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「オープンイノベーション」のメリット、デメリットと成功させる3つのポイント

 
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

「オープンイノベーション」のメリット、デメリットと成功させる3つのポイント

 

「オープンイノベーション」のメリット、デメリットと成功させる3つのポイント

「何から何まで、自社でしなくてはならないのか?」
「外部に頼ったビジネスは、いずれ行き詰る?」
「共同研究なんてうまく行かない」
ビジネスをする上で、外部の力を利用しようとすると、こんな声がでるものです。しかし、今や製造の外注、工事の外注のみならず、一般事務や人事といったことまで外部の力を利用せずしてビジネスは成りたたなくなっています。イノベーションにおいても、外部の人や組織と協力して行うことができます。これは、「オープンイノベーション」と呼ばれています。
「オープンイノベーション」とは、
「企業内部と外部のアイデアを有機的に統合させ、価値を創造すること」
と定義されています。(Chesbrough他著 長尾孝弘訳「オープンイノベーション」英治出版より)
自社にないアイデア、技術、経営資源を外部の力によって補うことで、イノベーションの質を上げると共に時間とコストを低減できます。失敗時の損失リスクを下げることも期待できます。しかし、一方で
「ノウハウが流出しないか?」
「無責任体制にならないか?」
「儲けは、得られるのか?」
など、技術やノウハウの流失、開発の遅延、参加者間のトラブルリスクなどの心配があります。
これらの課題は、「外部委託を使ったビジネス」、「サプライチーンの構築」などで現れる心配とものと同じものです。技術やノウハウをオープンにして、他社の力を借りるメリットとデメリットを考慮して、外部委託する必要があります。結局、何を外部に任せ、何を自社でやるのかという問題となり、「コアコンピタンス」を持つことの重要になります。コアコンピタンスとは企業活動における「コア」、すなわち中枢・中核となることです。これが明確であり的確であることが、事業成功の秘訣です。オープンイノベーションを成功させる上でも、全く同じことが言えます。ただし、オープンイノベーションでは、「コア」はイノベーションの核であり、必ずしも自社の強みではありません。技術や経営資源を豊富に持つ大企業で、イノベーションうまく行かない原因の一つが、自社の強みにこだわり過ぎることであると心得るべきです。
オープンイノベーションを成功させるには、3つのポイントがあります。
1)目標の明確化
2)参加者(企業)の役割、利益分配を明確にする
3)参加者が対等であること
これは、合弁などの共同事業、共同開発などで、成功や失敗した経験を通して得たことです。特に海外の企業や大学とオープンイノベーションを起こそうとすると、考え方や文化の違いで、思わぬ問題を抱えてしまいます。
この記事では、オープンイノベーションのメリット、デメリット。成功するためのポイントを実体験と合わせご紹介します。


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オープンイノベーションのメリットとデメリット

オープンイノベーションには、メリットとデメリットがあります。

オープンイノベーションのメリット

1)知識・ノウハウ、資本、人材など互いの資源を有効活用できる
オープンイノベーションの最大のメリットは、参加する人(企業)の持つ、知識・ノウハウ、資本(金、設備)、人材等を有効利用できることです。
アイデアからモノやサービスの開発、事業化まで、参加者の持つ資源を有効活用することで、事業化までの時間短縮も可能となります。

2)開発、事業化のリスクを下げることができる
オープンイノベーションを導入することで、単独に行う場合と比較して、損失のリスクを分担することが可能となります。
或いは、リスクを引き受ける金融機関や行政を引き込んだ場合は更に安心です。
ただし、互いに心配に対して無責任状態が生まれないようにすることが求められます。

3)自社の技術、経営レベルの向上ができる
オープンイノベーションを採用し、外部のスキル・ノウハウを知ることで自社の強みと弱みを把握することになります。また、違う業界や海外の「やり方」に知る機会を得ることができ、そのプロジェクトでなくても、技術開発や経営に役に立つことになります。
私は、欧州の企業と鉄鋼材料の共同開発をした経験があります。その中で、互いの技術を利用する他に、欧州(ドイツ、オーストリア)における大学と企業との関係を学ぶことができ、その後の仕事に変化をもたらしました。

