差別化できていないビジネスモデルイノベーションは成功しない
差別化できていないビジネスモデルイノベーションは成功しない
ビジネスモデルイノベーションに必要な5つの要素
「アップル」「デル」「アマゾン」
いずれも、新しいビジネスモデルを構築して、イノベーションを起こした企業として賞賛されています。その後も、「ウーバー」「メルカリ」等々、新しいビジネスモデルによってイノベーションを起こす企業が続々と現れ眩しい光を放っています。
ビジネスモデルとは、企業がいかにして売上を上げて利益を出すかの「企業活動の仕組み」のことです。この「仕組み」を革新することが、ビジネスモデルイノベーションです。
イノベーションの中でも、ビジネスモデルイノベーションは、大きな力をもっており、
「イノベーションで大きく成功するには、新しいビジネスモデルが必要」
とさえ思えてきます。ところが、せっかく新しいビジネスモデルを使って参入しても、同じビジネスモデルで後発企業が市場に参入し「勝者なき消耗戦」を行っている業界も沢山あります。回転ずし、牛丼、ハンバーガーなどのファーストフードチェーン店は、「低価格、うまい、はやい」が売りのビジネスモデルです。同じビジネスモデルで、ファーストフード業界は、多くの競争者を市場に呼び込み乱戦状態を引き起こしました。その中で生き残ったのは、各料理の分野毎に数社だけです。生き残った企業は、ビジネスモデルの中に、「差別化要素」を含んでいることが分かります。イノベーションとしてビジネスモデルを考えるとき、基本要素に「差別化」を入れることが重要です。
ビジネスモデルイノベーションを成功させるには、以下のような5つの要素があります。
1)Who:顧客
2)What:顧客提供価値
3)How:プロセス
4)Why:収益構造
5)Differentiation:差別化
1)~4)項は、多くの教科書などで紹介されている要素です。しかし、競争を勝ち抜くには、5)の差別化が絶対的に必要で付け加えました。
この記事では、ビジネスモデルとイノベーションについて、差別化の視点で紹介します。なお、ビジネスモデルについては、ハーバート・ビジネス・レビュー編「ビジネスモデルの教科書」(ダイヤモンド社)、平野敦士カール「カール教授と学ぶ ビジネスモデル超入門!」(ディスカバー21)を参考にしています。
ハーバード・ビジネス・レビュー ビジネスモデル論文ベスト11 ビジネスモデルの教科書
顧客
ビジネスモデルにおいて「顧客は誰か」を明確にする必要があります。顧客は個人なのか、法人なのか。法人といっても大企業か中小企業かといった区別が必要です。
イメージするモノやサービスを利用するユーザー像を「ペルソナ」(Persona)と呼びます。「ペルソナを設定する」というと、年齢、性別、職業、年収、家族構成、趣味、性格などを詳細に仮定して、ひとりのリアルな人物像を作り上げることです。同様に法人に対しても「ペルソナ」を設定できます。既存顧客はもちろんのこと顧客が属する母集団や、まだ顧客ではないがこれから顧客になりそうな潜在的な顧客も含むターゲットを設定することが大切です。
アスクルという事務用品を中心にネット通販をして成功している会社があります。ネット通販と言えば、個人相手の商売が中心です。アスクルの顧客は、法人です。それも中小企業が中心です。全国に会社は170万社以上あります。(総務省と経済産業省による「経済センサス-活動調査」より)そのうち、10人未満の会社が75%を占めています。従業員10人未満の会社にわざわざ事務用品を持ってくる所はありません。事務用を買いに外出するのは、社員が少ない中、余裕もない上にめんどうな仕事です。顧客として、例えば10人未満の会社の事務用品調達担当をターゲットにすると、潜在顧客は130万社ほどになります。これは、法人向けのB to Bビジネスではなく、個人向けのB to Cビジネスに限りなく近づきます。アスクルは、個人向けのビジネスモデルを小規模法人に当てはめることで成功した例です。
顧客提供価値
顧客にとって、「何が価値なのか」「なぜこのビジネスモデルに対価を支払うのか」ということを明確にすることが大切です。これは、モノやサービスの特徴に直結する項目であり、顧客の立場で徹底的に考える必要があります。
現在の顧客の需要を満たすもの、お客が気づいていない価値、新たな需要を生むものを考えることです。タクシーの価値は、目的地に早くつくことです。いくら速く車が走っても待ち時間が長くては、早く目的地に着くことはできません。そこに目をつけたのが、ウーバー(Uber)です。スターバックスは、コーヒーだけでなく、くつろぎの空間を提供しています。
プロセス
