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労働生産性の低い日本の飲食業。やはり「規模が小さい」(日本の生産性20)

2024/02/06
 
日本の飲食街
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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。

労働生産性の低い日本の飲食業。やはり「規模が小さい」

 

日本の飲食業の労働生産性の実態。そもそも飲食店が多過ぎる?

東京のレストラン数は、パリの4倍の14万8千店で世界1位。バーが2万9千軒で、こちらも1位です。(参考 : 世界の都市ミシュランの星獲得数ランキング(2019年度版) / 世界主要都市・バーの多い都市ランキング)このデータは、日本の食文化が、いかに充実しているかを示すものとして扱われています。しかし、いつも労働生産性を気にしている者からすれば、ぞっとする数字です。食べる人に対して店が多いということは、1店あたりの仕事量(売上)が低いということです。これだけでも、日本の労働生産性の低さを暗示しています。

日本には、飲食店が67万店、働く人が440万人います。(フードビジネス研究所データ2018年による)やや古い数字ですが、厚生労働省が平成22年に出した「飲食店営業(料理店)の実態と 経営改善の方策」によれば(図3)、店舗当たりの従業員は、4人以下が36.8%、9人以下で67%を占めます。多くが、零細な店であることが分かります。

1飲食店当たりの従業員数

Number of employees per restaurant in Japan

Statista社の統計では、2018年の米国レストラン数は66万店、従業員は1500万人です。統計の取り方に差があるかもしれませんが、米国と日本とほぼ同じ店の数です。1店舗当たりの従業員数でみると、3.4倍規模の差があります。確かに、米国の飲食店に入ると、店の大きさに驚きます。フランチャイズではない個人営業店でも、間口が狭い割りに奥行きが結構座席数が多いことに気づきます。(感覚的な話ですが)

実は、東京の飲食店がパリより多い訳があります。日本で飲食店を開業するのに、接客を伴わなければ、許可はいりません。ところが、欧州の多くの国では、アルコール類を提供する飲食店開業は許可制で、営業権を取得する必要があります。パリやロンドンの営業権は、高額で簡単には入手できない事情があります。(JETRO資料より)これも、欧州に比べて、日本の飲食店数を多くしている理由の1つです。

日米の飲食店従業員の時給比較

数値で見る限り、飲食業も規模が労働生産性と強く関係しています。Statista社のデータによれば、2018年の米国レストラン従業員の平均時給は21.92ドル(1ドル105円として2616円)です。飲食店.comのHPによれば、東京の飲食店従業員の平均時給は、2018年で1019円。米国のレストランで出される料理の量はともかくとして、大雑把な味と雑なサービスは、褒めれたものではありませんが、時給で見る限り労働生産性は、日本の2倍です。

競争が激しく起業、廃業が多い飲食業界の労働生産性

そもそも飲食業は、労働生産性を議論する前に、廃業の多さが目立ちます。最近コロナ禍で飲食店経営の難しさが話題になっていますが、コロナ禍がなくても業種別の廃業率の高いことを統計が示しています。例えば、日本政策金融公庫総合研究所 深沼光、田原宏氏の論文「2011年開業企業を追跡した『新規開業パネル調査』の概要」の図2にデータがあります。論文によれば、2011年から2015年における全業種の廃業率平均が10.2%であるのに対し、飲食店・宿泊業の廃業率が最も高く18.9%です。

業界別廃業社数

Business closure rate by industry in Japan (2015)

2019年の飲食業の市場規模は、25.7兆円。外食産業のトップ10の売上合計は、2.5兆円(全体の10%弱)で、他の産業と比較すると、低い数字です。つまり、飲食産業とは、極めて多くの競争者がいて、起業、廃業の多い業界なのです。

経済の原理に従えば、規模の小さい労働生産性の低い店から淘汰されるはずです。しかし、現実の店の繁盛は、立地、味、サービス、価格、競合店、評判(ネット情報も含め)などの影響を強く受けます。(今は、コロナ影響が最大ですが)また、競合は、同業の飲食店だけでなく、コンビニやスーパーの惣菜もあります。日本の利用者が飲食店に求める味のレベルは高く、提供価格は低く抑える必要があります。

飲食業界では、大手でさえ倒産や統廃合があります。常に環境の変化に対して、対応する経営がもとめられるのです。一方、小さくても長く営業している店があります。馴染みの固定客がいる、老舗としてブランドなどが経営の基盤となっています。しかし、そんな店の多くは、従業員が夫婦だけとか、夫婦に1,2人のアルバイトといった場合が多いようです。このような店では、自分たちの給料を正当に計算していません。店と自宅が共用であれば、家賃負担も少なくて済みます。加えて零細業者としての公的優遇策があります。これが、労働生産性低くても経営が続けられるからくりです。

飲食業は、起業し易いかわりに、競争が激しい業界です。労働生産性が低く、廃業するか、家族従業員やアルバイトで人件費を抑えこんで存続させる事になり易いのです。

まとめ:飲食業は、激戦区、経営力がいる。

飲食店は、単においしくて、良質なサービスだけでは、生き残れません。一方で、ストーリー性のある店、ネットで評判になった店など、経営者のアイデアと努力で成功した事例が沢山あります。お客さんに来てもらえれば、労働生産性が上がり、より利益を生むのは、これまで書いてきた記事の通りです。日本には、開業に制約のないこともあり、飲食業界には競合がひしめき、コンビニやスーパーの総菜とも競合しています。ここで、成功するには、味とサービスに加え経営力が極めて重要です。開店直後は、行列ができていたのに、いつの間にか消えている居酒屋。流行っていることを理由に、従業員やアルバイトに低賃金で長時間労働を強いるような業界ではいけないと思います。お客様の満足する高い品質の料理とサービス、それでいて従業員の収入も多い経営を貪欲に追及していきたいものです。

参考記事:目を覆いたくなる、日本の低い労働生産性の現実

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長年、大手鉄鋼会社及び関連企業、米国鉄鋼会社に勤務。仕事のテーマは、一貫して生産性の向上。生産部門、開発部門、管理部門、経営部門において活動。何事につけても「改革しよう」が、口癖。日本経営士会会員。 趣味:市民レベルのレガッタ、ゴルフ。
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