「仕事ができない社員」が、「できない」のは2つの理由があるから
「仕事ができない社員」が、「できない」のは2つの理由があるから
「仕事ができない」2つの理由
「人数はいるけど、人材がいない」
「仕事が、できる社員が欲しい」
そう嘆く、経営者やマネジャーが多くおられます。「できる人」を採用しようとしても、新卒であれ中途採用であれ、そう簡単に見つかりません。それどころか、社内の貴重な「できる社員」は、ボヤボヤしていると、さっさとやめてしまいます。
そもそも、会社にとって「できる人」とは、「会社の目標を達成する社員」のことです。(人間的に魅力のある人や好ましい人は、別の次元の話)残念ながら、2:6:2の法則に従って、「仕事ができる人」は、2割ほどです。残りの8割は、「仕事が、できない人」もしくは「どちらでもない人」です。簡単に「できる人」を採用できない以上、この8割の層の人が、「できる人」に変わってもらう必要があります。
「それが出来れば、苦労しない」
そう経営者やマネジャーは、思われるかも知れませんが、「できる人」をどれだけ育てる努力をしているのでしょうか。
マクドナルド、丸亀製麺などの大手チェーン店の従業員は、皆「仕事ができる人」です。店にいる誰しもが、調理、接客、清掃など手際よくやります。これらの企業は、マニュアルを整備し、その教育・訓練が徹底しています。ところが、一般企業、特に事務職や営業の社員は、不十分なマニュアルのもと、ろくな教育・訓練もなされておらず、OJTを中心に見様見真似で仕事を覚えていくのが現状です。
かつて、社内システムの利用度調査をして愕然とした経験があります。調査結果では、各社員は、アクセス権限があるシステム機能の10%程度しか使ったことがないことが分かりました。更に機能があること自体を知らない社員が多いこともわかりました。コンピューターが使えないのではなく「知らない」、いや「教えてもらっていない」現実が見えてきました。また、使ったことがあっても、その後利用を「やめてしまった」人も多くいました。そんなところから、どうも「仕事ができない」ことには、共通の理由がありそうなことに気付きました。
気づいた理由は、以下の2つです。「仕事ができない社員」とは、
1)仕事のやり方を知らない
2)仕事のやり方は知っているが、継続できない
ということです。
「仕事ができない人」には、様々な特徴があると言われています。例えば、
①指示した内容が理解できない
②指示した内容を実行しない
③自発的に動かない等々でしょうか。
あたかも、本人が悪いので、「仕事ができない」と言っているようなものです。しかし、マネジメントの立場から言えば、
①相手に理解できる指示をしていない
②実行しなければならないことを伝えていない
③自発的に行動し続ける仕組みがない
ということです。いずれも「知らない」、「継続できない」に繋がっています。
社員を戦力化するのは、マネジャーの最大の仕事です。社員に対して、会社に貢献する方法を教える、つまり仕事のやり方を教えることです。やり方を理解した社員が、仕事を継続してやる方法を指導することです。
この記事では、「仕事が出来ない社員」を「仕事ができる社員」に変えた実例を挙げて、人材育成法について考えます。
仕事のやり方を知らない
どんなにポテンシャルがある社員でも、いきなり職場に出されたら何をしていいか分かりません。仕事を社員に与える必要があります。つまり、仕事のやり方を知らせる必要があります。
「仕事を教える」とは、仕事を細分化し、それを文書などで分かり易く表現し(マニュアル化)、これを知識として教育し、身に着くまで訓練することです。暗黙知といわれるようなものも、あきらめず文書化や映像化などで、見える形にすることが重要です。
大手外食チェーン店、製造現場では、マニュアル(作業標準など)があり、教育・訓練がなされます。そして、短期間で一人前になります。ところが、伝統的な工芸品などの製造現場では、マニュアル無しで、師匠と呼ばれるような先輩社員について、OJTでスキルが伝授されるのが一般的です。このような職場では、
「一人前になるには、最低10年は必要」
といったことが平気でいわれます。日本では、これを「良し」とする風潮があり、マスコミなどでも当たり前として紹介されています。しかし、これでは時間がかかり過ぎです。多くの社員は、一人前になる前に離れてしまいます。
米国の工場で、製鉄の技術者(職人)を養成したことがあります。日本の指導者に聞くと、
「一人前の職人になるには、7年はかかる」
といわれました。新工場を立ち上げる必要から、全くの素人を6か月で技術者を養成せねばならない状況でした。