 

オープンイノベーションのデメリット

1)自社の技術が流出する可能性がある
自社の技術・ノウハウが外部に流出するリスクもあらかじめ把握しておく必要があります。自社の技術を守りたければ、特許の取得や、秘密保持契約が必要です。
オープンイノベーションをするとは、参加者間で技術やノウハウを共有することが前提です。これが出来ないようであれば、オープンイノベーションはあきらめた方がいいかもしれません。

2)無責任状態になる可能性がある
オープンイノベーションのメリットは、失敗したときのリスクを分散することですが、逆に考えると無責任状態が生まれ易いということです。
大学の先生の研究成果を事業化しようと、大学に企業が集まったプロジェクト。経産省が主導で、企業を集め新技術の開発プロジェクト。参加する企業が、どこまで事業化や新技術開発に本気かは、疑わしいものです。結局、配分された予算を消化することが、プロジェクトの目標のようになってしまった事例を数多く経験しました。

3)参加者間でトラブルが起きる可能性がある
オープンイノベーションは、協業する他社との間でトラブルが発生する可能性があります。成功した場合の利益分配、特許権の帰属、失敗した場合の損失負担などなどです。
オープンイノベーションとして、共同開発をしている中で、他社の企業風土があまりに違うことに驚かされることがあります。
海外の有名企業と共同開発をする中で、相手の社風が、極端な「短期的視点」「個人の成果第一主義」「技術軽視」で、付き合いきれず、その後の関係を打ち切ったことがあります。営業的には、魅力的な相手でしたが、社長の「価値観が共有できない相手と関係を持ちたくない」との判断で、取引をやめました。


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目標の明確化が成功のカギ

科学技術の研究において、国際的な共同研究には、オープンイノベーションと呼ぶに相応しい事例が沢山あります。最近では、「重力波の検知」「ブラックホールの撮影」などが話題になりました。測定装置に高度な技術と巨大な予算が必要であることや観測点が世界各地に必要ということなどから、嫌がうえでも国際的な研究となります。国際的な物理や天体観測が成功するのは、明確な研究目標があるからです。純粋に「重力波を検知する」「ブラックホールを見る」という目的があるからです。莫大な予算を必要とする観測装置を誰が受注するか、ノーベル賞にもつながる研究成果は誰のものかといった問題は含んでいますが、少なくとも各国から集まったリーダーたちは純粋に同じ科学的興味を持ち、これが目標になっています。
オープンイノベーションで、「画期的な新商品を開発し事業を起こしたい」とプロジェクトを組んでも、参加する人の目的が異なっていると前にうまく進みません。人により目標が、「新技術を使うこと」、「新商品を出すこと」、「儲けること」と異なっているとプロジェクトが行き詰ったとき、選択肢が全く違うことが起きます。新商品を出すことが目標であれば、予定した新技術の採用をあきらめることができます。儲けることが目標なら、コストのかかる技術や商品では意味がありません。
イノベーションの目標は、既存知の組み合わせで新しいことを起こすことです。自社の強みにこだわることでも、新技術を開発することでもないことを参加者が共有することです。
目標と同時に、達成期限が明確であることが重要です。期限のハッキリしないプロジェクトがうまく行かないのは、オープンイノベーションに限らず、すべての仕事に共通することです。

 

