テレワークは、長時間労働によるコンプライアンス違反リスクあり:コンプラ研修(その6)
テレワークは、長時間労働によるコンプライアンス違反リスクあり:コンプラ研修(その6)
テレワークは、長時間労働によるコンプライアンス違反リスクあり
コロナ禍をきっかけにテレワークの比率が拡大しています。テレワークになることで、通勤時間が無くなるなど利便性が高まる半面、オンとオフの境が無くなり、むしろ長時間労働が増えているとの報告があります。連合のテレワークに関する調査2020によると、テレワークにより通常勤務よりも長時間労働になったと回答した人の割合が半数超(51.5%)という結果がでています。そして、「テレワークで、残業代支払い対象の時間外・休日労働を行うことがあった」という人が全体で38.1%、10代・20代では51.6%と半数を超える結果です。無秩序なテレワークは、労働基準法違反などのコンプライアンス違反リスクが高まります。
従来、労働基準法で定義される労働とは、
「その場にいること」「働いていること」
が前提です。職場のタイムレコーダーの打刻時間やPCの起動時間が、労働時間の証明になっていました。労働監督署は、仕事の中身は問題にしません。その場にいて、働いている時間が、基準より長くないか、働いている時間に対して賃金が支払われているかを監督し、不適切なら是正と処罰がなされます。ところが、テレワークでは、「その場にいること」の前提が崩れます。「働いていること」の証明も難しくなります。コンプライアンス違反のリスク低減には、2つのポイントがあります。
1)「労働時間」の定義を適切にすること
2)HRテックやIT技術を活用した労務管理
従来の法令や仕組みは、従業員が「その場にいること」「働いていること」を前提に作られています。テレワークは、この前提に沿わないものです。各企業で、テレワーク時代にあったルールとツールを用意することで、コンプライアンス違反のリスクを下げることが必要です。
「労働時間」の定義を適切にすること
コロナ禍で普及が拡大しているテレワークとは、「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語で、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方です。ところが、従来の労働の定義「その場にいること」「働いていること」を当てはめると無理が生じます。
「労働時間」を「業務の成果」に置き換えることが考えられます。例えば、保険の営業などで採用されている歩合制です。成果で賃金を評価する制度は、担当した仕事や顧客によって成果に大きな差が生まれることがあります。また、成果を出したいために長時間労働を助長しかねません。これでは、労働基準法の精神である「労働者の健康を守る」ことから外れます。結局、労働に携わる時間の定義を適切に決めるしかありません。ある部署の例を紹介します。
1)会社支給端末であろうと私物端末であろうと、業務に関わる端末操作は労働時間
2)基本の労働時間は、朝9時から17時半までとし、12時~13時は休憩時間とする
3)労働時間外の端末操作は、時間外労働として扱う
4)家事をしながら、子守りをしながらの業務は、業務時間を半分とみなす
こんなルールのもと、メールで上司に毎日労働時間を自己申告しています。会社支給PCの起動時間は把握できますが、基本は自己申告で労務管理がなされます。こんな労務管理を始めて1年、「こんな場合」、「あんな場合」の労働時間の扱い方例が増えています。この部署では、過去労働監督署からサービス残業を指摘されたこともあり、コンプライアンス違反リスクをルールの更新・明確化することで対応しています。
HRテックやIT技術を活用した労務管理
リモートワークの労働時間管理は、自己申告に頼るケースが多くなります。PCの起動時間では、PCを起動しない仕事や逆にPCを24時間起動し続けることがあり、正確な労働時間の把握は困難です。また、自己申告のために毎日上司にメールを打つ、あるいは専用システムを起動して入力するのは結構面倒で、かならずメール報告や入力を「さぼる」人間がでてきます。
リモートワークには、様々な場所と方法があります。
① 在宅勤務
自宅にて、インターネットを活用したPCやスマホ業務、リモート会議や電話で会社や同僚と連絡をとりながら働く方法。
② モバイルワーク
顧客回り等外出時の移動中に、パソコンやスマホを使って働く方法。
③ サテライトオフィス勤務
勤務先以外のオフィススペースでパソコンなどを利用して働く方法。社内LANにつながるスポットオフィス、専用サテライト、数社の共同サテライト、レンタルオフィスなどの施設を利用する方法。いずれの場合でも、従来の仕事の前提であった、場所と時間が把握しにくくなっています。加えてオンとオフの境もはっきりしないことが多く、益々労働実態の把握は困難です。実態としては、会社支給のPCやタブレットの起動時間、メールによる自己申告により管理されていることが多いようです。図参照。(出展:連合「テレワークに関する調査2020」)
これらテレワーク時代の問題解決に期待されるのが、IT技術を使ったHRテックサービスです。HRテックとは、HR(Human Resource:人財)× テクノロジー(Technology)の造語です。採用や労務管理、リーダー育成、人事評価などの幅広い人事関連業務において、ビッグデータ解析や人工知能(AI)、クラウドなどの最先端テクノロジーを活用して、人事課題の最適解を導くソリューションやサービスのことです。
HRテックには様々な分野がありますが、労働時間の把握・集計などでは、リモートワークに対応した労務管理システムが使えます。労働時間をPCやメールの使用状況等から自動で把握することなどができます。加えて、うつ病なども含めた健康管理、業務の成果管理も合わせてできる可能性があります。
リモートワークにおいて、労務管理の問題は、そのままコンプライアンス違反と結びつきます。他にもリモートワークの課題として、1)求人・求職のリモート面接等チャネル変化 2)業務プロセスがみえず、人事評価が偏る 3)うつ病など健康異変に気付きにくい 4)指示命令が徹底しにくいなどが出てきています。これらにHRテックを活用し、課題解決ができるようになることが期待されます。
まとめ
従来、労働基準法で定義される労働とは、
「その場にいること」
「働いていること」
が前提です。ところが、テレワークでは、「その場にいること」の前提が崩れます。「働いていること」の証明も困難です。コンプライアンス違反のリスク低減には、2つのポイントがあります。
1)「労働時間」の定義を適切にすること
2)HRテックやIT技術を活用した労働時間管理
各企業は、テレワーク時代にあったルールとツールを用意することで、コンプライアンス違反のリスクを下げることができます。
参考記事:「コンプライアンス研修」を形骸化させない4つの教育ポイント(その1)
「コンプライアンス違反」の防止対策と発生時の対応:コンプラ研修(その2)