イノベーションを起こす法則とイノベーションを妨げる3つの理由
イノベーションを起こす法則とイノベーションを妨げる3つの理由
イノベーションを起こす法則とイノベーションを妨げる3つの理由
「日本では、イノベーションが生まれない」
「大企業では、イノベーションは無理」
「どうしたらイノベーションが起こせるの?」
イノベーションをめぐってこんな意見や疑問があります。閉塞感が漂う日本経済や社会においてイノベーション待望論が出ています。しかし、現実は厳しいようです。
そもそもイノベーションを起こすには、2つの法則があります。
1)皆が同じように持つ感覚を行動に移す
2)誰も気付いていないことに気付き行動する
いずれも、行動することが重要です。行動によって、「発想が、モノやサービスとして製品化する」ことで、イノベーションとなります。製品化の行動をしなければ、単なる「不満」だったり、「発見」で終わります。イノベーションを起こすには、「不満」や「発見」を行動に移し、ビジネスとして成立させることです。
その行動に移す際に日本の事情、大企業の事情があり、イノベーションが生まれにくくなっているのです。行動妨げる主な要因は、以下の3つです。
① 今の自分の立場を危うくする「イノベーションのジレンマ」
② 変化を恐れる「現状維持バイアス」
③ 始まりの小さな変化で起きる「イノベーションの過小評価」
これは、イノベーションを起こそうとする人、企業にかかる圧力です。長年、企業に勤める中で体験したささやかな成功とイノベーションといえる大きな成功を逃した反省から得た教訓をご紹介します。
今の自分の立場を危うくする「イノベーションのジレンマ」
イノベーションを初めて主張したのは、オーストリアの経済学者シュンペーターです。今でこそ「イノベーション」を「技術革新」と訳していますが、本来の意味は「結合」に近く、様々な技術の結合で新機軸を作ることです。彼は、「創造的破壊」を主張しています。現在あるものを壊して、創造するのが、イノベーションであるというのです。
既存の市場を支配している大企業で、イノベーションは、自分の立場を危うくします。大型コンピューター全盛時代に、パソコンを売るのは、自分の首を絞めることになります。これで、IBMは、パソコン市場をアップルに取られることになりました。この例は、「イノベーションのジレンマ」といわれ、クリステンセンが紹介しています。
既存の自動車メーカーが、電気自動車を製造することを当初ためらったのもこのためです。
自分のいた会社では、日本や韓国の電機メーカー向けに、液晶デイスプレー用の配線用の金属を製造販売していました。2005年ごろまでは、高温に耐えるためにタングステンやモリブデンが配線材料として使われていました。その後、これをアルミ合金にすることで、世界の半分を超すシェアを得る成功を収めました。ところが、しばらくするともっと安価な製品が開発され、これを販売するかどうか悩むことなりました。結局、高収益の既存製品を売り続け、利益は確保できたのですが、次世代の市場に乗り遅れることになりました。先行する企業は、次世代技術をもっていても、これを市場にだすことを躊躇し、イノベーターといわれる企業に次の時代を取られることになります。
イノベーションを起こすとは、「創造的破壊」ですが、そのイノベーターといえども、自分自身を「創造的破壊」していかないとやがてライバルに席捲されることになります。
イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press
変化を恐れる「現状維持バイアス」
行動経済学に「現状維持バイアス」という言葉があります。人は、現状を維持したがるバイアスがかかっているといいます。
皆が不便だと思っていることを改善しようとしてもなかなか具体的には動きません。
本を買おうと本屋に行っても在庫本は限られている。カタログで本を買おうとしても膨大なカタログになってしまうので存在しない。そんな不便は、誰しも感じていました。これをネット販売したらというアイデアもありました。でも、実際にネット販売の会社を始める人がいませんでした。いや唯一行動を起こしたのが、アマゾンを創ったジェフ・ベソスです。膨大な初期投資を行い、創立から10年余り利益なしを耐え抜きました。
「このままでもいい」「リスクを取りたくない」
という「現状維持バイアス」に打ち勝ってイノベーションを起こしています。その苦労の物語は、イノベーションというより、「耐え抜く」という方が強いと感じます。
「現状維持バイアス」を突破して行動を起こすのは、夢中になることです。常識が間違っていると思うくらいでないとできません。なまじ安定している企業で、イノベーションが起きないのは、危機感不足から「現状維持バイアス」が利いているからです。
始まりの小さな変化で起きる「イノベーションの過小評価」
アップルの創業者スティーブ・ジョブスが、
「人は、今起きていることを過大評価し、ゆっくり起きていることを過小評価する」
と言っています。後にイノベーションといわれる大きな変化も始まりはゆっくりとした変化です。携帯電話にiモードがついてインターネット接続ができるようになっても、カメラが付いた時もそれほど話題になりませんでした。それが、スマホになり写真の投稿サイトが広がるにつれて、イノベーションといえるようになりました。
私自身売上高1兆円を超えるような大企業で、新規事業を提案したことがあります。
「これは、絶対に市場に受けいれられます」
と自信たっぷりにプレゼンしました。
「ところで、売上は、どのくらいになるのかね」
役員から質問がありました。
「初年度は、2000万円ぐらいですが、3年後には2億円を見込めます」
と答えたのですが、提案は却下されました。他に既存製品の改良版で、初年度20億円の売上増が見込めるとの提案に敗れました。
これが、大企業で新規事業やイノベーションが起きにくい原因の一つです。これが、ジョブスやゲイツなら会社を辞めて自分で会社を興すのでしょうが、そうはなりませんでした。「現状維持バイアス」がはたらいて、退職する勇気がありませんでした。もっとも米国のように、金銭的支援をしてくれる人が現れにくい実情も考えてのことですが。
売上が年間1兆円越えの企業にとって、3年後の2億円は、0.02%の売上増にしかなりません。これが、大企業でイノベーションが起きない大きな理由です。
まとめ
イノベーションを起こすには、2つの法則があります。
1)皆が同じように持つ感覚を行動に移す
2)誰も気付いていないことに気付き行動する
いずれも、行動することが重要。行動によって、「発想が、モノやサービスとして製品化する」ことで、イノベーションとなります。
イノベーションを起こす行動を妨げる主な要因は、
① 今の自分の立場を危うくする「イノベーションのジレンマ」
② 変化を恐れる「現状維持バイアス」
③ 始まりの小さな変化で起きる「イノベーションの過小評価」
で、日本とりわけ大企業において強くはたらいています。これを克服することで、イノベーションが数多く起きることを期待します。
参考記事:職場の改善・改革が進まないのは「行動しない人」がいるから