参加者(企業)の役割、利益分配を明確にする

オープンイノベーションで商品を開発し、事業化して利益を得ようとしたとき、参加している人(企業)の役割や利益分配を明確にしておくことが重要です。成功したときの利益の分配は、失敗したときの損失の分配でもあります。
米国で鉄鋼の新商品を生産するプロジェクトをしたことがあります。参加企業が少ないので、純粋にオープンイノベーションと言えるかどうかですが、その時の事例をご紹介します。このプロジェクトに参加したのは、日米の鉄鋼会社と日本の商社です。材料技術や製造ノウハウは、日本の鉄鋼会社。設備技術は、米国の鉄鋼会社。米国内企業のマーケティングは、米国の鉄鋼会社。日系企業は、商社がマーケティングと役割が明確でした。それぞれのメンバーが、対等に技術や販売戦略対して自由に意見を出しますが、最終判断は、役割分担をした会社が行い、責任を担っていました。幸いそんなケースはなかったのですが、材料開発に失敗すれば、日本の鉄鋼会社が出来るまでカネと人材を投入する。売れ残りが発生したら、米国の鉄鋼会社が引き取るといったことが、決められていました。
これは、各参加者(企業)の自他ともに認める「最も強いこと」によって役割分担を決めた例でもあります。

 

参加者が対等であること

オープンイノベーションに参加する人(企業)には、それぞれ立場があります。事業の場合だと出資額の差があります。商売上、売り手と買い手の立場ということもあります。官が主導すれば、官民の違いや大学と企業という場合もあります。
ビジネスモデルをつくる、技術開発をするという場合、アイデアやイノベーションの評価は、自由であり客観的であるはずですが、それぞれの立場が出てしまうことがしばしばです。
日本では、官民のプロジェクトでは官が優位に、産学では企業が大学に遠慮するといったことがよく起こります。その結果、終わりのない活動、儲けが出ないイノベーションとなってしまいます。
かつて、韓国の世界最大の半導体メーカーS社と共同開発をした経験があります。私のいたK社が液晶パネルや有機ELパネルに使う新材料を提供し、S社がプロセス開発をして製品化するというものでした。共同開発の契約をして、それぞれ分担やできた製品の特許、第3者に売る場合の条件や利益配分などを事前の契約で決めました。しかし、いざ開発が始まると、買い手であるS社と売り手であるK社の関係でプロジェクトが進みました。製品の性能が出ないと、S社は、
「材料が悪い。K社は早急に改善せよ」
と迫ります。
「いや、製造プロセスが悪いので、製品としてうまく機能しないのでは? 製造工程を見せてもらうか、製造条件を開示して欲しい」
こうK社から要求すると、
「自社の高度な技術を開示することは、S社の方針としてできない」
こう突っぱねます。そのうちにS社の担当者は、
「材料を使って(買って)欲しければ、製造条件をそちらから提案しろ」
こんなやり取りが続き、結局のところ共同開発とは名ばかりです。
「プロセスを開示できないのは、S社が他社の特許を侵害しているのが『バレる』のを嫌がっているからだろう」
なんて話がK社から飛び出し、相互不信に陥りプロジェクトは崩壊しました。
オープンイノベーションでは、参加者(企業)は、対等な立場でアイデアや意見を出さなければ、意味をなさない例です。
ある時は、大学が主導して製品開発のプロジェクトに参加したことがあります。大学のA先生の自説への執念というか「こだわり」に閉口したことがあります。違うアイデアも試してみたいのですが、なかなか企業側の担当者Bさんは、それを提案できません。
「実はA教授は、私の大学時代の恩師です」
そんな理由で、自由な意見が出なくなっていました。

まとめ

「オープンイノベーション」とは、
「企業内部と外部のアイデアを有機的に統合させ、価値を創造すること」
自社にないアイデア、技術、経営資源を外部の力によって補うことで、イノベーションの質を上げると共に時間とコストを低減することができます。失敗時の損失リスクを下げることも期待できます。しかし、一方で技術やノウハウの流失、開発の遅延、参加者間のトラブルリスクなどがあります。
オープンイノベーションを行う上で、以下のような3つのポイントがあります。
1)目標の明確化
2)参加者(企業)の役割、利益分配を明確にする
3)参加者が対等であること
これらを考慮することで、オープンイノベーションの成功の可能性が高まります。

参考記事:イノベーションの定義と中小企業における「イノベーション経営」

カイゼン活動から「イノベーション」を起こす3つのステップ

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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。
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