マンネリ化した安全パトロールを有効化・活性化する3つの方法
マンネリ化した安全パトロールを有効化・活性化する3つの方法
マンネリ化した安全パトロールを有効化・活性化する方法
「安全パトロールで指摘することがない」
「安全パトロールをしても、指摘事項は5Sのことばかり」
あなたの職場では、そんなマンネリ化した安全パトロールをしていませんか。製造や建設現場において、定期的に安全パトロールすることは、労働安全衛生法や労働安全衛生規則で定められた義務です。安全管理者、衛生管理者、産業医は、それぞれに職場巡視の頻度が定められており、安全パトロールが義務付けられています。
そもそも安全パトロールは、職場に潜む危険や有害性を発見し、改善することで災害の防止を目的としています。しかし、安定した生産をしている現場では、ぱっと見て気付くような不安全行為や不安全設備、不安全状態はなくなっています。(昔の映像を見ると、上半身裸でヘルメットもせず作業している圧延工が写っていて、ビックリします。)
その結果、上記のような
「指摘することがない」
「指摘事項は5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)に関することばかり」
という安全パトロールになってしまっています。職場が、本当に安全ならこれでもいいのですが、現実には非定常作業中や作業に慣れない新人など関わって思わぬ労働災害を起きることもあり、安全パトロールの有効性が問われることになります。
以下に、安全パトロールをしても、実施したというだけのマンネリ化した安全パトロールを有効化・活性化する方法を3つ紹介します。
1)「本来あるべき姿」を職場で共有する
2)危険な状況を想定してパトロールする
3)その場で是正・改善させる
これらを実践すると安全パトロールが「面白く」なります。面白いパトロールになると気付きが増えます。気付いたことが、改善されるとより安全な職場になるとともに、精査性も上がり益々面白くなります。
これらは、私自身が30年以上製造現場の安全管理者を経験し実践してきた中で気付いたことからのご紹介です。
「本来あるべき姿」を職場で共有する
安全パトロールの目的は、「本来あるべき姿」と現状との違い、つまりギャップや不備を見つけ出すことにあります。例えば、パトロールによって、安全基準や規則、作業手順に対して現場の状況がどうか、正常な状態から逸脱している箇所がないかを見つけることが目的です。
ところが、「本来あるべき姿」が職場で共有されているでしょうか。安全基準や作業標準などに記載されていることは、職場の最低限のルールです。しかし、それさえ皆が理解し納得しているでしょうか。
「この位なら保護具なしでも大丈夫」
なんて思っている人はいませんか。よくパトロールでチェックリストを利用することがあります。これは、「あるべき姿」をリストにしたものです。「あるべき姿」が職場全体で共有されているからこそ、指摘を受けて素直に是正ができます。
ところで、「本来あるべき姿」は、人により時代により異なることがあります。
例えば、鉄道のホームに設置される安全柵は、今では「必要な安全設備」です。しかし、かつては「あったらいいな」といった程度に考えられていました。ホームにいる人が転落するのは、本人の責任という考え方です。
また、ある職場では、
「工場を綺麗にして安全を確保する」
という目標がありました。当初は、床に油や危険物が落ちていないことが「あるべき姿」でした。ところが、新しく着任した工場長が、
「工場の床は、白い靴下で歩いても汚れないこと」
と宣言してパトロールを始めました。職場は大混乱に陥りました。ところが、そのうちにこの「あるべき姿」が職場全体に共有され、なんとそんな床が実現してしまいました。(2010年頃国内のボッシュ自動車部品工場で伺った話)
危険な状況を想定してパトロールする
安全パトロールは、定常作業といわれる状態になされることが多いものです。(作業時間のほとんどは定常作業ですから)ところが、労働災害は、非定常作業や設備のメインテナンス中の起きることが多いものです。また、定常作業中でも、作業者が思いもよらない行動をして労働災害を起すことがあります。これらを想定したパトロールをすると様々な発見があるものです。
