取締役会が形骸化してしまうのは、「空気」という暗黙のルールがあるから
取締役会が形骸化してしまうのは、「空気」という暗黙のルールがあるから
形骸化している日本企業の取締役会
・提案が否決されることがない取締役会
・社外取締役が感想を述べるだけの取締役会
日本で最も形骸化して生産性の低い会議は、取締役会かも知れません。取締役会は、商法で定められた株主総会に次ぐ企業の意思決定会議です。形骸化しているからと簡単に廃止はできません。むしろ、形骸化している取締役会の活性化が、日本企業復活の原動力になると思います。なにせ取締役会は、その会社で最も力が有る人達の会議なのです。
取締役会が形骸化してしまうのは、暗黙のルールがあるからです。
1)社長や取締役会の「空気」に合った結論になる提案を出す
2)社外取締役の意向に沿った内容を提案に入れておく
3)「出席者が、致命的に傷つかない」結論で終わるようにする
これは長年、取締役や取締役会に提案する者として、大小の日本企業、日系の海外企業の取締役会に出席して気付いた暗黙のルールです。これがすべての企業の取締役会に当てはまるとは到底思いませんが、伸び悩む日本企業の一つの姿であることは確かです。この暗黙のルールを打ち破ることが、企業発展には必要です。
(この記事は、山本七平著「空気の研究」を参考にしています。)
社長や取締役会の「空気」に合った結論になる提案を出す
取締役会で提案された案件で否決されることは、まずありません。せいぜい結論を保留するか継続審議になる程度です。小説やドラマのように激論が交わされ、否決されるなどといった取締役会には、出会った経験がありません。大抵、予想された範囲での質問がある程度です。承認が得られず保留となる場合も、提案者は「保留」になることをある程度予想していることが多いものです。提案の承認率は、限りなく100%です。「取締役会が形骸化している」といわれる所以でもあります。
取締役会に出される案件は、問題なく承認される程度まで、加筆修正が加えられます。その際、取締役会の「空気」に沿うように変えられます。これが、提案をつまらなくする原因であり、承認を得るコツでもあります。取締役会の事務局、提案をつくる各部門の幹部は、取締役会の「空気」を読み切ります。提案をこの「空気」に合うようにすれば、必ず承認されます。
「空気」とは、社長や取締役が持っている暗黙の「前提」と置き換えてもいいかもしれません。「社長は、投資に対して常に慎重」「従業員を解雇するような提案を受け付けない」「急激な変化を望まない」「借入金は、増やさない」等々です。
日本で例えば、赤字続きのA部門を廃止しようとする時、まず血を止める為に「即刻廃止」の提案はありません。取締役会に提案されるまでに、A部門の人の再配置案、再就職案を固めておかないとすんなり承認が通りません。その結果、廃止案の検討が長引きくことになります。結果「日本企業は、迅速性に欠ける」と言われます。
これを抜け出すには、「空気」である「暗黙の前提」あるいは「暗黙の結論」を打破することです。「暗黙の前提」を否定することから、突破口が見えてくるはずです。
社外取締役の意向に沿った内容を提案に入れておく
大企業においては、社外取締役をおくことが商法上義務付けられています。社外取締役は、かつて銀行や経営経験者、官僚が多かったのですが、現在は各分野の専門家といわれる大学教授などの人々も入るようになってきています。
社外取締役には、それなりの使命感があります。提案の内容には、その方の自尊心をくすぐるようなことを入れます。女性問題や働き方の専門家なら、その提案で「女性が働き易くなる」。コンプライアンスの専門家なら、「これで法令遵守の精神が根ずく」などの内容を加えておきます。どんな提案でも、見方を変えるとその専門家の得意な話と関係づけられます。取締役会に提案を持ってくる人々は、そんなことぐらい簡単にできる優秀な連中です。社外取締役を「お客様」に変えることぐらい実に簡単です。
社外取締役がいて、その方に忖度する内容を提案に付け加えることだけでも、存在の意味があったと思うしかありません。
社外取締役は、その専門分野や出身分野にこだわらず、本気で会社やお客様のことを考えて意見を述べるべきでしょう。
「就任時、社長から『勝手な発言をしてもよい』とのお墨付きを頂いています」
こう言ってから発言される方を知っています。頼もしいかぎりです。
「出席者が、致命的に傷つかない」結論で終わるようにする
日本の取締役会のメンバー構成は、各部門の代表ということが多いようです。各事業部の代表であったり、営業代表であったりです。部門間で利害が対立する議題でも、ある部門を徹底的に痛め付けるようなことはしません。それが、ある種の「空気」になっています。
例えば、事故やコンプライアンス問題で出席者に責任があるような場合でも、一人で責任を取らせることはありません。たとえ懲罰があっても、本人と共に社長や数人の取締役に処分が科せられます。一人の責任ではなく、「経営陣の責任」となります。つまり、出席者が致命的に傷つかない結論です。
議論においても、相手を致命的に追い込むことはしません。「大人の会議」です。本来、議論の対立と「仲良し」とは別ものです。信頼があるから、言いたいことが言えるのです。取締役になるような人なら、その程度のわきまえがあるはずですが、つい遠慮がでるようです。相手を信頼して、ホンネの意見を交わされることを期待します。
まとめ
日本企業が低迷している理由の一つが、形骸した取締役会である。締役会が形骸するのは、暗黙のルールがあるからです。それは、
1)社長や取締役会の「空気」に合った結論になる提案を出す
2)社外取締役の意向に沿った内容を提案に入れておく
3)「出席者が、致命的に傷つかない」結論で終わるようにする
等々です。これらが、日本企業の低迷を生む一つの理由である。これらを打破することが、会社の活性化に繋がり成長させると信じます。