近年増加する第3の労働、「感情労働」のメリットとデメリット
増加する「感情労働」のメリットとデメリット
「感情労働化」の意味とメリットとデメリット
「生徒に人気の先生」
「ハンバーガーチェーン店のスタッフ」
共通するのは、いつも笑顔で声をかけてくれるということです。先生として知識があるかどうかより、教えてもらって「楽しい」と感じることが、人気の秘密です。ハンバー店では、料理の味もさることながら、明るく笑顔で親切に接してくれるスタッフがいることが重要です。
これまで、労働は、体を使う「肉体労働」と頭を使う「頭脳労働」の2つに分けるのが一般的でした。しかし最近、感情を使って働く「感情労働」という概念が新たに生まれています。
感情労働とは、業務中に感情のコントロールや表現が求められる職業に用いられる概念です。社会学者のA・R・ホックシールドが、1983年にその著書「管理される心」で提唱されたものです。そこでは、顧客や消費者に対して心理的な満足感を得てもらい報酬を手にする労働と定義されています。
接客業は勿論のこと、感情表現やコミュニケーションを通してお客様と接する分野の業種であれば、感情労働が行われていると考えることができます。
管理される心―感情が商品になるとき
「感情労働化」とは
サービス業といわれる業種において、「感情労働」は、お客様の満足度に大きな影響を与えます。ハンバーガー店のスタッフなど接客を主な業務をする「感情労働」だけでなく、最近は、医療業界、保育、教育、金融、官公庁、広告やメディア等も感情労働が重要になってきています。これを「感情労働化」と呼ばせてもらいます。
本来「肉体労働」や「頭脳労働」である仕事に「感情労働」を加えたものを「感情労働化」と定義します。
例えば、非サービス業において営業部門は、お客様の購買意欲を引き出すのに、感情労働を必要とします。商品をよりよく見せ、「欲しい」と思ってもらえるよう、自身の感情をコントロールしつつ成果に結びつける、感情面の高度なテクニックが要求されます。
学校の先生は、生徒やその親を相手に感情労働をしています。怒りや情熱という感情も表現しなければならないため、ほかの感情労働を要する職種よりストレスに感じられるウェイトが大きいかもしれません。
医療従事者においては、医療技術の他に患者への精神的なサポートをしています。看護師や介護士になると、感情、頭脳、肉体のすべてを使うタフな仕事です。
これらは、感情労働化した事例です。
「感情労働」とは、作られた笑顔
ハンバーガーや牛丼、回転寿司などのチェーン店に入ると、
「いらっしゃいませ!」
「ありがとうございます。」
などの元気な声と笑顔で店員(スタッフ)が、お客様を迎えてくれます。こんな対応をされたお客様(お子様)は、悪い気がしません。来店したときの気持ちよさは勿論のこと、お客様がリピーターになっていただくのに大いに貢献しています。
こんな笑顔で元気な声での対応ですが、スタッフによっては、そんな笑顔や声出しが得意でない人もいます。しかし、マニュアルや教育、訓練により、誰しもが「声出し」や「笑顔」ができるようになります。これが、「感情労働」と呼ばれる理由です。言い換えれば、「いらっしゃい!」と声をだしたり、「笑顔」をつくったりすることが、マニュアル化して、注文取りなどの本来の仕事に加えて労働の一部になっています。逆に「いらっしゃい!」と言わなかったり、「笑顔」を作らなかったりすれば、仕事をしたと認められないことを意味しています。
感情労働する人にとってのメリット、デメリット
サービス業に代表される感情労働や感情労働化は、その仕事をする人にとってメリットとデメリットがあります。
メリットには、
1)仕事をする本人が元気で楽しい気分となる
2)お客様を笑顔にできる
3)お客様の率直な声が聞ける
などがあります。デメリットとして、
1)ストレスを受けやすく解消しづらい
2)仕事に満足しづらくなる
といったことが挙げられます。感情労働化は、その仕事をする人にとっての大きなメリットがある反面、デメリットは心の問題であるだけに見えにくいのが特徴です。職場で、感情労働をする人に注意し、必要なら周囲からケアをしていくことが重要です。
以下、この記事では、感情労働化のメリット、デメリットを紹介します。
感情労働化するメリット
仕事をする本人が元気で楽しい気分となる
