「差別化戦略」を成功させ「より良いものを高く」売るための2つのポイント
「差別化戦略」を成功させ「より良いものを高く」売るための2つのポイント
「差別化戦略」を成功させるための2つのポイント
「このまま低価格競争を続けていてもじり貧になるだけ」
「高価格を付けたいがブランド力がない」
「取引相手が法人でシビアな価格が要求される」
自社の売値が安すぎると思っていても、「どうにもならない」と嘆く経営者や営業の方が日本中に溢れています。「より良いものをより安く」のスローガンで突っ走ってきた日本企業が、壁にぶつかっています。最近のネットビジネスの発展で値下げが激しく、デジタルに変換できるビジネスは、「無料への死の行進」をしているような気がします。
「より良いものをより安く」から逃れ、「より良いものをより高く」への転換なくしては、生き残れません。今や「より安く」の代表格であったユニクロやマクドナルドでさえ、高価格帯の商品を揃えています。
より高く売る手法の一つ「差別化戦略」が、知られています。これは、米国ハーバート大学の経営学者マイケル・ポーターによって推奨され広まったものです。
「差別化戦略」とは、他の企業とは違った視点によって、モノやサービスで差別化を図り、優位な立場を築いていく競争戦略のことを言います。つまり、その企業にしかない特徴を売りにし、他社との競争に打ち勝っていこうとするものです。具体的には、機能や品質、ブランド、独自性などでモノやサービスを他社と差別化すれば、競争優位に立てるというものです。
ところが、実際に差別化のための商品開発をしたり、新規サービスの開発をしても
1)差別化されたモノやサービスが顧客に理解されない
2)差別化されたモノやサービスが高く売れない
という壁があります。モノやサービスを他社と差別化しても、簡単には高価格商売を実現できないのが現実です。これを突破するには、2つのポイントがあります。
① 差別化したモノやサービスを見せる場所を得る
② 差別化したモノやサービスに対する当事者の説明能力
これらは、私が実際に「差別化戦略」を目指して商品開発やサービスを行って挫折した経験を基に得た教訓です。「差別化したモノやサービス」を開発しても、経営学の教科書通りに高価格で売ることはできません。差別化したモノやサービスを顧客の目に触れさせ、理解させることが、差別化戦略の仕上げに必要です。良いモノや良いサービスを提供するだけでは、高収益は実現できません。差別化を活かすのは、顧客に対するマーケティング力です。
差別化したモノやサービスを見せる場所を得る
どんな商品も人目につかなければ売れません。本や雑誌を売りたければ、書店で平積みしてもらえるかです。そして、平置きした表紙の見てくれです。本や雑誌の内容は、そのあと。これは、リクルートの雑誌部門で販売を劇的に上げた須藤憲司氏が、実際に行って確認したことです。(須藤憲司著:「ハック思考 最短最速で世界が変わる方法論」(幻冬舎)から)日用品ならスーパーマーケットの目に付く棚、ネット広告ならGoogleの検索上位表示です。商品がいいから一等地を占めるのではなく、一等地の地主が認めるから商品を置いてもらえるのです。もちろん、売れなければすぐに撤去されます。
一等地の置いてもらうには、顧客ではなく、まず地主に商品を認めてもらうことです。地主は、顧客ではありませんので、商品そのもの良さは、必ずしも分かりません。高い地代を払うことで、一等地を買うことも必要です。
自分が務めていた会社で、液晶パネル用の配線用合金を開発し販売しようとした時の例を紹介します。開発したのは、これまでにない高性能材料なのですが、さっぱり売れません。国内外のパネルメーカーに売り込んでも、未知の商品で相手にしてもらえません。そこで、国際的な展示会に出展することにしました。それまでも、展示会に出展したことはありましたが、来客者は少なく効果は疑問です。主催者に相談すると展示会でも来客者の多い場所があり、メイン通路近くやブランド企業横が一等地といいます。当然、そこへの出展料は割高に設定されています。覚悟を決めて割高の一等地を確保し、ド派手なPRを実施しました。お金で一等地を買ったのです。結果、来訪者が増え、そこからビジネスが始まりました。
