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原材料、部品の低価格を打破する「記号商品化」という考え方

2023/10/28
 
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

原材料、部品の低価格を打破する「記号商品化」という考え方

 

「機能商品」と「記号商品」とは

「大手企業に、なんでここまで買いたたかれるのか!」
自動車や電機等、「組み立てメーカー」と呼ばれるところに、原料や部品を納めている会社にある慢性的な不満です。日本の自動車メーカーでは、原料や部品を納入している会社に対して、毎年コスト目標が示され、「これをクリヤーしないと購入しない」と宣言されます。最近でこそ、部品の原料価格が世界的に上昇し、これを理由に少しは値上げを認めてもらえるといったところでしょうか。
これは、B to Bと言われる企業間取引で扱われるモノやサービスが、「機能商品」であることに起因しています。製品に必要な性能が満たされれば、ひたすら低価格が求められます。労働力を供給するサービスでは、提供する労働力の質が基準を越えれば、安いことがすべてです。

これに対して、B to Cと言われる一般消費者向けの商品はちがいます。
「ブランドのバッグが欲しい」
「ロレックスの時計を持ちたい」
そんな消費者が憧れをもって買う商品は、「記号商品」と言われます。商品の持つ機能性や有効性より、それを持つことで「優越感」「かっこよさ」といった満足感が得られることに重要な意味があります。これらの商品を買う人は、値段の交渉があったとしても、高価なことに価値があることで、決して一般の商品のように買いたたくことはありません。「B to B」の仕事をしている者からすれば、なんとも羨ましい業界です。日本の下請け企業といれる企業の多くは、「機能商品」のみを扱っており、なんとか自社ブランドで直接消費者に売り「記号商品」化したいと考えています。つまり、B to Cを目指す会社もでてきています。しかし、企業相手に「機能商品」しか扱ったことがない会社が、一般消費者に向けた商品を作るのは、消費者の受け入れられる商品の開発、販売ルートの確保等、困難が待ち受けています。
「B to B」で扱われる原材料や部品など「機能商品」でも、価値を上げて利益を拡大する方法があります。例えば、
1)「B to B」商品に「記号商品」価値を組み込む
2)SDGsを「記号商品化」ツールとして使う
3)商品に「シミュレーション商品」の要素を組み込む
などです。これらのことをすることで、「B to B」ビジネスで扱う商品でも、儲かる商品に変えることが可能です。
「商品は記号である」と言い出したのは、フランスの思想家ジャン・ボードリヤール(Jean Baudrillard)です。その著書「消費社会の神話と構造」(1970)の中で、
「モノの生産と消費が飽和状態である現代社会において、モノは機能性や有効性によって需要されるのではなく、社会文化的な記号として消費される」
といった主旨のことを述べています。そして、それまでの「生産社会」から「消費社会」へと変化していると述べています。ボードリヤールは、その後「シミュレーション社会」を理論に組み込んでいます。これを商品として考えると実用重視の「機能商品」、消費者の満足に訴える「記号商品」、そして仮想世界を売る「シミュレーション商品」ということになります。
買い叩かれ易い、「B to B」ビジネスで扱う「機能商品」に「記号商品」の要素や「シミュレーション商品」の要素を加えることで、価値を高めることが期待できます。


消費社会の神話と構造 普及版

B to B」商品に「記号商品」価値を組み込む

原材料や部品といった「機能商品」の価格は、一定の性能を満たせば、「どれも同じ」と取引先は判断します。一般に「B to B」ビジネスでは、モノやサービスの性能や品質は、「仕様書」や「契約書」に規定され明確になっています。これらを満たせば、納入業者に購買部門とのし烈な価格交渉が待っています。「機能商品」であっても、「機能」の評価が「当たり前」となり低価格化していきます。これを打破するのは、需給関係からくる「希少性」や特許などの「保証」です。
私は、かつて韓国の大手半導体メーカーS社に材料を納めていたことがありました。先方の購買部門の価格に対する要求は厳しく、円高になると円取引を強要され、円安になると円取引を求められるといったことまでされます。また、
「前年より安くないと購買システムに入力できないので、1セントでもいいから下げろ」
と言われます。同等か値上げの場合は、
「役員の承認がないと購買システムに入力できない」
と厳しい対応をされる始末です。そこで、
「他社の材料は、当社の特許を侵害していますよ」
という切り札を出して、何とか価格を守ったことがあります。
「特許」は、有力な「保証」ですが、他にも「日本製」といったことも「保証」になります。ある自動車部品メーカーでは、
「部品の材料はドイツの○○社から、独占的に供給を受けています。」
といったことを売りにしていました。「保証」と「希少性」の両方を訴える作戦です。
「B to B」ビジネスにおいても、「保証」や「希少性」が、モノやサービスの「記号商品化」を促します。
「希少性」と言いうことで、足元の需給バランス崩れを理由に大きく値上げするような価格交渉は、需給バランスが逆転したとたん、手痛いしっぺ返しを食らうので要注意です。「希少性」は、長期的視点で供給制約が保たれることが前提で有効性が生まれます。

