目を覆いたくなる、日本の低い労働生産性の現実(日本の生産性2)
目を覆いたくなる、日本の日本の低い労働生産性の現実
日本の低い労働生産性の現実は、「能率の悪い職場」と「仕事の無い職場」
毎年、OECDや役所から世界の労働生産性ランキングが発表されるたびに、日本が低位であることが、話題になります。このことは、10年以上にわたり報道されてきましたが、問題点として議論が盛り上がったような記憶がありません。(もちろん、専門家や役所のリポートでは、大きく取り上げれています。)経済に関しては、四半期ごとのGDPの成長率、日銀の景気指数の方が、はるかに世間の関心が高く、日本の労働生産性問題が低いことが深堀りされることは、ほとんどありません。
日本は、労働生産性が低くても、主要国では人口が多いことで、GDP世界3位を維持しています。そんな「経済大国神話」が生きているのか、一人当たりのGDPが低いことや、その値が過去20年間ほとんど伸びていないことを経済や社会の問題として、活発に議論されたことが、ほとんどありません。
経産省や日本生産性本部から出される報告書には、日本の労働生産性に関するデータが公表され、その低さが問題として取り上げれています。残念ながら、データはあるのですが、その分析と解釈が十分だとは、言い難いようです。報告書には、現場の事例紹介も付いていますが、労働生産性を改善した例ばかりで、ダメな例、どうしようもない例が、紹介されることはありません。
そんな中、一石を投じているのが、D・アトキンソン氏の企業規模から見た日本の低労働生産性の説明です。アトキンソン氏は、その著書「日本企業の勝算」(東洋経済新聞社)で、労働生産性の重要性を指摘しています。また、企業規模と労働生産性に注目、各国を比較して、企業規模が大きい程労働生産性が高いと結論付けています。日本の労働生産性の低さを、サービス過剰とか、特異な文化に理由を求めるより、他の先進国に比べ企業規模が小さいことを理由にする方が、はるかに合理性を持っています。
まず、以下に日本の労働生産性の実態を表しているような例を2つ出します。
労働生産性の低い役所(繋がっていないシステムの例)
日本の企業や役所のオフィスでは、事務処理がシステム化しているようで、実際はワープロ化しているだけの職場を多く見かけます。また、せっかくシステム化していても、ベテランの社員や管理職が、長時間かけて入力しており、挙句の果てに入力だけの為に派遣社員を雇うことになった職場も見かけます。
先日、役所にある申請に行きました。申請書類は、エクセルで作ったのでしょうか、きれいにフォーマット化されています。これに、申請者が手書きで必要事項を記入し、ハンコを押して窓口に提出しました。窓口では、本人証明用として出した運転免許所の名前、住所、生年月日と記載事項を照合します。そこで担当者は、おもむろにメインコンピューターを開いて、申請書類の名前とメインコンピューターの表示内容を照合、それからいよいよ申請書類の必要事項を申請用のコンピューター画面に入力し始めました。もちろん入力後に申請書類と入力内容とに齟齬がないことをチェックします。このあとご丁寧に、申請書をコピーして、役所の受付完了の日付つきハンコを押して返してくれました。この間、20分程。完璧に準備して、間違いのない申請書類を事前に準備してこの時間です。もし、申請書類や添付書類に不備や間違いがあれば、たちまち倍の時間がかかります。窓口の人は、おどろくほど親切丁寧に仕事をされていますが、私の後ろに並んでいる人のイライラは溜まるばかりでした。
申請の種類によっては、役所のホームページから申請書類をダウンロードすることができます。所定のエクセルシートに直接データを打ち込んでも、ほとんどの場合、役所はデジタルデータを受け付けてくれません。プリントアウトした紙にハンコを押して、窓口に提出しなくてはなりません。なんのことはない、役所で直接申請用紙をもらいに行かなくてもいいだけです。
最近、RPA(Robotic Process Automation)とういう、一連のシステム作業を連動するロボットシステムが実用化されていますが、役所の現実はそれ以前の課題で止まっています。
お客が来ない商店(生産の無い、労働生産性の例)
労働生産性とは、生産があっての指数です。お客が来ない、つまり生産がない所に労働生産性の議論は、成立しません。もちろん生産が無い、言い換えると売上げ無しでは、企業が存続できません。最低限、何らかのモノやサービスの提供はしているのでしょうが、そんな職場では、そもそも労働生産性を議論することができません。
うちの近所の酒屋さん。戦後すぐに商売を始めて、現在は2代目、夫婦でやっておられます。高度成長期は、売り上げを伸ばし、羽振りが良かったのですが、今は、スーパーやコンビニで酒を買うようになって売上が下がりました。飲食店向けも競争が激しく、じり貧状況。最近は、コロナ禍で致命的な売上減に見舞われています。忙しい時には、アルバイトを雇ったり、土日に会社員の息子に手伝わせたりしたのですが、今は必要なしです。昼間は、ほとんど仕事がありません。それでも、夕方になると電話やファックスで付き合いの長い飲食店などから注文があり、配達に追われて夕食の時間が、遅くなることもあります。店の前には、酒の自動販売機を設置しました。副業に、得意先向けに食材の宅配サービスを始めていますが、売り上げ増には、程遠い状況です。同業者には、コンビニになったところや廃業したところもあります。店主は、「時代に乗り遅れたのか」と思いつつ、とにかく働く体力があるうちは、店を続けたいと思っています。
2つの例は、日本の労働生産性問題を示す典型的な例です。「役所の事務処理」の例は、大きな組織である役所や大企業の事務処理業務で見られる低い労働生産性の実態です。「お客が来ない商店」は、小規模事業者の実態です。低労働生産性は、そもそも仕事不足(売上不足)からきています。
まとめ:まず仕事がなければ、労働生産性は向上しない
日本の低い労働生産性の問題を議論すると、「役所の事務処理」のようなところばかりに目が行きます。日本生産性本部などでは、労働生産性向上に力を入れ、改善事例も沢山紹介されています。それらの事例は、仕事をうまく処理することに成功したことが中心で、仕事を増やすことは、労働生産性と切り離されています。労働生産性を上げるには、仕事を能率良くやることとは、もちろんですが、そもそも仕事が十分あることが、もっと重要です。
参考記事:労働生産性の低い日本の飲食業。やはり「規模が小さい」