モノやサービスを一等地に置くことを「プレイス戦略」と言います。顧客の目に触れるところ、売れるところに商品を置くことは、発売当初において商品力以上に重要です。その後継続して売れるかどうかは、モノやサービスの差別化などの商品力が生きてきます。
ハック思考〜最短最速で世界が変わる方法論〜 (NewsPicks Book)
差別化したモノやサービスに対する当事者の説明能力
せっかく差別化したモノやサービスも「差別化した価格」、つまり高く買ってもらわなければ意味がありません。「プレイス戦略」でお客様の目に留まっても、高い金を払う価値を認めてもらわなければなりません。そのために重要なのが、当事者である開発者や営業担当の説明力です。特に法人向けの商売(B to B ビジネス)では、個人向けのように「欲しいから高くても買う」という衝動買いや感覚的な購買はありません。「購入者が納得する」価格提示がなくては、高価格を実現できません。
ここで、私の経験した差別化商品の値決め交渉の例を紹介します。車の安全性を確認するために衝突実験が行われます。車が高速で衝突した時、車体がどう変形破壊するか、搭載したリチウムイオン電池がどう破壊するかなどを確認する実験です。大変な手間と金がかかります。これをコンピューターシミュレーションで置き換えると時間と手間が大幅に省略できます。しかし、電気自動車に搭載されるリチウムイオン電池の破壊挙動は、シミュレーションが困難でした。このシミュレーション技術を開発、自動車会社に売り込みました。自動車会社は、時間と手間、費用が削減できると大歓迎です。
ところが、価格交渉でつまずきました。自社の営業担当は、コストに利益を載せて120万円を提示しました。ところが、自動車会社の購買担当から、価格の根拠を示せと言われ、人件費とスーパーコンピューターの使用料、開発費に管理費と内容を出しました。すると、システムエンジニアの時間単価に工数やコンピューターの使用料など、これまでの実績で80万円と査定され交渉開始です。
これは、そもそも価格交渉の仕方が間違っています。当社の営業が、コストベースで(価格=コスト+利益)価格提示し、顧客とコストの見方を交渉してしまっています。安くなるのは、当然です。(これが、納入先の作戦でしょうが。)
本当のお客様は、自動車会社の開発部門です。交渉相手を代えて、自社の技術開発担当者が、このシミュレーションがいかに難しく、他にない独自の技術であることを自動車会社の開発部門に説明しました。実際に実験したらどれだけの金がかかるか、さらにこのシミュレーションでは実験では分からないことまで分かることがあると力説。「800万円はかかる実験をシミュレーションにより同じデータを得るのに、半分の400万円で済む」と説得。この説明は、購買部でも通り400万円で納入できました。技術者がお客様でプレゼンすると、技術的な面ばかり説明したがりますが、その金銭的な価値について語ることが重要です。特に変動費がゼロに近い、シミュレーションやAIソフトなどは、コストベースの価格提示をしていては、本当に「無料への死の行進」になりかねません。
差別化したモノやサービスについて、当事者である技術者や営業担当は、差別化した価値を説明する能力が必要です。それも代替えのモノやサービスと比較した金銭的な価値が説明できなくてはいけません。その価値がお客様に理解してもらえれば、その価値に応じた価格を受け入れてもらえます。
差別化戦略の価格は、コストベースではなくモノやサービスの価値を顧客に理解してもらい「受け入れ可能な最も高い」ものにすべきです。
まとめ
「差別化」モノやサービスを開発しても、経営学の教科書通りに高い価格で沢山売ることはできません。差別化したものを高価格で売るには、2つのポイントがあります。
① 差別化したモノやサービスを見せる場所を得る
② 差別化したモノやサービスに対する当事者の説明能力
差別化したモノやサービスを顧客の目に触れさせ、理解させるマーケティング力が、差別化を活かすコツです。