 

SDGsを「記号商品化」ツールとして使う

「この商品は、環境にやさしい」
「これは、CO2排出を4割削減します」
こんな謳い文句で販売する商品があります。いわゆるSDGs関連商品です。これらの商品を消費者は、少々割高でも購入する傾向があります。SDGs関連商品は、低コストでもなければ、地球温暖化防止に直接貢献しているという「機能」が必ずしも明確ではありません。しかし、それをすることが「社会的責任を果たしている」とのアピールとなる「記号商品」です。「B to B」商品である原材料や部品でも、SDGs使い同じことが出来ます。
食材を収める業者が「有機農法でつくった」「廃棄食材を利用した」とアピールすることで、低価格を回避できる可能性があります。
木材メーカーが、「この木を伐採したあと植林をしています」と主張できます。(欧州では、これがスタンダードで、割増の価格設定がされています。)
消費者にモノやサービスを供給する会社は、消費者やステークホルダーにSDGsに貢献していることをアピールする必要があります。つまり、商品の「記号化」が進んでいます。そこで、消費者に届けられる最終製品に使われている原材料や部品が、SDGsに沿っていることが必要になります。
原材料や部品といった「B to B」ビジネスの「機能商品」であっても、SDGsを使って、「記号商品」に変え、価格維持を図ることが期待できます。

 

商品に「シミュレーション商品」の要素を組み込む

現代は、「記号商品」をベースとする「消費社会」であり、ボードリヤールいうところの「シミュレーション社会」の時代でもあります。実際の製品やサービスの機能や性能を再現した仮想的な製品である「シミュレーション商品」が広がっています。ソフトウエアに代表される情報産業、仮想通貨を含めた金融、保険などがその例です。これら、「シミュレーション商品」の要素を取り入れることが、高価格化のヒントになります。
前述した「機能商品」の「記号商品化」を図るために、産地表示や「保証」をつけても、それらは直接見ることはできません。「信用」という仮想的な世界で成り立っています。
農水産物の産地、工業製品に検査成績書、原材料の成分表などの「保証」の多くは、紙だけで表示されてきました。しかし、こうした「保証」は、常に偽装のリスクがあります。
例えば、農水産物には、産地表示があり「日本産」ということで、たとえ高価格でも取引先は、受け入れます。ところが、しばしば輸入物に対して、「日本産」「○○県産」との偽装が発覚することが度々あります。
最近ではQRコードを表示し、これを読み取ると更に詳しい情報を得ることができるシステムがつくられ始めています。今後、偽装のリスクを避けるため、Web3といわれる次世代ネットワークの利用も考えられます。Web3は、従来のような中央管理者を持たない分散型ネットワークです。ブロックチェーンなど分散型の特徴を活かし情報のセキュリティが高めることができることで、仮想通貨の管理に使われています。

 

まとめ

低価格に押されられる傾向がある、原材料や部品など「機能商品」の価値を上げて利益を拡大する方法があります。例えば、
1)「B to B」商品に「記号商品」価値を組み込む
2)SDGsを「記号商品化」ツールとして使う
3)商品に「シミュレーション商品」の要素を組み込む
などです。これらのことをすることで、「B to B」ビジネスで扱う「機能」だけの商品が、より付加価値のある商品に変えることが期待できます。

参考記事:最強の差別化戦略とは、マーケティングの4Pのうち「プレイス戦略」

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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。
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