企業文化がつくられる3つの要素と企業文化を変える方法
企業文化がつくられる3つの要素と企業文化を変える方法
ジェフ・ベソスが語る企業文化がつくられる3つの要素
「なぜか、自社の改善・改革が進まない!」
「ライバル会社が、また新機軸を出してきた!」
「日本企業には、イノベーションを起こす力がない?」
これらの原因には、「企業文化」が大きくかかわっています。挑戦的なことに躊躇なく取り組む企業、何をするにも意思決定に時間がかかる企業、常に明るく元気な社員が多い企業、これらは、会社ごとに持っている企業文化の差です。
「企業文化」とは、意識的にせよ、無意識的にせよ、企業や従業員が共有している独特の価値観のことです。ビジネスなどの行動の原理・原則となる価値観や規範、慣例のことです。 転職を経験した方はよくわかると思いますが、企業文化は業種によって差があります。同じ業種でも企業間に差があります。更に同じ企業でも部署が違うと全く雰囲気が違う場合もあります。企業文化というより「組織文化」とでもいうのでしょうが、本質は同じです。
企業文化は、企業活動の中で徐々に形成されると思われがちですが、各企業の歴史や著名な経営者の伝記を読むと創業直後に作られた企業文化が、今に伝わっていることが分かります。グーグル、アマゾン、アップル、パナソニック、トヨタなど創業初期の企業文化を今も保持しているように思えます。
アマゾンの創業者ジェフ・ベソスは、「企業文化」について、創業時の影響が大きいことを指摘し、次のように言っています。
1)30%が起業家の心に描いた姿、
2)30%が初期の社員の質、
3)40%は偶然の作用による混合文化である
彼は、何度もこの趣旨のことを公言しています。(例えば、「ジェフ・ベゾスはこうして世界の消費を一変させた: ネットビジネス覇者の言葉」)
私もこの意見に賛成です。一度出来た企業文化を変えることは容易ではなく、これを変える努力を描いた出版物やコンサルタントが、沢山存在していることが、「なかなか変えられない企業文化」の証明になっています。
企業文化をより良い方向に再構築しようとするならば、ジェフ・ベソスの上げる3つの要素に沿った考え方をすることが賢明です。私は、実際に企業文化を変えようとして、出来たこと、出来なかった経験を通し、ジェフ・ベソスの言葉の正しさを実感しました。この記事では、ジェフ・ベソスの言葉を元に、企業文化の作られ方と企業文化を変える方法をご紹介します。
ジェフ・ベゾスはこうして世界の消費を一変させた ネットビジネス覇者の言葉 (PHPビジネス新書)
なぜ会社は変われないのか 危機突破の風土改革ドラマ (日経ビジネス人文庫)
企業文化の30%は、初代トップのビジョン
閉塞感の漂う老舗大企業が、新規事業を立ち上げようしてうまくいかない理由の一つが、企業文化の影響です。勢いのある会社が次々と新規事業を立ち上げて成功する。失敗してもすぐに次の挑戦を始めるのとは対照的です。老舗大企業の新規事業がうまくいかない原因は、老舗大企業の多くが、保守的で失敗を嫌う企業文化を持っているためです。
大企業が新規事業を始めるとき、よく別会社を設立したり、別事業部に分けたりします。そこには、「既存の企業文化」から離れ、新しい企業文化の元で新規事業に挑戦しようとする意図があります。ところが、別会社や新事業部のトップを元の会社から連れて来ると、その人が元々会社の企業文化(組織文化)を引き継いでしまうことがよくあります。
新規事業を始めるにあたっては、トップの選定は極めて重要です。トップのビジョンが、企業文化(組織文化)を作ってしまうからです。トップになった人は、どんな会社(事業部)にしたいのか、明確なビジョンを持ち発信することが重要です。思い切った若手の抜擢や社外に人材を求めることも、新しい企業文化が作ることに貢献します。
