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イノベーションに必要な精神「アントプレナーシップ」とは

 
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

イノベーションに必要な精神「アントプレナーシップ」とは

 

アントプレナーシップとイノベーション

「日本で起業する人が少ないのは、アントプレナーシップがないから」
「イノベーションには、アントプレナーシップが必要」
こんな風に「アントプレナーシップ」という言葉が、低迷する日本経済の再生のキーワードとして経済界や学会で使われています。文科省からも「アントレプレナーシップ教育の現状について」(2021)という報告書が出され、日本で起業家を増やすには、アントプレナーシップの教育が必要であると述べています。
アントレプレナーシップ(entrepreneurship)という言葉は、日本語で「起業家精神」と訳されることが多いせいか、起業する人に特有の資質であると思われがちです。しかし、実際は新しい事業を創造しリスクに挑戦する姿勢であり、あらゆる職業で求められるもの。とりわけ「革新」が必要な、イノベーションを起こす能力です。「起業家精神」というよりは「起業家的行動能力」と訳す方が、より基本概念に近いかも知れません。
本来アントレプレナーはフランス語の「entrepreneur」。東西貿易が盛んだった13世紀に動詞の「entreprendre」(始める、企てる)から派生した言葉で、当時は「仲買人」「貿易商」を意味する言葉と言われています。ハーバード・ビジネススクールのハワード・スティーブンソン教授によると、アントレプレナーシップとは、
「コントロール可能な資源を超越して機会を追求すること」
と定義しています。創造性を駆使して果敢にチャレンジしていく精神や能力を持つのがアントレプレナーであるとの説明です。
起業のみならず、イノベーションを起こす上でも重要なアントプレナーシップです。アントプレナーシップを持つ人材を活かすには、2つのポイントがあります。
1)アントプレナーシップを持つ人材を育てる
2)アントプレナーシップを活かせる組織にする
アントプレナーシップは、個人の資質だけではないこと。イノベーションなどの成果を上げるには、アントプレナーシップを持つ人を活かせる組織にすることが大切です。
この記事では、アントプレナーシップとイノベーションについて考えてみます。

アントプレナーシップを持つ人材を育てる

早稲田大学の清水洋著「イノベーションの考え方」によれば、アントプレナーシップが高い人には、以下のような心理的特徴があると述べています。
1)自律性への要求の強さ
2)達成への要求に強さ
3)支配への要求の強さ
これらは、その人の素質というべきもので、これまでの人生の中で形成されてきたものです。そう簡単に出来上がるものではなさそうに感じます。しかし、具体的な能力としてもアントレプレナーシップは、素質として持っている特徴にスキルがつくことで構成されます。
アントレプレナーシップを持つ人材に求められる素質・スキルのうち、以下の4つが重要と考えます。
1)創造力
自らのビジョンや価値観をもとに、既存の市場にはなかったモノやサービスを創造できる能力です。新しいアイデアを発想するには、ニーズからの発想やシーズからの発想などがあります。暗黙の前提条件を越えた発想、様々な事例を使うアナロジー思考ができるなどの能力が求められます。

2)マネジメントスキルとリーダーシップ
経営資源であるヒト・モノ・カネのマネジメント能力も必要です。とりわけ、ヒト(人材と組織)をマネジメントする能力が求められます。また、変革を推し進めるためにリーダーシップも必要です。リーダーシップとは、会社全体にビジョンを伝達してメンバーを統合し、メンバーの動機づけができる力です。マネジメント力、リーダーシップの基本は、コミュニケーション力です。

3)障壁を乗り越える力
変革時に生じる困難を乗り越えられる能力が必要です。そのためには、自社を客観的かつ論理的に観察して本質を見抜き、主体的に推進する力が必要です。粘り強さと、柔軟性が必要です。

4)楽観性
新たなビジネス課題に挑戦するときに大切なのは、逆境でも悲観的にならず、前向きに努力する精神力が大切です。アントプレナーシップの大事な要素として「楽観性」をあえて付け加えます。どんな事柄も楽観的にも悲観的にも見えます。チャンスがあれば、チャレンジするというのは、「楽観性」を持っていなければできません。

これらの能力を測定することは、難しいものがあります。イノベーションを起こした人、起業した人の共通点として、見られる精神やスキルです。これらの能力があったからイノベーションや起業ができたのか、もっている様々な能力の内、これらを発揮したからかも知れません。
前述の文科省:「アントレプレナーシップ教育の現状について」(2021)では、
「我が国の大学(学部・修士)におけるアントレプレナーシップ教育受講者は 3万人/300万人であり、1%の学生にしか提供されていない。」
と述べています。文科省の報告なので、学校でアントプレナーシップが教育できることを強調しています。どこまで、教育でアントプレナーシップが育成できるか分かりませんが、「すべて素質次第」という訳ではないことは、万人が認めるところです。

イノベーションの考え方 (日経文庫)

アントプレナーシップを活かせる組織にする

アントプレナーシップの高い人を集めたり、育成したりすれば、組織としてアントプレナーシップが高まるとは限りません。その組織が、イノベーションを起こしたり、新規事業や起業ができたりというものではありません。
例えば、アントプレナーシップに重要な「楽観性」をすべてのメンバーが持ち、なんでも「イケイケ」では、失敗のリスクが高過ぎます。リーダーシップを発揮する人がいれば、フォロワーショップを発揮する人がいなければ、組織は動きません。

企業できない理由

Reason for lack of entrepreneurs in Japan

図は、前述の文科省:「アントレプレナーシップ教育の現状について」(2021)からのものです。アントプレナーシップを持っていると思われるベンチャー企業の企業家に対して、「日本で起業が少ないと考える原因」を訊ねたものです。「失敗に対する危惧」(37.6%)「身近に起業家がいない」(19.5%)「学校教育」(15.0%)が上位を占めています。
これらは、
「失敗を許さない雰囲気」「起業の雰囲気がない」「勇気ある行動を評価しない」と解釈できるのではないかと考えます。
実際に企業内でイノベーションを起こり、新規事業を立ち上げようとしたとき直面する問題は、組織内部の保守的雰囲気です。
「チャレンジしない」
というメンバーの問題ではなく、
「チャレンジさせない」
という組織の風土です。アントプレナーシップを持っている人々が、イノベーションや新規事業に挑戦することを妨げない、支援する組織にすることが重要です。
これは、いわば「企業風土改革」です。企業風土の改革は、企業トップの姿勢、企業風土改革を志すメンバーの役割が重要です。具体的には、企業とトップや風土改革を志すメンバーの組織内コミュニケーションが重要と言われています。(柴田 昌治著「なぜ会社は変われないのか?」等より)


なぜ会社は変われないのか: 危機突破の風土改革ドラマ

 

なぜ、それでも会社は変われないのか 危機を突破する最強の「経営チーム」 (日本経済新聞出版)

まとめ

アントプレナーシップは、起業のみならず、イノベーションを起こす上でも重要です。アントプレナーシップを持つ人材を活かすには、2つのポイントがあります。
1)アントプレナーシップを持つ人材を育てる
2)アントプレナーシップを活かせる組織にする
アントプレナーシップは、個人の資質だけではないこと。イノベーションなどの成果を上げるには、アントプレナーシップを持つ人を活かせる組織にすることが大切です。

参考記事:日本企業が、DXを推進するために乗り越えるべき3つの壁

イノベーションを起こすのに必要なアナロジー思考など3つの思考法

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