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ビジネスにおける「戦力の集中」と「戦力の逐次投入」を使い分けるためのポイント

 
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

ビジネスにおける「戦力の集中」と「戦力の逐次投入」を使い分けるためのポイント

 

「戦力の集中」と「戦力の逐次投入」の使い分け

「戦力の逐次投入は愚策である」
これは、昔から語られてきた戦史における鉄則です。逆の言い方をすれば、
「想定した場所と時間に戦力を集中せよ」
というのが、勝利の原則です。これは、政府の政策やビジネスにも通じることです。
ここ数年の政府による「新型コロナの感染対策」「景気対策」を中途半端として、「戦力の逐次投入である」と批判する向きもあります。(参考記事:毎日新聞「コロナ対策で『兵力の逐次投入』との批判をよく耳にする…」
一方で、すべてのリソース(ヒト、モノ、カネ等)を使って新規事業をスタートさせれば、うまく行かなかったとき修正する余力がありません。失敗すれば、再スタートできる可能性は低いものになります。イノベーションを起こす際、
「小さく始めて大きく育てろ!」
というのは、多くのシリコンバレーの創業者達の言葉です。この場合は、「戦力の逐次投入」を勧めていることになります。
ビジネスにおいて、リソースである戦力を「集中」した方がいいケースと「逐次投入」した方がいいケースとがあるということです。
「戦力の集中」と「戦力の逐次投入」には、以下のような特徴があります。
1)戦力の集中
 有限なリソースを特定の事業やプロジェクトに集中させること。目標の達成や成果の最大化を図ることができる。また、結果を速やかに得ることができます。
2)戦力の逐次投入
リソースを段階的に投入し事業やプロジェクトの成長に従って調整していくこと。 途中での評価や修正が可能であり、市場の変化や予測不可能な要因への適応力を高めることできます。また、失敗が発生した場合には、大きな損失を抑えられます。
事業やプロジェクトを計画・マネジメントする上で、「戦力の集中」をするか、「戦力の逐次投入」をするかを考える際のポイントがあります。
1)目的・目標を明確にすること
2)自社のリソースを把握すること
3)相手の戦略、リソースを把握すること
これらは、戦力(リソース)の配分に限らず、様々な戦術を作成する上で、大切なものでもあります。
この記事では、このポイントについて、実例を挙げて考えます。

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目的・目標を明確にすること

「戦力の集中」や「戦力の逐次投入」とは、リソースである「ヒト、モノ、カネ」の配分方法です。大切なことは、もっているリソースを使って、何をするかということです。つまり、目的・目標が不明瞭であれば、どのようにリソースを配分しようが、成果はでませんし、そもそも評価しようがありません。
実際に起きやすいのは、「目的・目標がない」のではなく、「目的・目標が動く」ことです。
私は、努めていた会社において、不振が続く事業部の立て直しが行われた例をご紹介します。この事業部には、かつてヒット商品があり、大きく成長して製造担当が50人ほどいました。当時、事業部では「事業の立て直し」を目標として、新商品の開発・販売に力を入れていました。ところが、新商品は思うように売れません。そのうちに、市場が悪化し、「生産の合理化」が先だろうということで、設備を集約して担当者9人を他の部署に異動させました。しかし、業績は益々悪化していきます。そこで、赤字商品の販売をやめることにしました。その結果、担当者が更に20人は不要になります。すると従業員から雇用に対する不安が噴出。幹部は、「従業員の雇用を守る」と宣言しました。その後、事業部の幹部は、社員の異動先探し、離職後の職場探しにエネルギーを使うことになりました。
今、この事業部の社員は、当初の半分です。新商品は、市場に受け入れられましたが、自社生産ではなく、委託生産になっています。この事業部の「目的・目標」は、「利益の確保」から、いつの間にか「新商品の開発・販売」になり、状況の悪化で「事業部の存続」「従業員の雇用確保」と変わっていきました。もし、「利益の確保」を継続していたら、すみやかに事業規模を半分に縮小し、大きな損失を防ぐことができたでしょう。「新商品の開発販売」を継続していたら、自社で新商品を製造販売して、大きな利益を得ていたかも知れません。これは、状況の変化によって「目的・目標」を動かしてしまった事例です。

自社のリソースを把握すること

自社がもっているリソースは、ヒト、モノ、カネの他に情報やブランド、人脈といったものがあります。
「戦力を集中する」
と言いながら、自社の持っているリソースを全て活用できていないことがあるものです。使えるヒト、モノ、カネを過少評価したり、過大評価したりでは、適切なリソース活用に繋がりません。
特に情報や人脈は、せっかく持っていても事業やプロジェクトの立案・実行者が把握しておらず活用されないケースがあります。例えば、苦戦している新商品の売り込み先企業のキーマンが、後になって自社にいる社員と同じ大学の運動部出身と分かった。総務部が、地元で大手流通会社が大きな投資をする情報を得ていたのに営業部が知らず出遅れたといったことなどです。

相手の戦略、リソースを把握すること

競合する相手の持っているリソースや戦略を把握していなければ、「戦力の逐次投入」は、必ずしもリスクの少ない戦術にはなりません。それは、相手のリソースが予想外に大きければ、そのたびに撃破されてしまうからです。

「戦力の逐次投入」というと、必ずと言っていいほど例に出される1942年8月から始まった太平洋戦争でのガダルカナル島の戦いです。日本軍は、米軍に奪われたガダルカナル島を奪還しようと3度にわたり米軍に戦いを挑みました。
ガダルカナル奪還の第1戦は、日本軍900名の兵が、夜陰に紛れて米軍の背側に上陸し、夜間白兵突撃で一挙に決着をつけるという作戦でした。日本軍は、ガダルカナルを占領した米軍兵力を約2-3,000人程度と予想していましたが、実際は10,900名、しかも日本軍の数十倍の機関砲と自動小銃を持ち込んで待ち構えていました。結果は、日本軍全滅です。
第2戦は日本軍6,200名でしたが、米軍も増強され15,000名になっていました。日本軍は、夜襲を仕掛けますが、米軍に一方的にやられています。
ガダルカナル奪還の第3戦では、日本軍15,000名を投入しました。一方の米軍は、28,000名に増強されていました。この時、大本営は、米軍の兵力を
「7、8,000名、最大10,000名に到達する可能性あり」
と見積もっていました。結果は、またしても米軍の圧勝でした。
3度の戦いで、日本軍の死者24,000名(米軍1,600名)と記録されています。(戦史叢書:南太平洋陸軍作戦2)
当時大本営にいたエリート参謀達は、「戦力の逐次投入は愚策である」ことを良く知っていたはずです。しかし、結果として戦力の逐次投入という愚策を犯してしまいました。それは、
1)米軍の兵力を過少評価したこと、
2)当初、米軍は「ガダルカナルを対日反攻の拠点にする」戦略であることに気付かなかったこと、
にあります。現実には、「戦力を集中」させようにも、既にリソースが欠乏していて、米軍の兵力を小さく見積もらざるを得なかったのかも知れません。
自社の都合で、競合のリソースや戦略を見積もるのは、何も旧日本軍だけではないことは、「いつでも起こりうること」として注意が必要です。

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まとめ

「戦力の集中」するか、「戦力の逐次投入」をするかは、持っているリソースの配分のし方の選択です。どちらを選ぶかは、状況によります。その判断をするうえで、3つのポイントがあります。
1)目的・目標を明確にすること
2)自社のリソースを把握すること
3)相手の戦略、リソースを把握すること
これらは、戦力(リソース)の配分に限らず、様々な戦術を作成する上で、大切なものでもあります。

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