私は、1990年代に米国で日米合弁の新会社を立ち上げた経験があります。社長が米国人で副社長が私でした。企業としてどうありたいか、二人で毎日毎日議論したのを覚えています。社長は、米国式でもなく、日本式でもなく、この会社独自の企業文化を持った会社にしたいの思いで、ビジョンを作りました。この米国人社長は、米国の親会社出身でしたが、社長就任にあたり正式に退職しました。新会社近くに家を買い、家族を連れてきました。それまで勤めていた会社の企業文化を嫌い、創業者としての気持ちで、企業文化を構築していきました。「世界一の生産性」「全米一の品質」「全米一の離職率」「働かない社員を排除する」など新会社のビジョンが打ち出し、次々に実現していきました。
5年ほどで、彼は会社を離れました。その後、この会社は何人かの社長を迎えましたが、企業文化に変化はなく、初期のビジョンが継承されています。その後米国で模範的な経営と品質を実現した企業に与えられるマルコム・ボードリッジ賞を受賞するほどの成功を収めています。(例に上げた会社は、「PRO-TEC社」として現在も発展を続けています)
企業文化の30%は、初期の社員の質
起業家や初代の事業責任者のビジョンを具現化するのは、初期社員の行動です。トップのビジョンに賛同した社員の行動したこと、考えたことが、企業文化として残ります。そして企業文化は、初期社員達からその後に入社した社員に伝わります。
先ほどの例では、当初70人だった社員は、25年後450人になりました。初期社員は、10人ほどしか残っていません。しかし、職場の雰囲気、会議のやり方、そしてなにより社員の勤勉さは、まったく変わっていません。初期の社員が作った企業文化が継続しているのです。
ベソスがいうように初期の社員の質が、企業文化に与える影響が大きく、質の良い社員を集めることが重要です。新会社であれば、徹底的に質のいい社員を集めることです。トップのビジョンを共有できるポテンシャルを持った人材が必要です。
よく新規事業や革新的組織をつくるときは、
「メンバーとして、最も優秀な人材を集めろ」
と言われていますが、現実は各部署ともそんな人材を手放しません。しかし、これをしなければ、「良い企業文化」は出来ません。ただし、一度良い企業文化が生まれれば、その人材を抜いても企業文化は維持されます。やはり、起業するときや新組織を立ち上げるときには、最も優れた人材を集めることが重要です。
企業文化の40%は、偶然の作用による
優れたトップがビジョンを持ち、優れた初期社員がいれば、事業は計画的に力強く動き始めます。ところが、そこに計画外とも言いうべき偶然が作用します。
突然の社会環境の変化、新技術の出現、会社や人材との新たな出会いなどです。これらの影響で、会社や事業は思わぬ方法に動きます。
例えば、企業でコンプライアンス問題が発生し、マスコミに叩かれるような事態に直面すると、それを機会に企業文化が一変することを経験しました。過剰なまでに社員は慎重になり、様々のことを二重三重に確認するような非効率的な企業文化ができてしまいました。
ベソスは、
「偶然の作用で厄介なのは、一度定着したらお仕舞い。根付いた企業文化を変更する術はない」
と言っていますが、その通りです。その後に会社が効率性を取り戻すのに苦しみました。偶然によって、良い企業文化に変化する例もありますが、一気に保守的になったり、変化を嫌うような後ろ向きの企業文化が出来てしまうことの方が多いように感じます。
コロナ禍は、偶然の作用として企業文化に影響を与えています。リモートが普及し、出張や会議がリモートで代行されるなど、大抵の仕事ができることがわかりました。これを機に在宅勤務、就業時間の短縮、休暇のあり方、社員の考え方など、企業文化を変えていく可能性が大いにあります。
重要なのは、偶然の作用が、好ましくない企業文化として定着する前に、手を打つことです。偶然の作用により行う処置が、一過性でありその後どう解除するか明確に決めておくことです。偶然の作用に対する処置で好ましい企業文化が作れるのであれば、その処置を恒久的にすることです。
まとめ
「企業文化」とは、アマゾンの創業者ジェフ・ベソスの言葉を借りれば、
1)30%は、初代トップのビジョン
2)30%は、初期の社員の質
3)40%は、偶然の作用
によって作られます。創業直後に生まれた企業文化を、その後変えることは、容易ではありません。企業文化をより良い方向に再構築しようとするならば、ジェフ・ベソスの言う3つの要素に沿った考え方が必要です。