初めは、マニュアル通りの笑顔をつくり、元気そうな声を出しているうちに、本人が本当に元気で楽しい気分になります。全国に「笑いの会」があって、「笑い」が健康法として知られています。実際に笑いの健康法が研究され、その効果が証明されています。(参考記事:サワイ健康促進課「”笑い”がもたらす 健康効果」)感情労働として、笑顔を作り、
「自分は元気だ」
と言っていれば、本当に元気になります。この時、
「『元気』なんてウソだ!」
「こんなことをやって意味があるのか?」
などと本人や周囲が疑いの気持ちを持ったり、それを口に出したりしてはいけません。何も疑わず笑顔で声を出せば、本当にそんな気持ちになっていきます。
お客様を笑顔にできる
感情労働をしている人が、一番やりがいを感じるのは、お客様が笑顔になったときです。ましてや、お客様から感謝の言葉が返ってきたら、最高にいい気分になります。笑顔でお客様に接することで、お客様が笑顔になり、それを見た接客担当が更に気分を良くし笑顔になる好循環を作ります。お客様が笑顔になり、それでやりがいを感じると、離職する人が減ります。
ある製造現場で、仕事をやめたがっていた若手社員がいました。そのとき上司が、この若手社員に商品を持ってお客様に行かせました。普段、大手企業の機械部品を黙々と旋盤で作るだけの社員が、初めてお客様に製品を手渡しました。そこで、
「いつもいい仕事をしてくれて助かる。」
と声をかけられ、ついでにその部品を組み込んだ機械をみせてもらい、この若手社員は感激。退職騒動は、おさまりました。お客様の顔が見えない職場の人に感情労働をしてもらった成果と考えています。
お客様の率直な声が聞ける
お客様が、担当する人から、明るく笑顔で話しかけられれば、悪い気はしません。気楽に担当者とお客様との会話ができれば、その中でお客様の率直な感想や意見を言ってくれる可能性が高まります。
一般にインタビューの表情と答えの関係は密接に関連していると言われています。
例えば、インタビューする人が笑顔を見せた場合、インタビューされた人は、よりリラックスした状態で話をすることができると言われています。真剣な表情で質問すれば、より真剣に答えてくれます。お客様に対して
「この商品をどう思いますか?」
などと、真剣に問いかければ、真剣に感想や意見を言ってくれます。それらの意見を聴くことで、よりお客様との距離を詰めることができます。お客様の感想や意見は、開発やマーケティングにも活用できます。
感情労働化のデメリット
ストレスを受けやすく解消しづらい
マニュアル通りに笑顔をつくりお客様に声をかける感情労働は、時には自分の気持ちと異なる表情をつくり、言葉をかけなくてはならないことがあります。
「嬉しくなくても、笑顔でいれば、嬉しくなる」
ということもありますが、限界があります。自分の感情を押し殺しての業務は、ストレスとなります。
笑顔でお客様に接して、お客様も笑顔になってくれることでやりがいを感じますが、反対にお客様から「叱られる」「怒鳴られる」ことがあれば、一気に落ち込みます。
体にダメージを受ける肉体労働は、体を休めることで回復します。頭を使う頭脳労働は、脳を休めるといいでしょう。しかし、感情は一度ダメージを受けるとなかなか回復しないという問題があります。
ストレスが継続した結果、バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)を起こすことがあります。身体的、精神的に疲れ果て、何をするにも意欲が激減してしまう症状を持ちます。
仕事に満足しづらくなる
感情労働でストレスを感じている中で、
「自分は、お客様をだましている」
と自分を非難したり、
「自分の笑顔は、演技をしているだけ」
と開き直ったりすることで、心のバランスをとろうとする人がでてきます。その結果、仕事を楽しめなくなり、仕事での満足感が得られにくくなります。この状態が続くと、仕事への意欲をなくし、自己嫌悪や無気力につながる可能性があります。結果として、仕事がうまくいかなり、離職につながることにもなります。
まとめ
サービス業に代表される感情労働や感情労働化は、その仕事をする人にとってメリットとデメリットがあります。
メリット:
1)仕事をする本人が元気で楽しい気分となる
2)お客様を笑顔にできる
3)お客様の率直な声が聞ける
デメリット:
1)ストレスを受けやすく解消しづらい
2)仕事に満足しづらくなる
感情労働化は、仕事をする人にとっての大きなメリットがある反面、デメリットは心の問題であるだけに見えにくいのが特徴です。職場で、感情労働をする人に注意し、必要なら周囲からのケアをしていくことが重要です。