「なりたい姿」に向かって変えていく「改革志向」の意見満載

経営計画は、手間のかかる剛構造から、前提の変化に対応できる柔構造にしよう

2021/09/19
 
経営計画をつくる人のイラスト
記事一覧

この記事を書いている人 - WRITER -
長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

経営計画は、手間のかかる剛構造から、前提の変化に対応できる柔構造にしよう

 

経営計画は、手間をかけて作成しても、ズレが生れるもの

「経営計画を作るのに、時間と手間がかかる」
「経営計画通り、実行できない。実行する意味がなくなる」
「経営計画の目標達成は、運だより」
毎年、多くの企業で翌年度の経営計画が作られます。3年から5年先までの中期経営計画を作るところもあり、3月締めの企業では、毎年1月から2月にかけて仕事が増えることになります。
経営計画には、売上計画、利益計画、設備投資計画、生産計画、資金計画と様々な計画が含まれ、作成のための作業量は膨大なものとなります。

そうやって完璧に作成された経営計画ですが、4月に新年度がスタートし、6月末の株主総会時には、既にズレが現れはじめ、株主から経営目標達成を危ぶむ声さえ出る始末です。最近は、コロナ禍の影響で、計画が全く役に立た無くなっていますが、その前でも、程度の差はあれ、同じようなものでした。

日本の多くの企業が、あたり前のように作成している経営計画ですが、作成する人、計画を実行する人、計画の進捗を管理する人、それぞれが、計画を苦痛に感じているのではないでしょうか。この声が、冒頭に上げた言葉です。

変化が激しく、競争相手が多いビジネスの世界では、経営計画のもとになる前提条件を決定することは難しいものです。完璧な経営計画を作ろうとしても、不安定な前提条件という土台の上に、強固な鉄筋コンクリートの建物を建てるようなものです。

ビジネスの世界において、安定した前提条件などありません。(「岩盤規制」と言われる強固な法律や慣習で守られていれば、違いますが)ならば、むやみに鉄筋コンクリートの剛構造の計画を立てず、柔構造の計画にすべきです。

この記事は、長い間「経営計画」に振り回された自分の経験に「水平思考」の観点を加えて書いています。

 

実は、「経営計画」を作る理由は希薄

少々荒っぽい言い方ですが、日本の企業が、「経営計画」を作るのは、計画を作ることが習慣になっているからです。日本人の計画好きの習慣から来ているかも知れません。小学校の夏休み計画以来、「計画を作ることは、良い事だ」との刷り込みのせいです。

米国の材料系製造会社で副社長をしていた時、日本のような経営計画を作ることはありませんでした。月次、年度の売上、生産目標は決めていましたが、毎月見直していました。上場企業でないので、計画を公表する義務はありません。ただし、6か月毎に融資受けている銀行に実績と向こう半年分の売上見通しを報告していました。定期的に監査に来る銀行(実際は代行会社)が、過去6か月の実績と現状の売上をみて、銀行の方が、会社の将来を予想してくれます。その結果、企業経営が適正かどうか、自銀行の融資が適切かどうかの判断していました。彼らは、売上目標達成の見込みや利益がでるかどうかの判断は、融資担当の「本来業務」だと考えています。どこかの企業のあやしい経営計画を見て、粉飾を見破れない日本の銀行との差を感じます。

この例は、立派な「経営計画」を作ることが、経営上必須ではないことを言いたかっただけです。例に上げた会社は、今に至るまで何十年も黒字経営を続けています。

「経営計画は、無くてもいいもの」と考えるだけでも、経営計画を作成するプレッシャーは軽減されませんか。

一般的に信じられている経営計画をつくるメリット

多くの経営コンサル会社は、経営計画を作ることを推奨しています。そのメリットを拾い出してみました。この例を見ると、必ずしも完璧な「経営計画」が必要でないことが分かります。

1.強い経営指針が持てる
ごもっともです。事業計画や経営計画がないと行き当たりばったりの経営になりがちで、気づかない間に利益が低迷し、経営が行き詰まる可能性があります。特に業績が低迷している会社では、資金計画と実績を見ておかないと、エライことになります。

2.対外的な信用度が高まる
株主や金融機関に対する説明に使えます。株主も金融機関も計画に対する信仰がありますので、効果はあります。落ち目の大企業が、起死回生の中期経営計画を発表してマスコミに取り上げられ、一時的にも株価を押し上げる例です。

3.経営計画作成過程で、現状把握ができる
経営計画を立てるためには、企業の現状について調べることになります。この際、いろいろな発見があります。ただ、企業の現状など経営計画を作る時(年に1度)だけでなく、常に知っておくべきことです。これは、必ずしも経営計画を作る理由にはなりません。

4.組織で目標を共有できる
経営計画を公表することで、経営者の構想や会社の方針を共有できます。従業員のスローガンとして効果は、ありそうです。だだし、現実とのズレが大きくなると、「絵に描いた餅」状態になります。

5.従業員の組織的な活動ができる
経営目標の元、部署ごとに各種計画が作られ、従業員の個人目標まで定めることができる。「全社の従業員がまとまり1つ方向に進む」との錯覚が得られます。各従業員の仕事は、直接、間接に経営計画で掲げる目標に向かっているのでしょうが、計画書だけで理解するには無理があります。従業員を組織的に動かすのは、あくまでも第一線の管理職や職場リーダーの仕事です。