そこで、技術者として必要な知識を座学で徹底的に教えました。講義とテストの繰り返しです。ノウハウは、マニュアル化して、座学で教えました。そして、マニュアル通りにできるまで訓練です。
実際に教えていくと、機械の基本的操作などトラブルのない時にする仕事は、案外速く身に付きました。ところが、年に数回あるかないかの作業や、トラブルに対応できるかどうかが課題です。実際、「7年かかる」「10年かかる」と言われるのは、実作業の中で、そんな経験が短期間では積めないからです。そこで、トラブルを想定して、製造機械の分解と組み立てなど、年に数回あるかないかのことを訓練生にさせました。1日がかりで機械を分解し、それをまた1日がかりで組み立て直すようなことです。それを、7回やらせました。これで、7年分の経験を14日間でやったとことになります。実際には、3回目ぐらいからは、急速に作業が早くなり、1日で分解・組み立てができるようになりました。結果、分かったことは、人材育成に時間がかかるのは、知識を知識として系統的に、論理的に教えていない。ノウハウやスキル習得にための実際の状況に近いことを何度もする訓練ができていないことでした。
仕事のやり方は知っているが、継続できない
仕事のやり方は、知っていても継続できなければ、「仕事ができない人」になります。
マニュアルを読めば、仕事のやり方は書いてあるが、これを使っていない。自発的に仕事をしなければならないことを指導され、理解していても「指示待ち」社員となっている。こんな社員は、「継続すること」が出来ないことで、人の評価を下げています。
「仕事できない人」は、やり方は分かっていても、それを継続できない人が多いのです。「好ましい」行動を継続するには、ある種の「仕組み」が必要です。よく、
「成果がでたらボーナスで報いる」
という会社がありますが、やったこととボーナスの時期が離れている。実績の評価が、上司の感情に左右され確実性がない。ボーナスで上積みされる金額が知れているなどの理由で、モチベーションを上げる効果は高くありません。
職場で、「仕事ができる」例として、改善提案の多さがあります。企画案を自発的に多く出す人も「仕事ができる」と言われます。こんな人達を観察すると、「良い行動」が、
1)即座に褒められる、認められる
2)習慣化している
ことが分かります。改善提案が認められることで、「やりがい」が生まれ、改善提案を出すことが習慣のようになっている例です。
営業部員のスキルは、先輩の後をついてOJTで覚える典型的なものです。営業部に配属されて1年経過してもうまく顧客対応ができず、成績の上がらないA君がいました。もともと大人しく、言葉がハッキリしない彼は、「仕事のできない社員」との評価が定着していました。
彼の課題は、お客様の前で話をすることです。A君は、商品の知識もプレゼンのやり方も知っています。ところが、お客様の前ではうまくできません。うまくできないので、お客様に行くことも避けてしまいます。「やり方は知っているが、継続ができない」社員です。
そこで、チームリーダーがA君の教育・訓練を徹底したやる決心をしました。A君にプレゼン資料を作成させ、他の営業部員7名ほどの前でプレゼン練習です。
「声が小さい」
「スクリーンを見ずに、お客様を見ろ」
「お客様のメリットがわからない」
と数知れないほどのダメ出しの嵐です。ところが、そのうちに
「分かり易くなったぞ」
「そのポイント、いいぞ」
と先輩社員から、お褒めの言葉が出てきます。実に2週間にわたって、ほぼ毎日プレゼン練習が続きました。毎回、その場で叱責されたり、褒められたりです。
1か月後、A君はお客様の前で、商品売り込みのプレゼンの機会を得ました。一人でプレゼンをしたのですが、その後お客様から商品の購入の話と共に、
「いい説明をしてもらいました。よくわかりました」
とのコメントをいただきました。A君がこれを聞いて気を良くし、益々積極的に営業活動をしています。「仕事ができない」社員の評価を覆した出来事でした。
この出来事は、どんな職場でも訓練という反復練習が有効であること。良いこと、悪いことをその場ですぐに褒めたり、叱責したりすることで、「やる気」が継続すること。繰り返しているうち習慣化して、始めは困難なことも楽にできるようになることを教えてくれました。
まとめ
会社にとって「できる社員」とは、「会社の目標を達成する社員」のことです。「仕事ができない社員」とは、
1)仕事のやり方を知らない
2)仕事のやり方は知っているが、継続できない
ということ。
「仕事ができない社員」を「仕事ができる社員」に変えるには、教育・訓練と、継続をサポートする周囲の認知、習慣化が有効である。
参考記事:OJTを使った新人教育で、成果を上げるために指導者がやるべき3つのこと