力の強さ、空気を読む行動様式といったことです。これらの文化的特性は、心理的安全性が低い状態では「沈黙のスパイラル」を生みやすく、フリーアドレスのような制度的施策が機能しにくくなったと考えられます。
喫煙所・ドリンクコーナーに人が集まる理由
前項でフリーアドレスが制度として導入されても、心理的安全性が低いと機能しないことを述べました。一方で、制度として設計されたわけではない喫煙所やドリンクコーナーには、自然と人が集まり、部署を超えた会話が生まれます。この対比は、心理的安全性が「空間」ではなく「関係性」にあることを示す象徴的な現象です。
フリーアドレスは「交流を促すための制度」であり、喫煙所やドリンクコーナーは「交流が自然に生まれる場」です。制度が機能するかどうかは、心理的安全性の有無によって大きく左右されます。
喫煙所やドリンクコーナーには、心理的安全性を高める特徴があります。
1)目的が曖昧:
喫煙所やドリンクコーナーは、仕事の話をしてもしなくてもよい、会話をしなくても不自然ではない、滞在時間が短く、負担が少ないという「曖昧さ」が許容されています。この曖昧さは、対人リスクを大幅に下げ、心理的安全性を高めます。
2)上下関係が緩む:
喫煙所では、上司も部下も同じ行動(喫煙)をしており、ドリンクコーナーでも同様に「同じ目的」で集まっています。この「行動の平等性」が上下関係を弱め、自然な会話を生み出します。
3)評価と切り離された空間:
喫煙所やドリンクコーナーでの会話は、評価や査定と直接結びつきません。そのため、メンバーは「失敗を恐れずに話せる」状態になりやすく、心理的安全性が高まります。
4)弱い紐帯(weak ties)が形成される:
社会学者グラノヴェターの「弱い紐帯の強さ」理論によれば、組織においては、強い紐帯(チーム内の濃い関係)と弱い紐帯(部署を超えたゆるい関係)の両方が必要といわれています。喫煙所やドリンクコーナーは、弱い紐帯が自然に形成される場であり、情報交換や相談が生まれやすい環境です。
日本の職場文化は、喫煙所やドリンクコーナーのような「曖昧な場」と非常に相性が良いと言えます。日本では、空気を読む、迷惑をかけない、直接的な対立を避けるといった行動様式が重視されます。そのため、形式的な会議や公式の場では発言しにくくても、喫煙所やドリンクコーナーのような「非公式の場」では、心理的安全性が高まり、率直な意見交換が生まれやすくなります。
喫煙所やドリンクコーナーでは、部署を超えた情報交換・相談、雑談からのアイデア創出、問題の早期発見が自然に起こります。
これは、心理的安全性が高いからこそ生まれる「偶発的学習」であり、制度では再現しにくい価値を持っています。
ちなみに、米国で仕事をした経験でも、喫煙コーナーやドリンクコーナーでは、不思議な友達関係が生まれる
心理的安全性が生まれる条件
喫煙所やドリンクコーナーの成功例から、心理的安全性が自然に生まれる条件を抽出することができます。これらの条件は、チームリーダーが職場で心理的安全性を高める際の指針にもなります。
1)「曖昧さ」を許容する:
心理的安全性が高い場では、完璧な発言でなくてもよい、途中の考えでも共有してよい、失敗しても責められないといった「曖昧さ」が許容されています。
日本の職場では、形式的な場ほど「正確さ」「完璧さ」が求められ、心理的安全性が低下しやすい傾向があります。そのため、曖昧さを許容する文化を意図的に作ることが重要です。
2)上下関係が弱める:
心理的安全性は、上下関係が強いほど低下します。例えば、上司の前で発言しにくい、評価を気にして沈黙する、失敗を隠すといった行動が生まれるためです。喫煙所やドリンクコーナーのように、上下関係が弱まる場では、心理的安全性が自然に高まります。
3)人物評価と切り離す:
心理的安全性が高い場では、発言が評価に直結しない、失敗が査定に影響しない、話すこと自体がリスクにならないという特徴があります。逆に、評価と結びついた場では、メンバーは発言を控え、学習が停滞します。
4)短時間で離脱できる:
喫煙所やドリンクコーナーは、長居しなくてよい、会話が途切れても不自然ではない、必要なときだけ参加できるという「軽さ」があります。この軽さは、心理的安全性を高める重要な要素です。
5)共通行動がある:
喫煙や飲み物を取るという「共通行動」があることで、会話のきっかけが生まれやすくなります。共通行動は、心理的安全性を高める「儀式」のような役割を果たします。
チームリーダーが心理的安全性を高めるために実践すべき行動
心理的安全性は制度や物理的環境によって自動的に生まれるものではなく、日々のコミュニケーションや関係性の積み重ねによって形成されます。特に、5〜9名程度のチームでは、リーダーの言動が心理的安全性に与える影響が大きく、リーダーの振る舞いがチーム文化を決定づけると言っても過言ではありません。
1)質問・提案・指摘を「歓迎する姿勢」を示す:
心理的安全性の第一歩は、メンバーが「何を言っても大丈夫だ」と感じられる環境をつくることです。そのためには、リーダーが明確に「質問や提案を歓迎する」というメッセージを発信し続ける必要があります。リーダーはまず「受け止める」ことを優先し、評価や判断は後に回す姿勢が求められます。
2)失敗や課題を「個人の責任」ではなく「チームの学習素材」として扱う:
心理的安全性を高めるためには、失敗を責める文化から脱却し、失敗を学習の素材として扱う姿勢が不可欠です。メンバーに「完璧でなくてよい」という安心感を与えることが大切です。
3)リーダー自身が「弱さ」「未完成さ」を見せる
心理的安全性は、リーダーが「完璧な存在」であるほど低下します。日本の職場では、上司は強く、正しく、迷いがない存在であるべきという暗黙の期待が存在します。しかし、この期待こそが心理的安全性を阻害し、メンバーの発言を抑制します。
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恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
まとめ
心理的安全性が、チームとしての職場学習や生産性向上に不可欠です。
制度や物理的環境は重要ですが、それだけでは不十分です。
1)率直に話せる関係性
2)失敗を共有できる文化
3)上下関係を超えた協働
といった「人間関係の質」、つまり「心理的安全性」を高めることが、チームのパフォーマンス向上には重要です。
参考記事:職場から会話や雑談がなくなった理由と改善のためにリーダーのはたす役割
「同調圧力」は、どこの国にも存在。日米の同調圧力の違いを考える
