採用面接で思考力を見る「フェルミ推定」や「ケーススタディ」の効用
採用面接で思考力を見る「フェルミ推定」や「ケーススタディ」の効用
採用面接で思考力を見る「フェルミ推定」「ケーススタディ」「なぜ?なぜ?」
「このフロアーは5階ですが、1階から階段で何段あると思いますか?」
「サッカー部出身ですか。もし、あなたがサッカー部の監督ならば、強豪校になるために何をしますか?」
この質問は、実際に採用の面接官の時、学生にしたものです。
1番目の質問は、極簡単ですが「フェルミ推定」に分類されるようなものです。2番目は、ミニ「ケーススタディ」です。これは、就活用語では「ケース面接」と呼ばれています。どちらも、志望学生は、ちょっと戸惑いながら答えてくれました。
いずれも明確な答えがなく、答えに至る道筋を知りたい質問。つまり、面接者の思考力を判断するための質問です。この手の質問は、コンサルティング会社や外資系の会社が積極的に行っています。この事例は、理系の学生に対して行ったものですが、思考の特徴が分かり、内定の合否のみならず、入社後の配属においても参考になりました。
思考力とは、「考える力」です。それも「自分で考える力」です。学校の成績は、主に知識を評価したもの。学校の成績だけでは評価にならないのは、実社会では知識だけでなく、思考力やコミュニケーション能力が必要だからです。
志望学生の思考力を見る3つの質問パターンを紹介します。
1)フェルミ推定
2)ケーススタディ
3)「なぜ? なぜ?」質問
コンサルティング会社などは、難解なフェルミ推定やケーススタディを出題していて、「フェルミ推定対策」「ケース面接対策」といったネット記事が結構見つかります。ただ、この手の難解な質問は、即戦力を求める中途採用には、有効なのかも知れませんが、新卒の採用には、個人的にはやり過ぎの気がします。この種の質問は、採用側の面接官に、学生の回答からその人物の「思考力」や「冷静さ」などを評価する能力が求められます。
この記事では、長年採用面接をした経験から、「思考力を見る面接をしたい」という採用側の方、「フェルミ推定とは何だろう。どう対応するのか」と思っている就活生に向けたものです。
「フェルミ推定」系の質問
フェルミ推定( Fermi estimate)とは、実際に調査することが難しいような捉えどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算することです。「フェルミ推定」と言われるのは、物理学者エンリコ・フェルミが、シカゴ大学の学生に、
「アメリカのシカゴには何人(なんにん)のピアノの調律師がいるか?」
といった質問をよくしていたことからきています。フェルミは、これらの質問から「根拠のあるあてずっぽう」をする能力を学生に求めていました。
先ほどの例に挙げた
「5階まで階段は何段ある?」
は、極簡単なフェルミ推定です。これに対して、3通りの解答がありました。
黙りこんだあとAさんは、
「さあ、わかりません」
Bさんは、
「勘で、50段位ですか」
Cさんは、
「階段1段が25センチとして、1階は3メートル位ですから、1階分で12段。5回ですから60段位でしょう」
幸い3人とも内定を獲得しましたが、Aさんは「慎重型」、Bさんは「気合型」、Cさんは、「論理型」の性格と判断して配属を決めました。
フェルミ推定系の質問で見たいのは、以下のような点です。
1)「知らない」とあきらめず、知っている情報だけで仮説をつくる能力
2)完璧でなくても、とにかく全体像を作り上げる力
3)「根拠のある当てずっぽう」をする思考力
会社によっては、かなり複雑なフェルミ推定を求める質問をするようですが、そんな質問を受けた時は、前提条件を明確にした上で、あきらめず知っている情報で、仮説を組み立てていくことです。あくまで、正解を求めるのではなく、「根拠のある当てずっぽう」ができるかどうかの能力を見極めることが主眼です。
「ケーススタディ」を求める質問
仮想の課題を出し、その対策を求めるのが、ケーススタディです。与えられた状況に対してどんな意思決定や行動をとるかといったことを問いかけます。これを、採用面接に取り入れたのが、いわゆる「ケース面接」で、コンサルティング会社や外資系企業で選考に多い面接です。
冒頭に挙げた
「もし、あなたがサッカー部の監督ならば、強豪校になるために何をしますか?」
という問いかけは、志願者D君がサッカー部出身ということで、出した質問でした。なかなか面白い答えがでるので、多くの学生に、
「野球部を強くするには?」「卓球部を強くするには?」「吹奏楽部を盛んにするには?」
と形を変えて質問してみました。
多くの答えが、「練習法は、こうする」「設備は、こう整える」といった内容でした。サッカー部出身のD君は、
「強くなるには、いい選手を見つける。そのためには・・・」
から始まりました。彼は、全国レベルを目指すなら、それなりの素質をもった人材を集めることが重要であり、その後に練習と対外試合といったことを挙げ、更に資金と人的サポートが必要。そのためには、ネットを使い、3年あれば全国レベルのサッカー部になると回答してくれました。
彼の回答には、ケーススタディで必要な思考の要素がキチンと抑えられていました。
1)目標を明確化する。質問は「強豪」でしたが、彼は「全国レベル」と明確化。
2)目標に対して、何をすべきかを挙げる。彼は、選手のスカウト、練習、対外試合、資金、サポート体制まで、網羅的に要素を挙げていました。
3)課題解決のプロセスを示す。多くの回答が、「練習」「試合」「チームワーク」といった個別の要素説明で、時間的にどんなプロセスになるかがありませんでした。D君は、3年と時間を設定し、そのプロセスを語りました。
4)解答の合理性を確認する。D君は
「多くの強豪サッカー部を見て、そう考えた」
と答えていました。
内定を得たD君は、入社後は開発部門で活躍しています。
最近は、ケーススタディをグループ討議で行う会社があります。グループで、課題解決をしていくのですが、この場合思考力とリーダーシップやコミュニケーション能力も評価できます。ただし、個々の思考力が見えにくくなります。
「なぜ?なぜ?」質問
「学生時代に力をいれたこと」いわゆる「ガクチカ」や挫折経験、志望動機など一般的に使われている質問に対して、
「そう決めた理由はなんですか?」
「どうして、そうなったのですか?」
といった「なぜ?」(理由)を問うと学生の思考の深さが分かります。そして学生の回答に対して更に
「その理由は?」「他にどんなことを考えたのですか?」
と質問を続けます。大事な点は、YESかNOで終わってしまうクローズド型の質問にしないことです。オープン型の質問で、どんどん「なぜ?」を繰り返します。回答の一貫性や論理性から思考力が判断できます。
ある時、テニス部で挫折した話をした学生がいました。
「その当時は、才能の限界を感じた」「アルバイトで時間がなかった」
などと回答しました。更に、挫折した理由やその時の気持ちについて「なぜ?」を繰り返すと
「今になって思うと、結局自分に自信がなかった。期待に応えられない不安があったのです」
と俯瞰的に自分を見つめた発言がありました。テニスで挫折したことなどどうでもよく、彼が俯瞰的に自分を見ることができる思考力があることが分かり、質問を続けたかいがありました。
まとめ
採用面接では、思考力をためす質問があります。学校の成績は、主に知識を評価したものですが、実社会では、思考力やコミュニケーション能力がより重要になるからです。
志望学生の思考力を見るには、3つの質問パターンがあります。
1)フェルミ推定
2)ケーススタディ
3)「なぜ? なぜ?」質問
これらの質問は、正解が出せるかどうかではなく、思考プロセスが明快で論理的かどうかが評価されます。
参考記事:「失敗」と「挫折」の違いがわかれば、就活での「挫折経験」がうまく伝わる