生産性向上を阻む2つのポジショントーク。「わかっちゃいるけど変われない」
生産性向上を阻む2つのポジショントーク。「わかっちゃいるけど変われない」
生産性向上を阻む2つのポジショントーク
Aさんは、各部署から代表者を集めて、生産性向上策を検討する会議を招集しました。日頃職場で感じている生産性の悪い仕事のやり方、分担を変えようといくつかの案を用意しました。Aさんは、事業部長から任命されて張り切っています。第1番目の案に対して、各部署の意見が出ました。
「その案では、内の職場の仕事が増えます。ただでさえ忙しいのにそれ以上の仕事は増やせません」
「自分職場は、他の職場と違います。内の職場は、適用外にしてください」
すると、他の職場からも堰を切ったように
「うちの職場では、こんなことが起きるので、適用できない。」
の類の発言が相次ぎます。Aさんは、各職場の代表を会議メンバーにしたことを後悔しました。メンバーの発言は、いずれも自職場の立場からの発言、いわゆるポジショントークです。*注1
各部署の分担を変えようとの提案に対して、負担が増える職場代表は、反対意見を言わざるを得ません。職場代表として会議に出て、自職場に負担が増える提案に賛成したことが、自職場の他のメンバーに知られると自分の立場がありません。本人は、自職場で仕事を受けるのが全体最適化と思っていても、反対意見を言わざるを得ません。内心、「反対したけど、賛成多数で決まった」と報告したいのです。これを
「わかちゃいるけど、変えられないトーク」
と名付けます。(ネーミングが昭和的なのは、お許しください)
一方、「うちの職場は、違うので、施策の適用外にして欲しい」と発言する人は、本気でそう思っています。内心、「何も変えたくない」とのバイアスがあるのでしょうが、本人は気付いていません。ひたすら、自職場で施策を適用した際の問題点を訴えます。改革を進めるために何等かの施策を出すと、「自分の職場は他とは違う」と決まって出る意見です。これを、
「変えたくないバイアス・トーク」
と名付けます。
*注1 本来ポジショントークは、金融界の言葉で自分のポジションを有利にする発言のことですか、この記事では「自分の立場に沿った発言」という意味で使用します。
ポジショントークを克服するのは、データ
そもそも世の中は、ポジショントークで動いていると言っても良いかも知れません。Wikipediaから引用すると、「日常生活におけるポジショントークは、自分という個人がどうであるかによらず、組織や社会において自分に期待されている役割によって行っている発言のことである」とあります。広告の宣伝文句、交渉時の発言、いずれもポジショントークの一種です。今、世の中でハンコレスの動きが出てきており、全国印章経営者協会から反論があるのは当然です。
ポジショントークには、意図的に発言している場合と、バイアス(思考の偏り)がかかって、ポジショントークのつもりは無くても、そう発言しているケースがあります。前者が「わかっちゃいるけど変えられないトーク」、後者が、「変えたくないバイアス・トーク」です。
生産性向上のために改革しようとしたとき、この2つタイプのポジショントークとの闘いになります。まずは、改革に参加する人全員が、全体最適化の意識をもつこと。誰しも「変えたくないバイアス」を持っていることを認識させる事でしょう。時には、トップの意向や強制力に頼ってでも、「やってみる」ことです。
「やってみる」で需要なのは、結果をデータで見せることです。自職場の仕事量が増えても、会社全体として生産性が上がったことをデータで示せれば、説得力がでます。自職場に適応しないと言っていても、データとして効果があれば、人の気持ちは変わります。生産性は、数値化できます。
まとめ:ポジショントークを克服して改革をしよう
生産性向上のための改善は、各職場からのポジショントークで停滞し易いものです。ポジショントークには、「わかっちゃいるけど変えられないトーク」と「変えたくないバイアス・トーク」があり、これを克服するには、データを使うことです。戦前の日本において、国家予算の取り合いで陸軍と海軍がポジショントークを繰り返し、国を誤らせました。役所、企業など縦割りの組織では、ポジショントークの問題は、常に付きまとうことを覚悟していくべきでしょう。