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やり方次第、ビジネスで重要な「根回し」のメリットとデメリット

 
紛糾する会議のイラスト
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

やり方次第、ビジネスで重要な「根回し」のメリットとデメリット

 

一切「根回し」のない会議をするとどうなる?

日本には、「根回し」という文化があります。物事を円滑に進めるために事前に関係者と非公式に調整や合意を得るプロセスを指します。ビジネスの場面では特に重要視される文化です。これまで、日本の企業や政治では、盛んに「根回し」が行われてきました。その結果、企業の役員会、国会などの重要な会議でも、決められたストーリーに沿った会話が行われ、予定通りの採決結果となりがちです。過度な「根回し」は、会議のマンネリ化を招きます。
「根回し」には、合意形成がスムーズに行えることや、人間関係をギクシャクさせなといったメリットがあります。一方で、時間と労力がかかる、根回しをしている間に提案が修正され、革新的なアイデアが平凡になってしまうといったデメリットがあります。そして、究極の根回しは、「談合」ということになります。
とは言っても、一切「根回し」のない会議は、なかなか大変です。そんな体験をご紹介します。
私は、米国の企業で仕事をしたことがあります。米国の会社では、どんな会議、どんな議題に対しても、活発な意見が出て感心しました。「これが、ディベートの文化か」と思って感心していたのですが、しばらくして気付いたことがあります。会議に参加する人は、提案者以外、議題に関して事前に何も知らないということです。その場で内容を知り、その場で意見を出し、その場で結論を出そうとするから、会議が活発になっていることに気付きました。参加者は、予習無しで試験を受けているようなものです。皆が、内容をすぐ理解しているか怪しいものです。また、黙っていれば、「無能」と思われので、何がしかの質問をします。中には、本質とは無関係な話をする者もいます。そして、度々司会者が、
“please, one meeting!”
と叫ぶ羽目になります。結局、議論についていけない者、発言のない者は、無視されて会議は結論へと進みます。
「優秀な者が、会社を引っ張る」という文化の国ですから、「根回し無し」は、スピード感のある決定ができます。時には失敗もありますが、「またチャレンジすればいい」という思想が根底にあるので平気です。日本人の感覚からすると、まことに危なっかしい結論の出し方です。それでも、スピード時代の現代の会社経営には向いているのかも知れませんが、ある程度の「根回し」はした方がいいというのが、私の見解です。
「根回し」のやり過ぎで弊害が出ることもありますが、うまく「根回し」をすることで、重要な仕事が効率的に進めることができます。
この記事では、「根回し」のメリット、デメリットを例を挙げながらご紹介します。

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「根回し」のメリット

「根回し」には、以下のような2つのメリットがあります。
1)合意形成がスムーズになる
会社で新しいプロジェクトや制度を導入する場合、事前に主要な関係者(上司や関連部署)に話を通すことで、正式な会議や提案の場で反対意見が出にくくなります。
また、「根回し」の段階で反対意見や問題点を把握しておけば、対策を立てたうえで正式な場に臨むことができます。
事前に会議の出席者に資料を配布しておくのは、間接的な「根回し」ということもできます。
2)人間関係のトラブルを防ぐ
関係者を事前に巻き込むことで、「自分が無視された」と感じる人が出にくくなり、信頼関係を保つことができます。
例えば、提案を正式の会議の前に特定の人にその主旨を理解してもらい協力を得ることで、その人が「自分の提案」と感じるほどの感情を得ることができます。
よく会議で出てくる
「俺は、そんな話は聞いていない!」
と言ったことを防げます。また、工場や企画部が新しい提案を行う際、営業部の意見も事前に取り入れておけば、後から「現場のことを考えていない」と批判されるリスクが減ることになります。

