「直感」とは異なるウィリアム・ダガンが語る「第7感」の「ひらめき」とは

「直感」とは異なるウィリアム・ダガンが語る「第7感」の「ひらめき」とは
「直感」(第6感)のメリットとデメリット
日常生活や仕事において、人は様々な判断をし、実行しています。特に現場の消防士や災害時の救助隊、スポーツ選手などは、即時に重要な判断と行動が求められます。彼ら(彼女ら)は、眼前の状況に対して「直感」を使って素早い判断をします。時間をかけて、論理的な判断をしようとしても状況がそれを許しません。
一方で、長い時間をかけて状況を分析し、判断するということも行われます。例えば「○○戦略」と言われるような立案をするときは、様々な可能性が時間をかけて検討されます。
心理学者であり行動経済学者であるダニエル・カーネマンは、その著書「ファスト&スロー」(早川書房)で、人間の思考を「システム1(ファスト)」と「システム2(スロー)」の2つに分類しています。「直観」はシステム1に属し、これは自動的で迅速な思考プロセスを指します。システム1である「直感」は、過去の経験やパターン認識をもとに、瞬時に判断を下すプロセスです。例えば、顔を見ただけで相手の感情を察知したり、危険を直感的に回避したりする能力がこれに該当します。
直感のメリットとデメリット
直感には、メリットとデメリットがあります。
メリット:
1)迅速な意思決定:時間をかけずに判断できるため、緊急時に有効。
2)経験に基づく精度:熟練者ほど直観の精度が高くなる。
3)認知負荷の軽減:論理的思考よりも楽に判断ができる。
人は、一日の中で、無数ともいえる判断をしています。これを全て論理的に考えていたら1日が何時間あっても足りませんし、ヘトヘトに疲れてしまします。日常やルーチンワーク的仕事の大半は、直観で処理することができます。歩くということが、無意識にでき、障害物があれば、それを回避するのは直感のお陰です。しかし、仕事や生活に大きな影響を与えるような判断では、以下のようなデメリットがあり注意する必要があります。
デメリット
1)認知バイアスの影響:確証バイアスやハロー効果など、誤った判断をしやすい。
2)誤った一般化:過去の経験に頼りすぎることで、偏った結論を導くことがある。
3)論理的検証の欠如:直観に頼りすぎると、慎重な分析を怠る可能性がある。
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「第7感」という思考形態
コロンビア大学ビジネススクールの教授ウィリアム・ダガンは、その著書「第7感」(The Seventh Sense)で「第7感(Seventh Sense)」という概念を紹介しています。この「第7感」は、直感やひらめきと似ていながらも、より戦略的で論理的な思考プロセスであると書いています。
ダガンは、「第7感」を「過去の経験や知識の断片が、突然新しい状況に対してパッとつながる瞬間の洞察力」と定義しています。これは「ひらめき」を含む一連の思考であり、「論理的思考」と「直感」の中間にある感覚と説明しています。単なる勘や偶然ではなく、過去に蓄積した知識や事例が無意識のうちに組み合わさって生まれる「戦略的直感」とも述べています。
「第6感」である「直感」は、過去の経験に基づく瞬時の判断で、「勘」とか「予感」とかいったものです。これに対して、「第7感」は、蓄積された知識や経験から生まれる「戦略的洞察」ということで、区別されると述べています。
直感が過去の経験のみに依存して判断することに対して、第7感は過去の経験と知識を統合して革新的アイデアを生み出すという思考プロセスを指します。
ダガンによれば、「第7感」は以下のような4つのステップで養われると述べています。
1)歴史の先例(経験と知識):過去の成功事例を参考にする。
2)オープンマインド(柔軟な視点):固定観念を捨て、柔軟な思考を持つ。
3)突然のひらめき(直感と想像性):脳が情報を統合し、新しいアイデアを生み出す瞬間。
4)決意(意思決定と実行力):ひらめきを実行に移す意志の強さ。
例えば、複数の人が集まりブレスト(ブレインストーミング)で新規事業のアイデアを出すといった場合、出てくるアイデアは、各メンバーの経験や知識に基づく「直感」によるものです。各自の持っている先例が似通っているとアイデアは、平凡であったり、偏ったものになったりしがちです。これを「第7感」として成立させるには、このアイデアを育てるプロセス(決意)が必要になることを示唆しています。
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スポーツ選手における「直感」と「第7感」
スポーツ選手は、試合中「直感」でプレーしています。例えば、野球のバッターは、投手の投げるボールに素早く反応し、ボールの速度や変化に対して適切な反応をしようとします。バッターは、考える時間を持てず、自分の経験に基づき「打つ」「見逃す」を判断します。
一方、練習中のバッターは、投手やマシンから出てくるボールを試行錯誤しながら打つことで経験をため込みます。あるいは、素振りやティーバッティングでフォームを固めます。他にもコーチのアドバイス、自分や他の選手のビデオ画像等、様々な情報を得ます。
更に練習に他の競技を取り入れることがあります。バッティング練習にテニスラケットを使ったり、クリケットの道具を使ったりといったことです。相撲の「うっちゃり」を参考にしたとの話もあります。これらは、「オープンマインド」になっての情報収集と経験の蓄積に当たります。
そして、練習中や試合中に、
「これだ!」
という感覚を得る瞬間が訪れます。これが、ダカンの言う「第7感」の「ひらめき」です。不振にあえいでいたプロ野球選手が、1本のヒットやホームランからその後、別人のような活躍をすることがあります。「ひらめき」から、それを「定着」させる過程をダカンは、「決意」と述べています。1本のヒットをきっかけに好調となる選手は、
「この打ち方でいく!」
という「決意」が生まれています。それは、「なぜうまくヒットやホームランが打てたか」という理由を見つけることができたということです。選手が、「ヒットやホームランを打てた理由」が見つけられなければ、それは単なる「偶然」で終わることになるでしょう。
まとめ
「直感」が過去の経験のみに依存して判断することに対して、「第7感」は過去の経験と知識を統合して革新的アイデアを生み出すという思考プロセスです。「第7感」は以下のような4つのステップで作られます。
1)歴史の先例(経験と知識)
2)オープンマインド(柔軟な視点)
3)突然のひらめき(直感と想像性)
4)決意(意思決定と実行力)
参考記事:「素早く正しい判断」をするためのヒューリスティックとOODAループ
「仕事が出来る人」の特徴は、すぐ分かる、すぐ決める、すぐ行動する