「合成の誤謬」を回避して、それぞれが「頑張ったら報われる仕組み」とは
「合成の誤謬」を回避して、それぞれが「頑張ったら報われる仕組み」とは
「合成の誤謬」を回避して、それぞれが「頑張ったら報われる仕組み」にする3つのステップ
「皆が勝手に自分の儲けを追及すれば、社会全体として経済が発展する」
これは、資本主義の基本的な原理です。旧ソ連は、これを否定し、
「国が経済を統制すれば、無駄なく発展する」
という社会主義の国でした。ところが、この体制は「国民みずから努力する」というモチベーションを奪ってしまい、結果的に経済が停滞して国家は崩壊しまいました。冷戦終了後、東西ドイツが統合された後、社会主義に慣れた旧東ドイツ人の労働意欲の低さが問題になっていたことがあります。(参考記事:石井聡著「もう一つの経済システム:東ドイツ計画経済下 の企業と労働者」)
しかし、資本主義は、大きな景気の変動や格差を生み出すことも事実です。更に皆が自分を守るために徹底した節約をすれば、国全体として需要不足の不況になります。これは、「合成の誤謬」と呼ばれる現象です。江戸時代に度々出された「倹約令」は、皆が倹約することで巷に不景気を作りました。
「合成の誤謬」とは、ある行動や決定が部分的には合理的であると見えても全体としては非効率になり得るということです。この概念は、経済学や意思決定の際の問題として捉えられています。
資本主義的のメリットである「頑張ったら報われる」というモチベーションを活かしながら、デメリットである「合成の誤謬」を回避することが、国家運営はもとより、企業経営、職場管理など組織運営において重要です。
「頑張ったら報われる」というモチベーションを活かして、会社全体を良くする3つのステップがあります。
1)社員のモチベーションを上げる仕組み作り
2)「合成の誤謬」を回避する仕組み作り
3)全体の成果に対する個人やチームの貢献度を示す
これらのことで、「個人やチームの欲望」から生まれるモチベーションを活かしながらも「合成の誤謬」を回避し、企業全体の生産性向上が期待できます。
社員のモチベーションを上げる仕組み作り
資本主義的な考え方で、人を頑張らせるための最大の報酬は、金銭を得ることです。「頑張ったら報われる」ことが分かっていれば、モチベーションが上がります。まずは、社員のモチベーションを上げる仕組みを作ることが重要です。
企業内で個人が努力したことを直接報酬に反映させるのが、歩合給や能率給と言われる方法です。個人で評価されることもあれば、チームとして評価する方法もあります。目の前に人参をぶら下げるようなやり方です。営業職における、契約数や売上金額に比例した給与体系がこれに当たります。また、製造部門では生産量に応じた給料、研究職では取得した特許や開発した製品の売上額に応じた報酬を採用している企業もあります。どの程度、成果を給与に反映させかは、各企業が知恵を絞るところです。「成果主義」と言われる人事評価も「頑張ったら報われる」ということを宣言するようなものです。
間接部門や事務職においては、成果を直接的に判定することが難しいのですが、仕事に標準時間や標準レベルを設定することで、成果の評価することができます。
方法は様々ですが、重要なことは、この会社は「頑張ったら報われる」ということが従業員に浸透することです。
ただし、注意すべき点は、個人やチームが頑張って成果がでても、会社全体の業績が低迷していることで、成果に報いることが出来にくいときです。例えば、
「君は頑張って成果を上げても、全社が赤字ならエキストラ報酬はいっさい無し」
といった仕組みになっていると社員のモチベーョンは下がるかも知れません。
「合成の誤謬」を回避する仕組み作り
個人や各チームは、高いモチベーションを持つことで頑張ります。頑張ることで、企業全体が良くなるはずですが、時として「合成の誤謬」が生じ、会社全体として成果が出ないことが起きます。個人や各チームが、報酬を得ようと頑張る際、「合成の誤謬」が生じないようにする必要があります。
