顧客が欲しい商品の「問題解決」と「特別な体験」という2つの商品価値
顧客が欲しい商品の「問題解決」と「特別な体験」という2つの商品価値
顧客が欲しい2つの商品価値
「数百万円する腕時計と千円以下の腕時計」
クォーツ時計なら、どちらも正確に時を刻みます。時刻を知るという機能では、どちらも同等です。ところが、顧客が感じる商品の価値は全く違います。数百万の腕時計は、「時刻を知るため」の道具でなく、「所有する喜び」を与えてくれるアクセサリーのようなものです。
このように、商品には顧客にとって「実用的な働き」と「満足感を与えてくれる働き」とがあります。
「商品は記号である」
と言った人がいます。フランスの思想家ジャン・ボードリヤール(Jean Baudrillard)です。その著書「消費社会の神話と構造」(1970)の中で、
「モノの生産と消費が飽和状態である現代社会において、モノは機能性や有効性によって需要されるのではなく、社会文化的な記号として消費される」
といった主旨のことを述べています。これを商品に当てはめると、実用重視の「機能商品」と、消費者の満足に訴える「記号商品」があるということになります。更に、記号商品は、仮想世界を売る「シミュレーション商品」に発展します。
これらをまとめると顧客から見た商品の価値は、2つになります。それは、
1)顧客の問題解決をする商品(機能商品)
2)顧客に特別な体験を提供する商品(記号商品/シミュレーション商品)
です。たとえば、顧客の空腹を満たすパンは、「お腹が減った」という問題を解決するものです。観光旅行に行くのは、「特別な体験」をするためです。
これを概念的に示したのが、以下の図です。
The value of the product to the customer
出典:森本尚樹著「100人の村で84人に新商品を売る方法」(雷鳥社)を基に作成
図で示すように、顧客にとっての商品は、「顧客の問題解決」(A)か「顧客の特別な体験」(B)を提供してくれるものです。ただし、AとBの領域が重なっているCという領域があります。先ほど例に挙げたパンは、コッペパンなら純粋に空腹を満たすものでほぼA領域です。ところが、メロンパンになると、おいしさや見た目といった「特別な体験」が混じるC領域になります。さらに、ケーキ類になると、C領域といってもBに近く、「空腹を満たす栄養」より、「おいしさ」という「特別な体験」の方が顧客にとって重要になります。
マーケティングを行う上で、自社の商品であるモノやサービスがどの領域にあたるのか、あるいはどの領域を目指すのかが重要になります。
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顧客の問題解決をする商品を売るには
「お客様の問題を解決するため」の商品は、「問題を解決する機能」が必要です。ところが、提供者は商品が持っている機能に注意が向かいがちになり、お客様の持つ問題を忘れがちになります。
例えば、カメラを売るとき、カメラの画素数やレンズの明るさ、望遠倍率などのスペックばかりを強調して売ろうとしてしまいます。顧客からすると、欲しいのは商品の持つ機能ではなく、「問題解決力」であり、それが商品を買う理由です。
ジャパネットタカタの高田社長は、かつて数千台のビデオカメラを1週間で売ったことがあります。ビデオカメラを売るのに、
「お子さんが運動会で活躍する姿を是非残してください!」
と訴えました。カメラの性能のことは、一切説明がありません。精々、
「使い方は簡単。充電するだけですぐに使えます。」
といった程度です。親にとって、ビデオカメラは、子供の成長を記録するものです。子供が走る運動会は、年に一度その時しかありません。今年の運動会で、使いたい気持ちがあります。高田社長は、ひたすら
「子供の運動会の記録を残す機能を持つビデオカメラ」
と訴えて成功しています。
ところが、同じ高田社長も高級デジカメを売るときには、画素数、望遠機能、防水機能等々、徹底的にスペックを説明していました。お客様の「いい写真を撮る」という課題に対して応えうる性能があることを訴えていたのです。
この説明の違いは、顧客のもっている「問題」(課題)の違いです。同じ商品でも、顧客によって「問題」が違えば、注目する機能が違います。運動会を撮る親は、簡単で失敗無く動画が取れることが必要です。「いい写真」を撮りたい人は、被写体である景色、動物、植物、天体等に合致した機能が必要です。商品を提供する側は、顧客の持っている「問題」(課題)を理解して、商品を選択/開発しPRすることが、商品を売るために重要になります。
顧客に特別な体験を提供する商品が飽きられないために
「顧客に特別な体験を提供する商品」は、「特別感の維持」が重要です。一度体験したら、「もういい」と思わせたり、「想像できる体験」になったりすると、その商品は「飽きられた」ということです。一時は流行しても、やがて消え去る商品は、「特別感の維持」に失敗したものです。
旅行や演劇は、典型的な「特別な体験」を提供する商品です。特別な体験を提供する上で大切なのは、毎回「特別」でなければ、人は慣れてしまうということです。
リピーターの多い人気観光地は、季節によって風景が違う、祭りなどイベントがあるなど「飽きさせない」ものを持っています。
アミューズメントパークの勝ち組は、デイズにーランドとUSJですが、どちらも毎年アトラクションを増やしたり入れ替えたりしています。また、季節ごとのパレートやイベントも毎年変わっています。華々しく開場した「スペースワールド」「チボリ公園」などが、閉園したのは、「新しさ」がなくなったからかも知れません。流行っていいるパチンコ店は、定期的に「新装開店」をしています。
スポーツは、毎度違うドラマを提供します。「何か起きるかもしれない」という「特別さ」が、人気を維持する大きな要因なのでしょう。
「特別な体験を提供する商品」でも「問題解決力」が必要
消費者向けの多くの商品は、「顧客の問題解決」と「特別な体験」を同時に提供しています。
ブランドのバッグや高級スポーツカーは、「特別な体験を提供する商品」です。これら、「特別な体験」を提供する商品は、実用性はあまり必要ではありません。しかし、ブランドのバックも「もともとは丈夫さが売り耐久性の良い革製品だった」とか、「最高時速200キロ、300馬力(220 Kw)のエンジン搭載」といった「特別である理由」が必要です。「特別である理由」は、「問題解決型の商品であったこと」がベースにあります。
何十年も使える耐久性や最高時速200キロなど、使うことのない機能(問題解決力)であっても、これらは高価な「特別な体験を提供する商品」を選んだ理由になります。
「高いものは、やはり違う」
という感覚が、購入者には必要ということです。
一方、栄養があっても「美味しくないもの」は、食品として成立しません。体を維持するという「問題解決」だけでは、消費者が経営します。スポーツ選手が飲んでいる「筋力をつけるための」のプロテインも、様々な味の付いたものが売られています。「問題解決力」が売りの商品でも「特別な体験」である、おいしさを欠くことは出来ないということです。
まとめ
顧客が欲しいと思う商品の価値は、2つあります。それは、
1)顧客の問題解決をする商品
2)顧客に特別な体験を提供する商品
です。ただし、どちらの商品であっても、この2つの価値を同時に持っていなくては、売れる商品にはなりにくいものです。