「予期せぬ成功」や「予期せぬ失敗」が、イノベーションのきっかけになる理由
「予期せぬ成功」や「予期せぬ失敗」が、イノベーションのきっかけになる理由
イノベーションのきっかけを見つけるには
「イノベーションといわれても、アイデアが浮かばない」
そんな気持ち持っている経営者や企画担当の方がおられるのではないでしょうか。日本経済の低迷は、イノベーションが生まれないことを理由にする声もあります。そんな風潮から、
「わが社でもイノベーションを生み出したい」
と考える経営者がいらっしゃいますが、「イノベーションのタネ」を見つけられないのが実情です。
そもそもイノベーションを「技術革新」と考えることが間違っています。P・ドラッカーは、
「企業は、顧客を創造し続けなければ存続できない。その方法は、マーケティングとイノベーションである」
と述べています。簡単に言えば、既存の顧客や商品を売るのが「マーケティング」、商品ややり方を変え新規顧客を開拓するのが「イノベーション」です。イノベーションは、何も技術革新だけではありません、売り方、作り方を変えたりして、顧客を創造することです。
売り方、作り方などを変えてイノベーションを起こした事例は、文献やネット上の記事に溢れています。話としては面白いのですが、いざ自社でなにが出来るかとなると、そこで思考が止まってしまいます。紹介される事例は、大きな話ばかりです。自社にも、事例に挙げられたような高度な技術、幸運な市場環境があると感じる経営者は稀でしょう。
コンサルタントの講演や文献では、イノベーションが起きるきっかけは、「少子高齢化と労働力不足」「脱炭素」「AI技術の進歩」等々、最近の日本社会の変化の中にあると述べられています。ところが、経営者からすれば、
「それらのことは、良く知っている。しかし、自分の会社は何をすればいいのか、さっぱりわからない」
ということになります。どうしたらいいか、コンサルを問い詰めると、
「イノベーションのテーマは、貴社自身で見つけるもの。テーマがみつかれば、実現のための支援をします。」
という返事が返ってくることさえあります。
「イノベーションのヒントになることは、提供できるが、テーマそのものは自分で見つけなさいということ」です。
アイデアをシステマチックの見つける方法は、確立されているとは言い難いものです。発想法として、分割、結合、拡大、縮小、省略等々の方法が提案されています。これらは、アイデアを分類するにはいい方法ですが、発想する方法としては効率が悪過ぎます。曖昧な記憶、例えば人の名前を思い出すのにア行から順番に名前を言ってみるといったやり方と同じです。イノベーションのきっかけは、現実の起こっていることの中にあります。それが、大きいか小さいかは別として、イノベーションになるヒントがあります。どんなに突然に思えることでも、後で調べると必ずと言っていいほど予兆があるものです。身近に起きていることは、何かの予兆かもしれません。
今後起きそうなことを想像してイノベーションのきっかけを見つけるのは容易ではありません。可能性が多過ぎて、まとまらない可能性があります。(まるで、ア行から名前を言ってみるようなものです。)今起きていることに注意を払えば、イノベーションの予兆が含まれている可能性が多いにあります。身近なことを見れば、今の事業とより結びつくヒントになります。
特に身近に起きた「予期せぬ成功」や「予期せぬ失敗」は、イノベーションのきっかけになる可能性を大いに持っています。
「予期せぬ成功」や「予期せぬ失敗」が、イノベーションのきっかけになる理由が3つあります。
1)自社の「強み」が見つかる
2)自社に影響を与えている環境変化を実感する
3)顧客の真のニーズがわかる
P・トラッカーは、イノベーションのきっかけとして7つの機会を挙げています。
①予期せぬ成功、②ギャップの存在、③ニーズの存在、④産業構造の変化、⑤人口構造の変化、⑥人々の認識の変化、⑦新しい知識の出現です。このうち、「予期せぬ成功」とそれに加えて「予期せぬ失敗」は、その他の機会に繋がり重要です。
この記事は、「予期せぬ成功」「予期せぬ失敗」から、イノベーションのきっかけを見つける方法を事例を挙げて考えます。
「予期せぬ成功」で、自社の「強み」が見つかる
イノベーションに絶対に必要な要素が、自社の「強み」です。たとえニッチ市場を狙うとしても、「地域初」「地域一番」などの、強みが必要です。ところが、これに気付きません。
様々なメニューがある中で、「予期せず売れた」ということがありませんか。急に売れだしたという商品もあれば、特に営業に力をいれていないのに売れ続けている商品もあります。そこには、自社の「強み」があります。
ある化学分析会社の例ですが、新規顧客開拓をしても成果がでません。営業に言わせると、
「自社の分析メニューが平凡過ぎる」
という結論です。
「他社が持っているような最新の分析装置があればいいのに!」
そんな声が満ちていました。しかし、1台数億円もする装置が簡単に買えるものではありません。
そんな時、異動してきた営業マンのSさんが、数年分の顧客別の売上リストを見ていて不思議に思ったことがありました。
「顧客リストにあるA製菓というのは、洋菓子のA製菓のことですか?」
と営業のベテランに聞きました。
「そうだよ。他にもB製菓やC酒造というのもあるよ。」
「使用する材料や水、排水などの分析を長年やっている。」