「合成の誤謬」を回避する有効な方法が、「全体成果を個人やチームの報酬に反映すること」です。個人やチームの成果が、全体の成果と繋がっていれば評価を上げ、全体成果に悪影響を及ぼすようであれば評価を下げるといったことです。
ある工場で、複数の生産チームが毎月チーム毎に生産量を競っていました。チームの生産量が報酬に反映されているからでした。各チームが生産方法の改善や熟練度向上で生産量を増やし、工場全体としても増産となっていきました。ところが、いつの頃からか生産性が高くなり易い大ロット注文を奪い合う状況が生まれていました。生産性の低下する小ロット受注品は、たとえ納期の迫った注文でも後回しにして、生産性が高くなり易い大ロットを優先して生産するようになっていたのです。こうすることで、大ロットの注文を生産したチームの生産量は上がります。この結果、工場全体として「生産量が多いのに、納期遅れの商品が続出」といった状態に陥りました。そこで、単純な生産量評価から修正生産量評価に変更しました。修正生産量は、注文品の難易度や付加価値を考慮して生産量に係数を掛ける方法です。生産性の悪い商品は、1.2倍といった係数を掛けることで修正しました。この結果、各チームは修正生産量が最大になるように努力し、工場全体としても納期と生産量を向上させることになりました。
この例のように、個人やチームの成績に全体の成果を組み込むことで、「合成の誤謬」を回避、最小化することができます。
全体の成果に対する個人やチームの貢献度を示す
モチベーションを高めるに当たり仕事に対する金銭的報酬は重要ですが、それと同じように会社や顧客に対する貢献度や評価をフィードバックすることも、モチベーションの維持向上に繋がります。
生産現場では、モノづくりの成果が、生産性やコストダウンとして比較的数値化し易く、会社や工場の成果に対する貢献度を知ることができます。
例えば、「チームの生産性が5%向上して、全社で200万円/月のコストダウンに寄与」などと、フィードバックできれば、現場のモチベーションが上がります。
一方、分業化が進んだ企業や工場では、間接部門や事務部門が多く、定量的に貢献度を表せにくいものです。また、工程が複雑な場合では、各担当者は成果物(モノやサービス)がどんな形で顧客に提供されているか、全く知らないということもあります。そんな職場では、意識して各担当者に顧客や次工程の評価を伝えたり、直接会ったりすることがモチベーションを上げることに繋がります。
私の経験ですか、工場で10年以上モノづくりをしている現場作業員が、初めて納品の為にお客様のところへ行き、
「この商品は、あなたが作っておられたのですか。いつもいいものを納めて頂きありがとうございます。」
と声を掛けられ、感動して帰ってきたことがありました。この作業員は、このことをチーム員に話したことで、チーム全体のモチベーションが上がりました。これを聞いた上司が、「もっと早くから、お客様と接点をつくるべきだった」と反省し、その後は定期的に作業者とお客様と接点を持つようにしています。
間接部門や事務職は、仕事の貢献度が見えにくいものです。上司に資料集めを頼まれて、その資料からどんなレポートが生まれ、それが経営者にどう伝わり利用されるか分からないのでは、モチベーションが上がりにくいものです。
数字で評価出来にくい事務職などでも、例えば、
「君の作った資料を見た社長が感心していたよ」
こう伝えるだけで、担当者にとっては励みになります。自分の全体に対する貢献度が分かることで、金銭的な報酬と同等の満足感を得ることができ、モチベーションが維持向上します。
まとめ
「頑張ったら報われる」というモチベーションを活かしながら、デメリットである「合成の誤謬」を回避することが、会社などの組織運営において重要です。
個々人のモチベーションを活かして、会社全体を良くする3つのステップがあります。
1)社員のモチベーションを上げる仕組み作り
2)「合成の誤謬」を回避する仕組み作り
3)全体の成果に対する個人やチームの貢献度を示す
「個人やチームの欲望」から生まれるモチベーションを活かしながらも「合成の誤謬」を回避することで、企業全体の生産性向上が期待できます。