「仕事ができるマネージャー」が組織をブラック化させてしまう理由

「仕事ができるマネージャー」が組織をブラック化させてしまう理由
ブラック企業の2つのタイプ
従業員を劣悪な環境で働かされる企業を「ブラック企業」呼びます。(英語には、ブラック企業という言葉はありませんが。)
ブラック企業の特徴には、
1)過酷なノルマと長時間労働
2)残業代の未払いがある
3)パワハラなどの精神的圧力が強い
4)休みが取れない
5)離職率が高い
といったことがあります。
企業がブラック化すると、そこで働く人の身心の健康を害し、時には過労死といったことまで引き起こします。また、過労死や残業代の不払い等で、マスコミからブラック企業として取り上げられれば、その企業は社会的信用を失い、売上や求人にまで影響が及びます。
就活関連のネット記事や本には、
「ブラック企業には行くな!」
「ブラック企業の見分け方」
といった言葉が溢れ、若い世代を中心に嫌われています。
一般にブラック企業は、利益至上主義の経営方針のもと、経営陣が従業員に過酷なノルマと精神的圧力をかけるという構造があります。ヒトやカネが不足気味の環境の中、経営者が利益増とコストダウンばかりに目を向け、ブラック化が進んでいくパターンです。
一方、世間で健全と思われているような企業においても、業界や職種によっては、チームとしてブラック化してしまうことがあります。営業や経営企画、工場の企画・設計部門などの部署において、ブラック化する例があります。長時間労働が当たり前の官僚がいる中央官庁も、ブラック化した職場と言えるかも知れません。
ブラック企業を以下の2つのタイプに分けることができます。
1)利益至上主義型ブラック企業
利益至上主義のもと、組織としてブラック化しているパターンの企業。会社として、長時間労働や過酷なノルマを強いている、残業代を払わない、パワハラが蔓延しているといった企業風土があります。
2)マネージャー主導型ブラック組織(企業)
「仕事ができるマネージャー」の影響で、組織(企業)が、ブラック化するパターン。会社として、過酷な労働を強いてはいないのに、社員みずから長時間労働や強いプレシャーを受ける状況を作りだしている組織の陥るブラック化。
この2つのタイプのブラック企業化には、ブラック化する理由があります。理由を知ることで、ブラック化を防ぐことができます。
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「脱・ブラック企業」の経営戦略 業務の可視化と標準化による組織変革 (日本経済新聞出版)
利益至上主義型ブラック企業になる理由
ブラック企業が生まれるのには、いくつかの要因があります。このタイプのブラック企業が生まれる主な理由は、以下のようなものです。
1)利益至上主義とコスト削減圧力
会社は、利益を最大化するために人件費を削減しようとします。従業員を増やさず、長時間労働でしのごうとして無理を重ね、やがてブラック化します。その背景には、ヒトが不足している。カネがなく、効率化の投資が出来ていないといったことがあります。
また、低価格競争が激しい業界や長時間労働が常識化しているような業界では、よりブラック化し易くなります。
2)企業文化と経営者の意識
企業文化として、「根性論」や「従業員は使い捨て」という考え方が根付いている企業。経営者が労働環境の改善よりも短期的な利益を優先するということがあれば、ブラック化し易くなります。
3)法規制の不十分さと監督の弱さ
労働基準法違反があっても、監督が十分に行われない場合、ブラック企業が野放しになります。過労死した従業員のいた職場では、その前から兆候(サイン)があるのですが、それを見逃してしまっていることが多々あります。
また、労働基準法に違反した場合も罰則が軽いためか、違法行為を続ける企業が後を絶ちません。
マネージャー主導型ブラック組織(企業)になるパターン
会社として、過酷な労働を強いてはいないのに、社員みずから長時間労働をしたり、強いプレシャーを受ける形になったりしてブラック化が起きます。
例えば、責任感があり「仕事ができる」と評価される営業マネージャーが、結果的にチームをブラック化させてしまうといったことです。以下にそのパターンをご紹介します。
法人相手を相手とする営業担当は、顧客満足と成果が重視されます。顧客からの要望に対して、マネージャーが即断で「対応可能」と約束してしまうことがあります。納期短縮や無理な仕様変更などに対し、
「自分が責任を取るから、とにかくやろう」
と前向きに対応する姿勢は、お客様に大きな満足を与えます。ところが、社内リソースやマンパワーを無視した判断の結果、部下に無理をさせることになります。
部下が、
「無理です」
と反発しても、マネージャー自身の成功体験や仕事量を基準にして、部下にも同様のパフォーマンスを求めてしまうことがおきます。部下に対して、
「自分ができたのだから、君たちもやれるはずだ」
という価値観が押しつけられることで、部下は疲弊し、育成の機会を失い、最悪の場合離職につながります。
また、部下の業務過多を補うためマネージャー自身も過剰に仕事をすることになります。その結果、なんとか成果を出せたということになります。どんなやり方にせよ、仕事を終わらせれば、上層部からは「優秀なマネージャー」と見なされます。外部からみてもチームに問題があるようには見えません。一連の無理した仕事のやり方は、その後是正されることなく繰り返され、ブラックな労働環境が常態化することになります。
こうして、善意のマネージャーが主導する形で、職場のブラック化が進むことになります。
マネージャー主導のブラック化を防ぐ方法
1)仕事の属人化を防ぐ
仕事が属人化していると、マネージャー個人の判断と組織の最適判断との間に差異が生まれます。業務の標準化によって、属人化を防ぐことです。
標準化ができていれば、顧客の要望を丸のみすることはできません。お客様との間に「線引き」ができます。お客様からの過度な要求に対して、
「弊社のルールで、お受けできないことになっております」
といった断りの言い訳にもなります。
また、部下の仕事が標準化されていれば、お客様の要望にたいして、「できる」「できない」が明確化します。
2)マネージャーの人事評価方法を確立する
マネージャーが、部下に負荷をかけ過ぎたり、自分自身が長時間労働になったりするのは、「成果さえだせば、なんでも許される」といった暗黙の人事評価基準があるからです。「成果は、そのプロセスを含めて評価する」
といった考え方を確立し、社内に浸透方させることが重要です。
3)仕事を「見える化」する
仕事の標準化にからみますが、仕事を「見える化」することは、ブラック化防止に効果があります。「どんな仕事をしたか」「残業時間がどの程度あるか」といったことが常に見えるようにすることが重要です。仕事を部下に丸投げして後は知らないとか、マネージャーが、部下の残業時間の多さを月末になって初めて気付くといったことでは、ブラック化を逃れることはできません。
まとめ
会社や組織がブラック化するパターンがあります。それは、以下の2つです。
1)利益至上主義型ブラック企業
2)マネージャー主導型ブラック組織
利益至上主義型は、利益を最優先する企業風土が、長時間労働や過酷なノルマを強いるパターン。マネージャー主導型は、「仕事ができるマネージャー」の影響で、ブラック化するパターン。
組織のブラック化を防ぐには、ブラック化する理由を理解することです。
参考記事:職場における「属人化」が起きる3つの理由とそのリスク対策
「能率」と「効率」に分けてアプローチする8つの生産性向上対策