Sさんが気付いたのは、全く営業活動などせずに、十年以上も分析依頼を受けている食品製造会社があるということでした。Sさんからみたら、まさに「予期せぬ成功」をしている事例でした。食品製造会社で水などの分析をすることで、食品の品質を安定させる。排水の分析と報告が義務化され、分析だけでなく行政への報告書まで作成する仕事をしていました。
Sさんは、自社に化学分析の能力があること、老舗の分析屋で地域の信頼があること、行政への報告書作成までトータルで仕事をしていることが、営業活動をしなくてもお顧客から依頼がくる「強み」と認識しました。そこで、食品会社向けの分析業務を「強み」として、地域営業に力をいれてみました。すると、これまで数社しかなかった分析の受注が、大きく増えることになりました。ささやかですが、食品業界という新規顧客を開拓できたイノベーションです。
「予期せぬ失敗」で、自社に影響を与えている環境変化を実感する
「売れると踏んで仕入れた商品が売れない」
「部品が入らず生産できない」
ビジネスをしていると、こんな風に様々なトラブルに見舞われます。特に「予期せぬ失敗」は、それまで投下したお金や労力を失うことになり大きなダメージを受けます。
「予期せぬ失敗」は、事前の想定範囲を超えた環境の変化や自社の「弱み」によるものが大半です。「人手不足」「AI時代」など世間で言われる環境変化を「失敗」することで切実に知ることになります。「失敗」では、より切実に自社の「弱み」を知ることになります。
世間の環境変化や自社の弱みを実感として知ることで、これらから「強み」を見いだし、イノベーションのきっかけになるチャンスが生まれる可能性があります。そんな事例を以下にご紹介します。
それは、私が大手電気メーカーS社に大型電子部品を納めていた時の話です。大口注文をもらい納入を開始したのですが、急に納入量が増えてトラックが手配できません。トラックはあるのですが、運転手不足とのこと。納入開始が年末と重なったことで、事態は最悪です。どこの運送会社に頼んでも、「運転手不足」を理由に引き受けてくれません。まさに「予期せぬ」状況です。
世間には、「少子化」「労働時間制約」による「運転手不足」の話があることは、知っていいたのですが、実際に問題に直面して、その深刻さを実感しました。新規納入に当たって、製品の性能や価格は、さんざん検討したのですが、輸送がネックになるなどまったく考えていませんでした。
とにかく、手当たり次第、運送会社にお願いしてみると意外なことが分かりました。それは、S社にトラックを付けても、S社で荷下ろしをするフォークリフトの運転手が不足していて、時間帯によっては半日も待たされるということです。運転手達は、それを知っていますので、ことさらS社へいくことを嫌っていたのです。少々の割り増し料金を積んでも、受けてくれないのは、これが理由でした。
その後、S社に「受け入れ要員を増やしてくれ」、「受け入れを予約制にして欲しい」などと交渉したのですが、らちがあきません。ところが、
「フォークリフトぐらい、俺だって運転できるのになあ」
というトラックドライバーの声があり、気づきました。S社にフォークリフトを貸してもらい、トラックドライバー自身で荷を降ろすようにすることです。運送会社にお願いして、S社に行くトラック運転手にフォークリフトの運転資格を取ってもらい、S社には、フォークリフトを貸与してくれることをお願いし了解されました。(他に保険料、フォークのリフトの使用権等交渉がありましたが。)
フォークリフトが運転できるトラック運転手の導入は、S社で歓迎され注文を更に拡大するきっかけになっています。
大型の物品を運ぶ仕事は、「車上渡し」と言われる契約が一般的です。トラックが所定の場所まで行くと、荷受け側がフォークリフトやクレーンを使って荷を降ろします。ところが、荷下ろしをする人手が不足しています。トラック運転手がフォークリフトやクレーン運転の資格を持つことを制度化し、この運送業者は収益を増やしています。
顧客の真のニーズがわかる
モノやサービスの販売で起きる「予期せぬ成功」や「予期せぬ失敗」は、想定していた顧客のニーズが外れていたことを意味していることがあります。
予想外に売れるのは、「想定していない顧客がいる」か「想定以上の量を使う顧客がいる」ということです。あるいは、「想定していない使い方をしている」のかも知れません。
想定外に売れないのは、「想定していた顧客がいなかった」、「価格が顧客に受け入れられない」といったことです。
「予想外に売れた」、「予想外に売れなかった」ということで、顧客の真のニーズを知ることができます。顧客の真のニーズがわかれば、そこにヒントがあります。見つけた顧客の真のニーズにライバルが気付いていないならば、これがイノベーションのきっかけになります。
「とりあえずやってみる」は、イノベーションを起こしたベンチャー企業の基本的スタイルです。そこで、「予期せぬ成功」や「予期せぬ失敗」があり、顧客の真のニーズをつかんで、その後のモノやサービスに活かしていくのは、よくあるイノベーションの例です。
まとめ
「予期せぬ成功」や「予期せぬ失敗」が、イノベーションのきっかけになります。それは、以下の3つの理由があります。
1)自社の「強み」が見つかる
2)自社に影響を与えている環境変化を実感する
3)顧客の真のニーズがわかる
イノベーションのきっかけには、様々なものがありますが、「予期せぬ成功」や「予期せぬ失敗」は、その他のきっかけを誘導するものとして重要です。