意味のない仕事「ブルシット・ジョブ」が、生まれる理由
意味のない仕事「ブルシット・ジョブ」が、生まれる理由
世の中に溢れる「ブルシット・ジョブ」が、生まれる理由
「契約書に何か所も住所・氏名・電話番号を書き署名押印する」
「警報機のある見通しのいい踏切も車は一旦停止する」
これらは、誰しも「無意味だ」と思いながらルールがあるので、続けられています。脱ハンコといわれながら、まだ多くの押印付き書類作成が行われている。見通しのいい警報機のある踏切でも一旦停止の規則があるために、渋滞が発生する上に加減速で余計なCO2を排出しています。(ちなみに米国の交通ルールには、踏切一旦停止はありません。)
会社や役所では、過去に決めた規程や習慣に沿って、有効性が疑われることも延々と続けられています。こんな、あまり意味のない仕事を「ブルシット・ジョブ」と言ったのは、米国の人類学者デヴィド・クレーバーです。彼は、著書「ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論」で、無意味な仕事の存在と、その社会的有害性を分析しています。
「被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている」
と述べています。
私ごとですが、30代になって初めて米国に住み最初に覚えたスラングが、「bullshit」です。オフィスの若い米国人社員が、盛んに口にしていました。直訳すれば、「牛糞」まさに「クソ!」という感じで、使われていました。「Bullshit Job」とは、米国人が感じる「クソみたいな仕事」という感覚が、よくわかる言葉です。
世の中には、ブルシット・ジョブが溢れています。そんなブルシット・ジョブが生まれるのには、理由があります。
1)時間ともに意味がなくなった仕事を続けている
2)有効性を議論できない仕事
3)雇用を守るための仕事
等です。これらの要因に注意し、ブルシット・ジョブを生まないことが重要です。
デヴィド・クレーバーは、ブルシット・ジョブとして、以下の5つのパターンを示していますが、いずれも上記3との原因から説明できるのではないでしょうか。
1)取り巻き:
誰かを偉そうにみせたり、だれかに偉そうな気分を味わわせるというために存在している仕事(例えば、大会社の受付係)
2)脅し屋の仕事:
肩書きや行動によって他者を脅かすが、雇用主に自分の存在を全面的に依存している仕事
3)尻拭いの仕事:
組織に欠陥があるために、その穴埋めだけのために存在している仕事
4)書類穴埋め人の仕事:
誰も真剣に読まない書類を延々と作る人
5)タスクマスターの仕事:
もっぱら他人への仕事の割り当てだけからなる仕事
この記事では、身近なブルシット・ジョブの発生原因から発生防止のヒントを探りました。
時間ともに意味がなくなった仕事
どんな仕事も始めた時には、目的があり有効性があります。ところが、時が経つと状況が変化し、意味がなくなっている仕事も出てきます。ところが、そんな状況にも関わらず、仕事を継続していることで、ブルシット化していきます。
例えば、クレームが多発して担当部署を作り要員を配置。お客様対応とクレーム分析情報を始める。ところが、後にクレームがなくなったのに、組織・人員、仕事が維持されているといったことです。
役所では、「○○建設公団」「△△再建委員会」といった組織が、大きな建設工事や問題解決のために作られます。その後、工事完了や問題解決となれば、速やかに解散すべきところです。ところが、そんな組織が、5年も10年も維持されていることが珍しくありません。確かに、建設が終われば、メンテナンスの仕事があります。問題が、完全解決することは稀ですが、組織を残すほどのことはありません。
身近な社内の会議、委員会等々、始めた時の意義が失われ、ブルシット・ジョブになっているものがあるのではないでしょうか。
最近では、新型コロナ感染症が、インフルエンザと同じ5類の感染症に変更されて、関連する仕事が、ブルシット化するか気になるところです。
有効性を議論できない仕事
誰も文句のつけようのない目的がある仕事でありながら、その有効性に疑問がある仕事は、やめることができません。
「こんなこと、やる意味がない!」
と叫んで、有効性の議論を始めようとしても、周囲から袋叩きにされるのが落ちです。
例えば、企業の環境報告書。CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)の一環として、環境報告書が作成されています。オールカラーで200頁にもなろうかというものです。これは、株主をはじめとして、主要な取引先等に配布されます。しかし、どれほどの人が読んでいるかと言えば疑問です。CO2の排出量や環境投資など要点だけなら、A4の紙1頁で十分です。さらに、これらの環境報告書を集めて、比較したりランキングしたりする機関もあります。
「環境報告書を紙1枚にする」
と宣言して、ブルシット・ジョブをなくせる経営者はいないようです。
他にも、SDGsに掲げられていることを目的とした仕事は、誰にも文句のつけようがありません。例えば、「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさを守ろう」ということが、17のSDGs目標の中に入っていますが、これらを同時に達成することは、論理的に不可能です。例えば、クリーンエネルギーということで、陸上や海上に太陽光発電設備や風力発電設備を作ろうとすれば、海や陸の環境に手を加えることになります。真剣にクルーンエネルギーを供給しようとしている人や組織、陸や海の環境を守ろうとしている人や組織は、目標間の矛盾に気付いています。しかし、
「SDGsの目標全体を考えず、それぞれの目標を達成し、目標間の矛盾は、『誰か』に任せる」
ということで矛盾に目をつぶっているように思えます。
雇用を守るための仕事
「仕事があって雇用する」のではなく、「人がいるので、仕事をつくる」といったことあります。雇用を継続するために仕事を作っている状況です。
例えば、退任した会社役員や官僚を「特別顧問」といった肩書で雇用しているケースです。勿論、有能で「仕事のできる顧問」の方もいますが、そうでない方もいます。
社外取締役が一定数必要ということで任命している方の中には、月1回取締役会に顔を出すだけ。周囲から「発言しない社外取締役」と言われたくなくて、差しさわりのない質問を社員に依頼するといったこともあります。これは、本人だけでなく、周囲を巻き込んだブルシット化です。
他にも、時代とともに有効性が減った仕事についた人の雇用を守るために存在する組織があります。行政の行っている「ハローワーク」は、民間の転職サービスが充実して利用価値が下がっています。転職探しとしての有効性が低下していますが、雇用の問題もあり、簡単には縮小・廃止にはならないでしょう。各種業界団体や役所が母体となっている「○○協会」といった組織も業界団体や役所OBの雇用先となっており、ブルシット・ジョブとなっている例があります。
まとめ
やる意味のない仕事を、「ブルシット・ジョブ」と呼びます。
ブルシット・ジョブが生まれるのは、
1)時間ともに意味がなくなった仕事を続けている
2)有効性を議論できない仕事
3)雇用を守るための仕事
等の理由があるからです。これらの要因に注意し、ブルシット・ジョブを作らないことが重要です。