スマホをいじりなら歩いたり、自転車や車を運転していたりして事故を起こすことが、問題になった時機がありました。(今も問題ですが。)工場においては、機械の操作中にスマホをいじり事故を起こすことが想定されます。安全パトロール中に機械操作をしている作業員に
「スマホはどうしている?」
「作業中に電話がかかってきたらどうする?」
と聞いたことがあります。するとほとんどの作業者が、ポケットの中にスマホを持っていました。その内、電源を切っている者は稀で、もし電話が掛かってきたら「対応できるときは電話にでる」というものでした。想定とおり、機械の操作中に人によってはスマホに気をとられ、場合によっては操作することも有り得るということです。問題を投げかけて出た職場の結論は、「車両の運転や大型機械の操作時は、スマホを決められた場所において一切操作しない」でした。
また、よく安全の鉄則として言われる「動くものに出をだすな」ということに対して、人はうっかり手を出すものと想定して、パトロールをしたことがあります。具体的には、安全柵から不用意に手を出すことを想定しました。そこで、安全柵が手を伸ばして届く長さである60センチを基準として、安全柵から60センチ以内で動くものがないように、あればカバーをするように指示しました。パトロール中は、腕に見立てた60センチの点検棒を持ち歩くことで安全確認しました。この成果がどうか分かりませんが、その後この職場では、機械に挟まれたり接触したりした事故は皆無です。
また、夜間の停電を想定したパトロールを実施したことがあります。日没後、工場内の照明をすべて消してみました。いくつか非常灯はあるのですが、全体が思った以上に暗く足元の確認ができず、場所によっては一歩の歩けないことが分かりました。一方、各自が持っているスマホの画面が意外に明るく、懐中電灯代わりになることも分かりました。
これら危険な状態を想定してパトロールをしてみると、案外「面白い」ものです。面白いと感じて現場を見るといろいろ新しいことが発見できます。これらは、安全性の向上のみならず、仕事の改善にも役立つことがあります。
その場で是正・改善させる
パトロールで指摘したことが、すぐに是正・改善されるとパトロールする方もやりがいを感じます。
「指摘したことが、いつまでたっても変わらない」
ということでは、パトロールの甲斐がありません。指摘に対して、安全柵を作るべきところをペンキでラインを引いてすましたとします。差し迫った危険を感じないので、いつまでたってもラインのまま。そのうちにラインが当たり前になって、パトロールしても指摘する人がいなくなるといったことが起きることになります。
「安全第一」といいならが、こんな安全管理がなされている工場が案外多いものです。(私の経験で、客観性に欠けますが。)
ある米国の製造工場で、マネージャーと安全・品質パトロールに同行したことがあります。この工場は、マルコム・ボルドリッジ賞を受賞したことのあるほど安全や品質に定評があります。このマネージャーは、パトロールにおい中現場の作業者全てに声を掛けます。現場で気付いたことがあると、その場で作業者(作業責任者)に事情を訊き、注意・是正させます。また、不適切な状態にある場所に人がいなければ、責任者にいきなり電話します。
「プレス機の横においてある箱はなんだ。いつ片づけるのか」
といった具合です。次の場所に行って、気づくことがあるとまた電話です。時には、一回のパトロール中の数回同じ人に電話して是正させることもあります。そのとき、
1)すぐやる是正と、
2)後に本格的に改善すること
を担当責任者に言わせます。担当責任者が、
「後で、対策を考えます」
なんて答えようものなら、一段と大きな声が出ることになります。その場で、作業者に事情やどうするつもりかを聞いて、指示をします。パトロールする人の当事者意識の高さに感心しました。
まとめ
マンネリ化した安全パトロールを有効化・活性化する方法を3つ紹介します。
1)「本来あるべき姿」を職場で共有する
2)危険な状況を想定してパトロールする
3)その場で是正・改善させる
これらを実践すると安全パトロールが「面白く」なります。面白いパトロールになると気付きが増えます。気付いたことが、改善されると職場の安全が向上するとともに、生産性も上がり益々面白くなります。