カスハラの原因である「傲慢(ごうまん)症候群」(ヒュブリス証拠群)と対策
カスハラの原因である「傲慢(ごうまん)症候群」(ヒュブリス証拠群)と対策
増加するカスハラの理由
「さっさと処理しろよ! お前ら給料、税金から出ているんだぞ!」(市役所)
「その料理の出し方は、なんや! 店長が来てあやまらんか」(飲食店)
これらは、ちょっとしたことで怒り出して発した顧客の暴言です。いわゆる「カスタマーハラスメント」(カスハラ)です。このような商品やサービスの不具合に対する顧客からの過剰反応とも言えるカスハラは、昔からありました。しかし、近年増加傾向にあり、厚生労働省が問題として取り上げています。
パーソル総合研究所の「カスタマーハラスメントに関する定量調査」(2024年)によれば、サービス業に従事する人の約1/3が、過去にカスタマーハラスメントの被害を受けていると回答しています。
被害内容は、
「暴言や脅迫的な発言」(60.5%)
「威嚇的・乱暴な態度」(57.7%)
「何度も電話やメールを繰り返す」(17.2%)
といったことです。
カスハラが、増加する原因について以下のようなことが考えらます。
1)消費者の権利意識の高まり
「金を払うほうが偉い」という間違った価値観が社会に浸透しているところに、消費者保護の法整備などが進み、一部の消費者をつけあがらせて傲慢にしている。
2)SNS利用の拡大
企業や従業員に対する批判や不満が容易に拡散されるようになり、口コミサイトなどに投稿することが、カスハラ当事者にとっての「使い勝手のよい訴求手段」となっている。
これら、カスハラの原因の裏には、「傲慢(ごうまん)症候群」(ヒュブリス証拠群)があると考えられます。「傲慢症候群」(Hubris Syndrome)は、個人や集団が権力や成功を手にすることで傲慢さが増し、自らの限界を見失う状態を指します。この状態の陥った人は、特権意識が強く、序列に敏感で自分より立場の弱い人に対して傲慢になります。
飲食店で従業員を罵声する人の意識には、カネを払う自分の方が店員より序列が上であるとの意識が働いています。
日本や東アジアの人々には儒教的考え方があり、道徳や秩序、礼儀を重んじる価値観を持っています。学校や社内での先輩後輩の関係、地位などでこれら秩序が保たれています。この意識の中に、顧客とサービス提供者の序列意識がもちこまれたのでしょう。問題なのは、
「お客様は、神様」
という思い上がった意識です。これは、顧客が従業員より序列が上で、何を要求してもいいと受け止められた結果です。
ちなみに、この言葉を初めて使った浪曲歌謡歌手である三波春夫は、「この言葉の意味を世間は誤って受け取ってしまった」との主旨の話をしています。(「三波春夫オフィシャルサイト」の記事より)
カスハラに関して、3つの課題があります。
1)カスハラとクレームの区別をつける
2)カスハラ防止対策
3)カスハラ被害を受けた従業員のケア
カスハラを完全に防ぐことは、困難でしょう。しかし、適切な対応、従業員のケアをすることで、被害を最小にとどめることが期待できます。
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カスハラとクレームの区別をつける
カスハラを行っている当人は「迷惑行為」と認識しているケースは少なく、その大半は「正当なクレーム」だと認識しています。つまり
「企業(店)側が間違っているから問題点を指摘してあげて、改善を要求しているだけ」
という認識です。客観的に見た時、「カスハラ」と正当な「クレーム」との境目はどこにあるのかということです。厚生労働省の「カスタマーハラスメント企業対策マニュアル」を参考にすると、
① 要求内容
例えば、食堂で2000円の料理を注文したら、ひどく焦げていた。店が、謝って「作り直すか」「代金を頂かない」との申し出に対して、「どうしてくれる」とばかりに5万円を要求するといったこと。
② 要求のし方
例えば、店の人が謝罪しているのに、1時間以上文句を言い続けたり、「ネットに挙げるぞ」と脅したりするようなこと。或いは、従業員の人格を傷つけるような暴言など。
カスハラ対策
顧客のカスハラを無くすことができればいいのですが、悪質な訴え(クレーム)や嫌がらせをしてくる人から完全に逃れることは困難です。会社(店)として従業員を守り、カスハラによる被害を減らすためには、いくつかのポイントがあります。
1)従業員1人に任せない
2)マニュアルを作成する
3)証拠を残す
4)警察へ通報する
といったことです。
嫌がらせをしてくる人の対応を従業員1人に解決させようとすると、当事者である従業員に大きなプレシャーがかかります。すぐに上司や先輩に相談でき、必要があれば上司や先輩が対応を代われるような仕組みづくりが必要です。また、上司が対応すると、カスハラする人を牽制することができます。
また、カスハラに対するマニュアルを用意しておけば、被害を防止できます。また、カスハラに対応する部署を決めておくのも有効です。また、カスハラ被害にあったとき、証拠を残す(ボイスレコーダーやカメラ画像)、必要なら警察に連絡すること決めておくことです。
カスハラ被害を受けた従業員のケア
カスハラ被害を受けた従業員に対するケアも大切です。
先に挙げたパーソル総合研究所:「カスタマーハラスメントに関する定量調査」によれば、カスハラ被害を受けた従業員に対して、会社側の対応について以下のような回答がありました。
「嫌がらせの被害を認知していたが、何も対応はなかった」(36.3%)
「認知無し」(19.3%)
更に、会社に被害を相談した被害者の25.5%が社内での「セカンド・ハラスメント」と言われるような
「ひたすら我慢することを強要された(11.0%)」
「軽んじられ、相手にしてもらえなかった」8.9%)
「一方的に自分自身に責任転嫁された」(8.2%)
といったことが起きています。この調査を見る限り、各社カスハラ対策を進めていますが、まだ被害にあった従業員に対するケアが十分にできていない実態があるようです。
カスハラ被害にあったとき、不適切な対応をすると弊害が生まれます。
1)従業員の離職
カスハラによって被害者には、大きなストレスがかかります。特に暴力や土下座の強要、ネットでの誹謗中傷などは、大きなストレスを感じ仕事を辞めてしまうケースも少なくありません。従業員一人の処理、責任を負わせないことが大切です。
2)会社(店)のイメージダウンや業績悪化
近年、SNS上への書き込みにより、従業員や会社(店)のイメージを貶める嫌がらせが増えています。匿名での投稿は、イメージダウンのみならず業績悪化につながる被害にもつながる問題に発展するケースも増えています。
まとめ
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、客が会社(店)の従業員より序列が上であるとの傲慢症候群を背景として起きています。
このカスハラに関して、3つの課題があります。
1)カスハラとクレームの区別をつける
2)カスハラ防止対策
3)カスハラ被害を受けた従業員のケア
カスハラを完全に防ぐことは、困難です。しかし、適切な対応、従業員のケアをすることで、被害を最小にとどめることが期待できます。
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