「どうやって顧客へ提供するか」がプロセスという要素です。「何を使って」という「資源」を含めてプロセスとよびます。(資源を独立した要素に挙げている例もありますが、ここでは、プロセスに含めます。)
イノベーションを起こすうえで、プロセスは極めて重要です。集客方法、提供方法、商品の付加価値などにおいて、新技術や既存技術の組み合わせなどが必要です。他のやり方をまねる、ヒントにすることもあります。
世の中で、イノベーションを起こしたと言われるビジネスモデルの例は、沢山ありますが、その内容はプロセスを革新した例が多いようです。
デルのオーダーメイドパソコン、アップルのiTunesなどです。デジタル時代に突入し、益々プロセス革新の可能性が増えています。
具体的な事例は、いくらでも調べると出てきますので、ここでは省略します。
収益構造
自社がどのプロセス、機能で儲けるかということも重要が、どんなに良いモノやサービスを提供しても、利益がなければ、破綻してしまいます。自社にとって収益性が高いか、また自社の強みが生かせるかということはよく検討する必要があります。
ビジネスモデルのいいところは、実行前にシミュレーションできることです。シミュレーションテストをして、モデルを評価することが可能です。シミュレーションといっても、コンピュータを使った高度なものから、顧客の気持ちになって、頭の中でやるものまであります。
評価するポイントは、2つです。
1)ストーリーテスト(話の筋道が通っているか?)
2)ナンバーテスト(収支が合っているか?)
e-コマースの生鮮食料品販売は、失敗しています。例えば、「ネットによる、生産者と消費者との直接の競り(オークション)」です。米国でやろうとした会社があったようですが、入荷量の変動が大きいことや品物の情報が売り手と買い手では対等でないなどの理由で失敗しています。ストーリーテストではうまくいきそうですが、ナンバーテストではうまくいかないのか、現在実現している生鮮食料品のネットオークションは無いようです。
差別化
差別化は、これまで挙げた4つの要素すべてにおいて、他社と差別化できるものが付け加わると強いビジネスモデルが出来ます。ユニークなお客、商品、プロセス、収益構造があれば、強いビジネスモデルとなります。
他と全く同じビジネスモデルが、差別化を意識したことで成功した事例があります。米国アーカンソー州を拠点とする1962年創業のウォルマートは、売上高60兆円を超える「世界最大の小売業」です。アマゾンでさえ売上高は42兆円、日本のイオングループの売上高が8.6兆円です。実は、ウォルマートのビジネスは、他と全く同じスーパーマーケットのスタイルです。
ウォルマートの代名詞といえば「EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)」。「特売」を廃し、また年間を通じた低価格を押し出すことで、アメリカはもとより世界中の消費者に支持されています。今でこそ、低価格、物流管理、低コストなど、巨大小売りとしての強い力を発揮していますが、当初からそうだった訳ではありません。
創業者のサム・ウォルトンは、スーパーマーケットを始めるにあたり、「商売のやり方」であるビジネスモデルに他社と差がないことに気付いていました。というより、先行するスーパーマーケットと同じビジネスモデルを踏襲することにしました。唯一違ったのは、先行するKマートなどが繰り広げている「し烈な価格競争の中に入らないこと」でした。そこで、競争の少ない地方の町や村(人口5千~2万5千人で、近くの都市まで車で4時間もかかるようなところ)から店を展開し、「いつも低価格」路線を貫いたのです。「低価格」といっても、競合するスーパーマーケットなく、実は一般小売よりわずかに安いだけでした。ウォルマートの成功は、ビジネスモデルではなく、差別化戦略の勝利としてハーバートビジネススクールでは扱われています。(ハーバート・ビジネス・レビュー編「ビジネスモデルの教科書」より)その後、ウォルマートは巨大化し、仕入れ、物流などを強化することで、本当のコスト競争力を得ています。
ハンバーガー、回転ずし、うどん、牛丼などのファーストフードチェーン店は、皆同じようなビジネスモデルの上で競争をしています。しかし、生き残っているチェーンは、お客から見た差別化、仕入れの差別化、調理方法の差別化など、何らかの違いを出しています。
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まとめ
ビジネスモデルによって、イノベーションを成功させるには、以下のような5つの要素が必要です。
1)顧客(誰に)
2)顧客提供価値(どんな価値を)
3)プロセス(そうやって、何を使って)
4)収益構造(どうも稼ぐか)
5)差別化(他と何が違うか)
特に激しい競争を勝ち抜くには、「差別化」が絶対的に求められます。