「念のため」という思考が、「ムダな仕事」や「ムダな在庫」(デッドストック)を増やす
「念のため」という思考が、「ムダな仕事」や「ムダな在庫」(デッドストック)を増やす
「念のため」という思考が、「ムダな仕事」や「ムダな在庫」を増やす
「『念のため』にファックスの連絡先を残しておく」
「書類を『念のため』に保管しておく」
これは、ある会社で業務効率化の一環として、ペーパーレス化が進められたときに起きた話です。注文受付は、電子メールやチャット(Line)にする。書類は、電子データ化すると決まりました。ところが、
「ファックスを使っているお客様がいるかもしれない」
「役所から書類を求められるかもしれない」
ということで、冒頭にあげた「念のために残す」という保険が掛けられました。その結果、ほとんど働くことのないファックスマシンとページをめくることのない大量の書類がロッカーを占領してしまいました。これは、「念のため」と言う言葉が、ムダな仕事とムダな在庫(デッドストック)を作りだした例です。
モノが溢れた職場や家庭で「断捨離」をする時のコツは、「使うモノ」と「使わないモノ」を区別し、「使わないモノ」を捨てることです。ところが、
「いつか使うかも知れない」
ということで、捨てずに残すと断捨離の効果は中途半端なものとなります。「念のため」という思考が、改革を阻んだりデッドストックを生み出したりします。モノの断捨離、業務の断捨離を実効性のあるものにするには、「念のため」という思考を断ち切ることがポイントです。
「念のため」という思考と決別するには、以下の3つステップがあります。
1)リスクを具体化する
2)関係者に理解を求める
3)最終リスクを想定する
「念のため」といって、モノを残したり、従来の仕事のやり方を残したりするのは、モノを捨てることや従来のやり方を完全に変更することに対して「不安」があるからです。その「不安」を明確にして、対策を立てること(「あきらめる」も対策)で、「念のため」という思考から生まれるムダを除くことが可能になります。
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人生を変える断捨離
リスクを具体化する
「念のため」とは、低い確率で起きそうなリスクに備えるということです。漠然と「念のため」といわず、具体的にリスクを想定してみることです。
冒頭のペーパーレス化の例でいえば、
①ファックスで連絡する顧客が存在する
②役所から印鑑を押した原紙の提出要求がある
ということが想定されます。他にも
③コンピューターシステムが故障する
④地震等の災害が起きる
等々の状況も想定されます。これら想定したリスクに対して、対応策をあらかじめ用意することで、不安を軽減できます。不安を軽減できれば、「念のために残そう」という思考から抜け出せます。
関係者に理解を求める
リスクを想定したことに対して、組織内で対応できることと、できないことがあります。組織内で対応できないことは、組織外の関係者(他部署や社外の顧客、役所など)にモノを廃棄すること、やり方を変えることへの理解を求めることで、対応策が見いだせます。
先ほど挙げたファックスを廃止することに対して、ファックスを利用していたお客様に連絡を取るとあっさりと他の方法に切り替えてもらえました。また、書類の保管について問い合わせると、2021年4月から、行政手続において、PDF形式の書類保管が認められるようになっており、従来の紙の書類と同等の法的効力を持つようになっていました。ただし、現時点(2024年3月)では、市、県、国や事柄によって対応がまちまちで、個別の問い合わせが必要状況ではありますが。
また、ある貸オフィスの会社で、支払いを個人、法人を問わず全てクレジットカード払いにして合理化した例があります。従来は、請求書による現金払い、銀行振り込み、クレジットカード払いなどの方法でオフィス代を回収していたのですが、クレジットカードに一本化することで、回収にかかる時間と人権費を下げることに成功しています。この会社では、
「『念のため』にクレジット以外の方法を残そう」
との意見が出たそうですが、社長の
「お客様にとってもメリットがあるので、クレジットカードのみの支払い方法を理解してもらおう」
との方針のもと、顧客説明を3か月にわたり丁寧に行い全面切り替えに至っています。
モノを捨てる、やり方を変えるとき相手があると、つい「念のため従来のやり方を残す」という思考になってしまいがちです。丁寧に説明するなど、理解を求める努力が重要です。
最終リスクを想定し受け入れる
モノを捨てる、やり方を変えるといったことを実行するにあたり、そのことで生じるリスクを想定します。このリスクに対して、様々な対応策を考えておくことが、「念のために何かを残しておく」というムダを防ぎます。しかし、リスクは様々なレベルがあり、すべてをカバーすることは不可能です。
例えば、先ほどの例に挙げたファックスでの注文を受け付けない、クレジットカード以外での支払いは受け付けないという会社の場合、いくら対策をたてても究極のリスクとして、顧客を失う恐れがあります。これを怖がって「念のためにファックス受注を残す」、「念のために現金払いを残す」といった意見が出るかも知れませんが、その確率を考えれば、覚悟を決めて「念のために残す」ことをやめるべきです。この場合の覚悟とは、「一部の顧客を失う」ということです。
つまり、最終のリスクを想定し、これに対する覚悟を決めることで、「念のために残す」という思考から抜け出すことができます。
災害対策では、様々なリスクを想定した対策がとられます。しかし、最後に対応すべきリスク対策は「死者を出さない」ということです。企業経営でいえば、最後のリスクは「倒産」ではないでしょうか。これらは、どれほどの対策をしても避けられない場合があります。そこで、これら最悪の事態を受け入れる覚悟を持ち、せめて「死者の数を最小限にする」「倒産のダメージを最小にする」といった対策が準備されています。
まとめ
「念のために残す」という思考が、モノを溢れさせ、業務の効率化を阻みます。
「念のため」という思考と決別するには、以下の3つステップがあります。
1)リスクを具体化する
2)関係者に理解を求める
3)最終リスクを想定する
「念のため」といって、モノを残したり、従来の仕事のやり方を残したりするのは、モノを捨てることや従来のやり方を完全に変更することに対して「不安」があるからです。その「不安」を明確にして、対策を立てることで、「念のため」という思考から生まれるムダを除くことが可能になります。