「厄介な社外取締役」「お飾りの社外取締役」を防ぐ、社外取締役に期待される3つの役目
「厄介な社外取締役」「お飾りの社外取締役」を防ぐ、社外取締役に期待される3つの役目
社外取締役に期待される3つの役目
「持論を一方的にまくし立てる社外取締役」
「取締役会で全く発言しない社外取締役」
これは、典型的な「厄介な社外取締役」「お飾りの社外取締役」の姿です。東京証券取引所に上場する企業は社外取締役を2人以上選任することが事実上義務付けられ、いまや上場企業の95%以上が導入ています。しかし、社外取締役が十分な機能を果たさず、上記のような「困った社外取締役」が生まれてしまうことがあります。
社外取締役には、期待される3つの役目があります。
1)ガバナンス上の問題点に気付く
2)その会社のタコツボ的発想を気付かせる
3)外部組織、人脈の活用
この役目を、社外取締役本人のみならず、受け入れている企業側も理解することが肝要です。関係者全員が、社外取締役の役目を理解していれば、「厄介な社外取締役」「お飾りの社外取締役」など、「困った社外取締役」が生まれることを防げます。
この記事は、実際に自社の社外取締役の人と仕事をしたり、他社の社外取締役をしている人と話をしたりして得た情報をもとに書いています。
ガバナンス上の問題点に気付く
社外取締役選任を義務付けている理由は、コーポレート・ガバナンス強化のためです。
一般にコーポレート・ガバナンスの目的は、主に2つあるといわれています。
① 企業の不祥事の防止
・適切な情報開示をし、透明性を確保すること
・株主などの利害関係者への説明責任を果たすこと
② 長期的な企業価値の向上
・企業競争力の促進
・社会的な価値の向上
このなかで、社外取締役の大きな役目が、「企業の組織ぐるみの不祥事を防ぐために、社外の管理者として経営を監視する」ことです。社外取締役の役目は、社外監査役とともに不祥事の防止が第一目の役目ですが、現実には自分で企業内部の状況を把握することは困難です。取締役会の議題に対して意見など出しようがありません。「発言しない社外取締役」(=「お飾りの社外取締役」)が生まれるのは、無理からぬことです。
ところが、議題が社外取締役の知識・経験に少しでも触れる部分があって、持論を一方的にまくし立てられ、取集できなることがあります。ある時の会議で、CO2削減やSDGsに関し、社外取締役がまるでマスコミのコメンテーターのように正論を長々と述べられ、他の出席者が困ったことがあります。これも典型的な「厄介な社外取締役」です。
そこで、必要なのが社外取締役の質問力です。国会における与党、野党議員の首相や各大臣に対する質問をイメージすると、意味のある質問とそうでない質問がわかります。質問なのか、意見なのかわらない発言が、会議を不毛なものにします。
ある会社では、社外取締役が、前もってテーマを決めた質問をし、企業側が回答していく方法を取っているとのこと。「財務」「品質」「顧客満足度」などのテーマを社外取締役の質問をもとに報告していくとのこと。関係者は、相当な労力が必要でしょうか、社外取締役を形骸化させないうまい方法だと思います。
社外取締役は、コーポレート・ガバナンスに関する適切な質問により、企業の健全性を確認していくということが最重要な役目です。適切な質問と回答は、その企業の良識やレベルを示すものです。取締役会の議事録は、保管が義務付けられています。取締役会出席者の「良識」が、記録として残るとの意識を期待します。
その会社のタコツボ的発想を気付かせる
日本企業の取締役の多くは、その企業内でキャリアを積んできた人々です。どうしても、発想がその業界や企業の「常識」をベースとしがちです。
ある鉄鋼会社の社外取締役が、会議終了後に独り言のようにぼそっと言われたことをよく覚えています。
「鉄鋼会社というのは、面白いですね。事業報告をするのに、全国粗鋼生産量が、前年度何トンだったから始まって、自社の生産量と売上高を説明するのですね。この会社の粗鋼シェアは、全国で3%にも満たないですよね」
この会社では、事業報告や事業計画を説明するとき、かつては世界粗鋼生産量から、今でも全国粗鋼生産量から始まります。業界No.1の製鉄会社なら理解できますが、はるかに小さい会社の事業報告が、全国粗鋼生産量から始まるのは、この社外取締役からみると滑稽に感じたのです。
「普通の業界なら、シェア3%の会社は、『業界規模が半分になっても自社は成長してやる』と考えるでしょう」
この言葉で、自分達がタコツボ的な発想をしていることに気付きました。
私の知り合いに鉄鋼会社の社長をされた後、大手T製薬会社の社外取締役をされていたSさんがいます。この方が
「製薬会社の役員会に出席して驚いたよ。出席者全員、発言しまくるのだよ」
そう感心していました。
「それに比べるとうちの会社の役員会は、死んでるな。皆、自分の部門と関係のあるときしか発言しない」
Sさんは、企業文化の違い強く感じたといいます。T製薬会社の役員会は、発言することが当たり前。自部門に関係なく、議題に対して自分の意見を言うことが当たり前になっていたといいます。
会社幹部は、どっぷりとその会社の企業文化に浸っています。そこで生まれる発想は、良きにつけ悪きにつけタコツボ的です。これを発見できるのが、社外取締役です。同時に社外取締役も自分の出身母体のタコツボ的発想を発見することができます。
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外部組織、人脈の活用
多くの社外取締は、議題を直前かその場で知らされることが多いようです。これでは、意見を述べるどころか、内容を理解することさえ困難です。発言できないのが本音です。また、ほんの少しでも、自分の経験や専門分野との接点があると、ここぞとばかり一方的に持論を展開する「困った社外取締役」もいます。たぶん、発言をしないと存在感をしめせないとでも思っているのでしょう。
ある時、全く発言しない社外取締役に向かって、
「この件では、○○社外取締役には、本庁や大学に詳しいお知り合いの方がおられるはずですが、いかがですか」
こう切り出した役員がいました。多くの出席者が、「お飾り」にしか見えないこの社外取締役に対する、最大限の「嫌味」に感じました。この社外取締役は、「後日お答えします」とその場を繕って会議は終わりました。そして、次の取締役会には、著名な評論家のコメント付きの見事な資料が用意されていました。この社外取締は、質問を受けた後、出身母体の人脈を通して調査し、資料にまとめたのです。
発言しない社外取締を「お飾り」に時してしまうのは、その会社に責任があります。社外取締役には、外部組織や人脈との繋がりがあります。知識・経験は、必ずしも当該会社に直接当てはまらなくても、外部組織や人脈が助けになることがあります。社外取締役を活用するとの発想が重要でしょう。
まとめ
社外取締役には、期待される3つの役目があります。
1)ガバナンス上の問題点に気付く
2)その会社のタコツボ的発想を気付かせる
3)外部組織、人脈の活用
この役目を、社外取締役本人のみならず、受け入れている企業側も理解することが肝要です。関係者全員が、社外取締役の役目を理解していれば、「厄介な社外取締役」「お飾りの社外取締役」など、「困った社外取締役」が生まれることを防げます。