作っても実行に役立たない完璧な「経営計画」

 完璧な「経営計画」の欠点

優秀な社員が作成した経営計画は、何人もの決済を受けて完璧に仕上げられます。そんな経営計画や関連する計画ですが、それらはすべてその時点での情報を集めた前提からスタートしたものです。前提とした条件は、どんどん変化し、計画と実際とのズレが生れます。

上半期が終わるころ、計画の修正をスケジュール化している会社も見かけます。計画と現実がズレたら、当初計画を捨てもう一度作り直せば良いのでしょうが、さすがに全体計画を捨てるのは難しく、部分的に修正しようとします。部分的な修正は、かえって作成も実行も難しくなります。完璧な計画だけに、部分的にずらすと全体が歪んでしまうのです。下期に入った途端に、あちこちに、ほころびが生れ、全体が崩壊、「経営計画」を放棄してしまうことさえあります。

そもそも計画は、前提条件を明確にするほど作り易いものです。例えば、生産部門にとって前提は、売上計画です。生産部門が営業部門に対して、
「来年度の売上計画をはっきりさせろ!」
と迫ります。生産部門は、これを前提に、生産計画を作るからです。売上計画を前提として、生産計画、設備投資計画、人員計画、稼働計画を完璧に作成しようとします。

ところが、それら計画の前提となる売上計画は、市場の環境や製品の競争力、ライバル会社と関係で変わります。最近は、コロナ禍のような感染症の流行、自然災害、金融危機など突然の変化の頻度、規模が大きくなっています。前提が、極めて変化し易くなっているのです。

前提が同じなら完璧な「経営計画」は似てくる

前提条件を固定的に考えると、どの企業においても完璧な「経営計画」は、同じようになります。これは、ロジカルに考えれば考えるほどそうなります。例えば、人口の減少、低価格指向、本物重視、利便性重視を前提として、外食産業の経営計画を考えると、どこかで聞いたような「安い」「うまい」「はやい」に行きつきます。どこの会社も同じように考えますので、結果は不毛な消耗戦に突入することになります。倒産した数多くの企業の完璧な「再建計画」は、つなぎの融資、人員削減、不採算部門の切り離しです。業種の変更、顧客層の変更、新しいビジネスモデルの導入のような前提を変えるような再建計画でなければ、せいぜい大幅に規模を縮小した生き残りしか望めません。

企業の発展を目指した、経営計画を作るのであれば、従来のような完璧な「経営計画」を求めないことです。計画の前提が、変化すること、あるいは自ら前提条件を変化させることを考慮した柔軟な「経営計画」を作ることです。

同じ目標

Same goal ?

シンプルで柔軟な「経営計画」の運用提案

いくら従来の「完璧な経営計画」が不要と分かっていても、長年「完璧な経営計画」を作成してきた企業が、今年は「経営計画を作りません」と宣言するには、相当の覚悟が必要です。社長が決断しても、いろいろと抵抗が予想されます。計画を公表することで得られる対外的なメリットも失います。

そこで、シンプルで柔軟な「経営計画」の作成をお勧めします。実は、ネットなどに中小企業向けのA4で1枚のシンプルな経営計画書が紹介されています。(例えば、A4用紙1枚で作る経営計画の作り方|良い計画、悪い計画の具体事例」 )

最低限の売上、利益、投資、資金、人員などを含んだ計画書です。ただし、完璧を求めてはいけません。どの項目も変動要素が、たくさんあるからです。
むしろ、「経営計画」の運用に力をいれるべきです。
曖昧な前提の元に生産部門が計画を作ることを認識すること。実際の実行段階で、計画を更新していくことです。「最悪のケース」「最良のケース」「ありそうなケース」に分けて、計画を作ろうとすることがあります。前提条件を一つに絞らず、ケース分けすることです。いろんなケースごとに計画を作る手間が大変です。また、実行段階で、どのケースにあてはまるのか、結構判断が難しくなります。安直なケース分けは、「誰が」「いつ」「どう判断」してケースを分けるか決めなければ、経営者や各統括者の責任逃れになるだけです。

「計画を運用」するとは、「計画」と「進捗」に差があるとき
① 放置する(遅れを容認する)
② 実行を強化する。(遅れを取り戻すのに増員することなど)
③ 計画を変える(目標達成時期をずらす。目標レベルを変更する)
④ 実行の方法を変える
のいずれかを判断、実行することです。計画の達成状況をフォローすると言いながらなんの判断をしていないことがありませんか。

 

まとめ:「経営計画」は、完璧を求めず、前提が変化することを考慮する

何人もの決済を受けて作られた完璧な「経営計画」でも、作成時の前提条件が変化し、計画と実際とのズレが生じます。時間と手間をかけて完璧な「経営計画」をやめ、シンプルで柔軟な「経営計画」とし、前提の変化を考慮して、継続的に見直していくことが重要です。

参考記事:本ブログ「目標設定するときは、『結果目標』に『行動目標』を付けること」

この記事を書いている人 - WRITER -
長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。
スポンサーリンク




スポンサーリンク




Copyright© 改革志向のおっさんブログ , 2021 All Rights Reserved.