「根回し」がうまく働いた例をご紹介します。
私が、日米合弁企業の現地(米国)工場の運営に携わっていた時の話です。この会社では、3か月毎に日本と米国から役員が3名ずつ参加して、ボードミーティング(役員会)が開催されます。このミーティングにおいて、会社の運営担当者が提案した資金計画、投資、人事制度、給与等の重要な案件が承認されるルールになっていました。
毎回米国人の運営者K氏(現地会社社長)が投資や人事制度などを提案するのですが、必ずと言っていいほど日本サイドの役員は、反応してくれません。日本人役員は、
「急に言われても、内容が分からない」
「日本に持ち帰って、検討して回答する」
といった発言ばかりで、一回で結論が出ることはまずありません。毎度こんな具合ですから、米国人スタッフは、日本人役員に辟易(へきえき)です。よく米国人スタッフから、
「どうして、日本人の役員は、すぐYES、NOが言えないのか」
「日本人の役員は、提案内容が理解できない『バカ』ではないか」
といった言葉を浴びせられました。
そんなことが1年ほど続いていた後、私はK氏に「nemawasi」(根回し)という言葉を教えました。
「日本人は、即断が得意ではない。前もって、内容を説明しておく『根回し』をしておけば、スムーズにいく」
ということを伝えました。更に、「根回し」は、日本人役員の3人全員ではなくてもいい。最も現場を知っている技術系役員であるA氏に対して「根回し」、つまり説明をして、理解を求めるだけでもいいと伝えました。
その後、米国人のK氏は、私と一緒に会議の前日にA氏と面会。丁寧にボードミーティングに出す提案内容を説明しました。
そして、ミーティング当日、K氏が設備投資と給与アップの提案です。赤字経営の中での投資や給与アップですので、日本人役員から反対もしくは、持ち越しの反応を予想していました。たしかに、長い沈黙の後一人の日本人役員から
「時期尚早」(じきしょうそう)
との意見が出ました。ところが、何と同じ日本人役員のA氏が他の日本人役員に自ら詳細に内容を説明して、同意を求めたのです。K氏も私も我が目を疑いました。
どうも、A氏は提案内容を理解して賛同している以外に、事前に説明を受けたことで、「提案を通さなければ」という責任感と他の役員より技術系役員として現地をより知っているというプライドが働いたようです。
この後、「根回し」は毎回継続され、会議の結論が圧倒的に速くでるようになりました。また、K氏は米国人の役員に対しても「nemawasi」をするようになっていました。特に米国人役員が反対しそうな提案の時は、念入りに「根回し」をしていました。ちなみに、日本を紹介する本には、「Nemawasi」の解説が載っているとK氏が、教えてくれました。

「根回し」のデメリット

「根回し」のデメリットとして、以下のようなデメリットがあります。
1)時間と労力がかかる
事前に多くの関係者と個別に調整するような「根回し」をすると、時間と労力がかかります。このため、スピードが失われます。プロジェクトの計画が出来ているのに、正式会議での否決を恐れて、延々と「根回し」を続け、提案が出来ないといった事態に陥ることもあります。
2)意思決定が不透明になる
非公式な場での調整が多いため、正式な会議での議論が形式的になり易くなります。正式会議の前に
「もう決まっていることを確認するだけ
といったことです。
また、「根回し」をする相手を特定の意見や派閥を意識して行われと、特定の人や部署の意見が優先され易くなり、不公平感が生じます。
3)イノベーションを妨げる可能性がある
関係者全員の合意を取ろうとすると、革新的なアイデアやリスクの高い提案が却下され易くなります。
新しいアイデアを思いつき、これを提案する前に「根回し」として説明する内に修正が加えられ、「骨抜き」の内容となる場合もあります。

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まとめ

「根回し」は、物事を円滑に進めるために事前に関係者と非公式に調整や合意を得るプロセスを指します。根回しのメリットは、
1)合意形成がスムーズになる
2)人間関係のトラブルを防ぐ
ことです。一方、デメリットは、
1)時間と労力がかかる
2)意思決定が不透明になる
3)イノベーションを妨げる可能性がある
といったことです。
「根回し」をすることで、物事を円滑に進めることが出来ますが、過度な「根回し」は、弊害を生み易いので要注意です。

参考記事:長い会議をやっても「決められない」、日本的な理由とは

会議の効率化は、「なんのための会議」かを仕分けすることから

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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。
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